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201310/18

テレビは習慣性が命

氏家さんの「テレビの未来シリーズ」は業界の重鎮自らが発した提言として強いインパクトがありましたね。テレビ局がメディアサービス企業へ進化すべしという考えには私もかなりの部分でAgreeです。インターネットを日常の道具としているユーザーにはテレビに新しい機能が欲しいのは確かです。私が敢えてそれに付け加えるとするならば、「それでもリアルタイム放送である」ことがテレビというメディアの本質的な価値であるという点です。

 

見るものが無くてもスイッチを入れる。そして、じっくり見る見ないに拘わらず時間とともに番組が流れ続ける。その時間に最適な番組が流れ、生活に密着した時計代わりにもなっている。これが従来のテレビ像でした。平均的な家庭での生活リズムを想定した最大公約数的な編成ですね。
それがそのまま現代に当てはまるかといえば、かなり無理が出てきているのは確かです。
日が昇ると起床し、日が沈むと家に帰るという時代はとっくに終わっていますが、そもそも都市部と農村では生活時間が大きく異なります。ゴールデンがゴールデンであるのは一部の人だけではないでしょうか。ましてや様々な職業や生活習慣があり、価値観も様々。同じ時間に同じものを見る確率は下がっていることでしょう。
だからこそ、氏家さんが提示されているようにテレビ局はサービス企業へと進化し、様々なニーズに応えていくという姿勢は必要だと思います。そうしなければ生き残れないという危機意識は大いにあります。しかし、あくまでもそれはテレビの補完的な意味合いであって、メディアとしての本質は別のところにあるというのが私の考えです。

 

私の考えるテレビメディアの定義は以下の通りです。

 

① 習慣性のメディアである
② 広告モデルの無料メディアである
③ コンテンツではなく番組である
④ 共有性

 

目的の番組を見るためにテレビを見ることはそれなりにあるでしょう。しかし、基本的にはテレビは習慣としてスイッチを入れるもの。生活習慣になっているからこそテレビメディアとしての価値があると思うのです。
24時間流れる川には上流からいろんなものが流れてきます。たまたまそこに居合わせたものを見ているのです。すると、時々自分の知らないものが流れてきて発見があり、興味を持つこともあります。目的のものが流れてくるのがわかっていて待ち伏せすることもあります。大きな桃が流れてくるという噂を聞けばみんなで一斉に待ち伏せして桃について語ります。
そういう点で、番組をコンテンツと呼ぶのは疑問です。あくまで時間軸に沿ったプログラム(番組)であって、独立した映画のようなコンテンツとはニュアンスが違うと思います。コンテンツはプラットフォームに対する中身のことを指します。独立してお金が取れるものはコンテンツと呼べるでしょうが、テレビにおけるそれはドラマとプラスαだけではないでしょうか。ドラマですら、毎週分割して放送することによる習慣性の「番組」なんじゃないかぁと思う今日この頃です。人気だった「あまちゃん」を日曜日の総集編で見ても、何か違うなぁって思うのは毎日15分の習慣の積み重ねであって1本の完結したコンテンツでは無いのかなってことなんです。そこがインターネット動画とは決定的に違うところであると思うのです。

 

更にテレビは無料であることが視聴態度を決めていると思います。無料だから無責任に見て、見なくてもそれほど悔しくなくて、いつでも参加していつでも離脱できるんです。よくネットはリーンフォワード、テレビはリーンバックって言いますけど、受け身だからという要素以外に無料である事が大きいのではないでしょうか。オンデマンドで有料だったら元を取らないといけないのでリーンフォワードになっちゃいます(笑)

 

もし、今のテレビ番組が全部オンデマンドになったらどうでしょうか?あるいは全録機で見ると想定しても良いです。オンデマンドになった瞬間に、テレビは積極視聴に変わり、時間を割かれる存在になるのです。時間を割かれるのはお金を払うのと同じく、リーンフォワードになりますね。時間を割いてまで見るとなると中身に対する評価も厳しくなり、一瞬見て面白くないと判断するとすぐに飛ばしたりやめたりしてしまいます。リアルタイム放送だとそうしないですよね。消去法で選んだチャンネルに合わせて点けっぱなしにするはずです。テレビに向き合う態度が違うんですね。
たとえ見たい番組が見つかったとしても、オンデマンドはいつでも見ることができるわけですから、今見なくても良いということになります。今見なくても良いものは、明日になってみると、また今日は見なくても良いということになりませんか?つまり、いつでも見られるからずっと見なくて良いということに他なりません。

 

ネット事業者から見ればテレビ番組をオンデマンドで配信したいのはよく理解できます。ネット事業者から見れば「番組」は優良な「コンテンツ」になるからです。しかし現実には、もし全ての番組がオンデマンドになってもあまり見られないはずです。現状のオンデマンド配信は視聴者の何%が利用しているのでしょうか。酷な言い方をしてしまえば、お金を出してまで追いかけたい番組はそれほど多くはないということであり、同時性・受動性・共有性の方が視聴に至らせる要因として大きいのだということです。人気ドラマが更に視聴率を押し上げる現象は、友人と話題を共有したいからに他ならないと、敢えて言い切ってしまいましょう。(中身が良いことが前提ですが)

 

テレビの見方が変わった。録画して後で見る「タイムシフト」だけでなく、携帯端末を使って外で見る「プレースシフト」が盛んに行われる。美味しい部分だけのつまみ食い、加工して動画共有サイトへアップするなど、テレビ番組は制作者の狙いとはかけ離れた見方をされており、遊びの素材になっている。志村さんのおっしゃるPlayですね。それだけでなく、番組はソーシャルメディアの恰好のネタ。かつてテレビ番組の話題は翌日のネタだった。共有といえば、テレビが元々持っていた特性。出演者との共有、家族との共有、全国の視聴者との共有。時代が求めている次の共有は、気の合う仲間同士での共有。テレビの価値向上に必要なのは番組の持つ本来の「共有」という財産をもっと生かすことであると思うのです。Twitterなどを使うのもその一要素です。

 

テレビはそもそも生番組が原点でした。家にテレビという社会の窓ができ、カメラの向こうにいる出演者と同じ時間を共有し、全国の同じ番組を見ている視聴者と時間を共有する。今や生番組は珍しくなりましたが、収録番組であっても同時に同じ番組を見るという共有性は変わりません。そういう点でもコンテンツより番組という言い方の方がふさわしいと思うのです。

 

ある種こういう考え方はできませんか?
リアルタイム放送はフリーミアム。より深くじっくり見たい場合はお金払って何度でも見てね。また、気になる商品があったらここから買ってね・・・
ここで言うお金払って(時間割いて)見る機能や購入できたりする機能を提供することが、テレビ局が「メディアサービス企業」になることなのかもしれません。

 

志村さんのPlayするテレビも同意する点が多いですが、Playは気ままな行動であって、けして習慣にはならないと思うのですが、いかがでしょうか。
まあ問題は、若者がテレビのスイッチを入れる習慣そのものが無くなりつつあるという事に尽きるのでしょうね。つまり、習慣性を取り戻すことがテレビの生きる道の大切な要素であると思う訳です。

 

長年テレビ業界でやってこられた氏家社長からはかなりネット寄りの提言があり、逆に創世記からネットにどっぷり浸ってきた私が、テレビ本来の良さを主張する。面白いですね。

 

 

 

今谷秀和 プロフィール
建築士、インテリアデザイナーとして活躍した後、1990年電通入社。
プロモーション、イベント、空間開発の後、デジタルビジネス系で13年間。
現在電通関西支社 テレビ局 局次長

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