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20125/2

5・2【マルチスクリーン型テレビ論 その2 ~メディアは習慣~】今谷秀和

 

マルチスクリーンという言葉が急に賑やかになってきました。
スマートテレビは一体型・一画面方式よりもマルチスクリーン型の方が現実的であると認識されつつあるようです。今さらテレビを買い替えるよりも、既に普及したスマートデバイスを既存のテレビと連動させるだけですから。
理由はそれだけではありません。テレビは家族の中心に据える共通の「家電」。ネット接続して個人が趣くままにやりたいことをやるのが携帯端末。家族共通のテレビ画面でパーソナルな活動をすること自体無理があると思うのです。テレビを中心に据えて共通の「番組」を見ながらも、手元の携帯端末でそれぞれの活動をする。これが広義のスマートテレビの姿であると。もはや全ての人を同じ土俵で楽しませる番組の存在自体難しい時代ですから。

実は既にマルチスクリーンは始まっています。
米国では昨年あたりから番組に連動して楽しませるスマートデバイスのアプリが急速に普及しています。”Into_Now”をはじめとして、テレビの音声をデバイスに聴かせて観ている番組を判定し、番組の進行に同期するコンテンツをネット経由で表示するというアプリが続々と登場しています。GPSを活用して、「今このお店にいますよ」と宣言するのを「チェックイン」と言いましたが、これのテレビ版ですね。「今この番組を観てますよ」とチェックインすることで様々なメリットを提供して番組の価値、CMの価値を向上させることを狙っています。
また、チェックインしている視聴者同士でTwitterやFacebookで盛り上がれる仕掛けも搭載されています。目の前の家族だけではなく、離れた場所にいる友人とも一緒に盛り上がる訳です。こういった視聴方法を「ソーシャルビューイング」と呼ぶのですが、テレビ業界にとってはこのソーシャルビューイングがテレビ視聴を促進する一つの強力な武器として注目されているのです。
実際、米国で最大のキラーコンテンツであるスーパーボウルでは60%の視聴者がスマートデバイスを片手に観戦しているというデータもあるようです。

日本でも番組単位では様々な試みが行われています。昨年の世界水泳・世界陸上も専用アプリを配布してチェックイン機能を提供し、応援メッセージを送ったり、Twitter・Facebookと連動して口コミを発生させたりすることができました。チェックインすることでプレゼントキャンペーンに応募できるようにするなどスポンサーへのメリットも提供しています。
TBSが3月に放送したソニー1社提供番組「Make TV」ではソニーのアプリで生番組にリアルタイムで参加できるというもの。自分の操作が番組自体に影響を与え変化するというのは初めての事例ではないでしょうか。
日テレも3月に画期的な実験放送を行いました。「JoiNTV」という仕掛けです。iConという関東ローカルの深夜番組で行いました。
既存のデータ放送にFacebookのAPIを組み込み、普通のテレビ画面にFacebook上の友達アイコンを表示、友達と一緒に同じ番組を観ているという一体感を表現できています。まさしくソーシャルテレビですね。それだけではなく、普通のテレビリモコンの青ボタンが「いいね!」に充てられ、面白いと思ったシーンで青ボタンを押すと、自分のウォールにその一部シーンが切り取られて表示されるという画期的な試みがなされています。
何より、既に普及を終えたデジタルテレビは国内に1億台あるんですよ!
閉鎖的な言語だと評判の良くないBMLで記述されたデータ放送をこのようにうまく活用して事実上のスマートテレビを実現してしまったわけですからね。

一方で、マルチスクリーン側で最も見たいコンテンツは何かと言えば番組本編だったりします。テレビの視聴時間の減少、若者のテレビ離れと言いますが、その原因は何かと言われれば、番組の質の問題を別にすれば、リビングの大型テレビの前にはじっとしていられない、その一言に尽きる訳です。私のようなテレビ世代でさえも、家にいてじっくりテレビを見る時間などほとんどありません。インターネットにつないで趣味の人たちとの交流をしたり、Facebookのコメントをチェックしたり、週末に飲むワインを買うために評判を調べたり・・・やることは山積みです。ましてや若者はそもそも家にいない!テレビを見たくないのではなく、見る時間が無いのです。
それでは手元にあるスマホやタブレットで普通にテレビを視聴できるとなればどうでしょうか。WiFi環境にいれば放送が受信できるというのはありそうで無かった技術。録画した番組を別室で視聴できるものはありました。しかし、ここにきてハードメーカーが動き出しました。最初に出してきたのはソフトバンクBBの「デジタルTVチューナー」(ピクセラ製)、その後アイ・オー・データからテレビチューナー付WiFiルータ、そしてついにPanasonicからWiFi対応VIERAが。それぞれ普通の放送を受信した後にエンコードし直してWiFiで転送する技術なのですが、仕組みの違いはともかくこれはテレビにとっては光明ではないかと思うのです。
ワンセグとどう違うのか?という質問が飛んできそうですが、ワンセグは端末に専用チューナーが必要ですよね。iPhoneが日本仕様に搭載することは考えられません。しかも小さくて画質も良くない。室内やビルの谷間には滅法弱いです。その点、WiFiは今やどこにでも飛んでいます。そして端末を選ばないのが最大のメリット。何よりテレビは屋外を歩きながら見ることはない!室内向けのメディアなのです。
寝室であれ、トイレであれ、手元でテレビを見ることができるなら多少なりとも見るのではないか?コンテンツ論の前に、インフラ論なのです。

さて、テレビにとってマルチスクリーンがどのような効果をもたらすのかまとめてみますと、①:番組に連動して付加価値を向上させる、②:番組とは別の収益源を上げる、③:視聴できる端末の数を増やし媒体価値を向上させる、この3つに集約できます。
①:番組起点でネット検索することや、ソーシャルメディアで語り合うことは今や常識。しかしそれはユーザーが勝手にやっていることであってテレビ局サイドへのフィードバックはありません。しかも面倒な動作はスキルの高い人しかやりません。この現象をテレビ局側が自ら活用すればどうなるでしょうか。番組の付加価値を上げて視聴率向上に寄与できるのかもしれません。全く新しい概念の番組が生まれる可能性もあります。
②:番組をネタにしてモノを売っているウェブ事業者が続出しています。コバンザメ商法のこの事業者たちを敵とみなすのかどうか。彼らを仲間に入れてしまうという発想もありますよね。仲間になればテレビを一緒に盛り上げてくれる可能性が高いです。
③:プレイスシフトで視聴できる環境を作ることはテレビにとっての媒体価値向上の近道。ネットにつながった端末が全てテレビ受像機になる。これは大変大きな出来事ではありませんか?全てのネット端末をラジオ受信機にしたradiko。ラジオというメディアを最新のメディアに変えたことは記憶に新しいですね。
課題はそれを視聴率とは違うメディアの価値指標としてカウントすることが重要。

いずれにせよ、視聴者が喜んで活用してくれて、習慣として定着してくれるか、それが一番大切なことです。メディアは習慣なのです。

まだまだ言いたいことはありますが、今回はこの辺で。

 

 

今谷秀和 プロフィール

建築士、インテリアデザイナーとして活躍した後、1990年電通入社。
プロモーション、イベント、空間開発の後、デジタルビジネス系で13年間。
現在電通関西支社 テレビ局 局次長

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