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20138/31

テレビの未来④:[いつでも視聴]×[どこでも視聴]の衝撃・後編

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“見逃し視聴サービス”で、テレビは劇的進化を遂げる

 

見逃しVODサービスは、すでに実施しているテレビ局もあるし、近年、かなりの成長ぶりをみせていると聞く。ただしこれは有料サービスだ。
今回提案するのは、ガラポンTVの技術を利用して行う有料の見逃し配信サービスのことだ。
このサービスはテレビ局単独でやっても成果は少ない。民放キー局5局と電通が共同で推進するテレビ向けVODサービスである「もっとTV」のようにテレビ局連合を形成するのが必要条件になる。

 

このテレビ局連合による共同企業体がガラポンTVのハードウエアやソフトウエアサービスを利用し、簡易型全録機を、月額有料で利用者にレンタルするのだ。レンタルとはいっても、利用者は録画機を自宅に置かず共同企業体に預けてしまう。ガラポンTVは視聴などの操作は全てインターネット経由でスマホなどのデバイスで行うので、録画機自体に触れる必要はない。つまり自宅に置く必要がないのだ。料金は、毎月、低料金の課金とすれば普及は急速に進むだろう。そして利用者は、自分の録画機に蓄積された1週間分の全局の全番組をいつでも、どこでも、ネットにつながるどんなデバイスでも視聴できる。一種のクラウドサービスだ。

 

現在、テレビ局が提供している見逃しVODサービスは、見逃してしまった番組だけをVODで配信するものだが、このサービスは1週間以内なら、どの局の、どんな番組でも、視聴できるのだ。 かつて違法とされた「まねきTV」と同様のサービスだが、権利者であるテレビ局自らが主導して行うこと、また共同企業体からは各テレビ局に売上の何割かを著作権料として支払うことで、違法問題は回避されると同時にマネタイズも実現される。

 

もちろんテレビ各局が現在実施している有料の見逃しVODサービスにはダメージが発生する。いわゆるカニバリズムだ。しかし、録画期間を放送後1週間に限定するなどすれば、ダメージは最小限に抑えられる。この“見逃し視聴サービス”は、このマイナス面を考慮しても、はるかに多くのプラスをテレビにもたらす。

 

前述したように、ガラポンTVには、テレビ離れしたユーザーをリアルタイム視聴に回帰させる効果、CM飛ばしがされにくい効果、CMが飛ばされる通常の録画視聴を減少させる効果という特性がある。この特性を生かした“見逃し視聴サービス”は、テレビ放送というビジネスを再活性化する。このテレビ再活性化のプラスの大きさは、有料VODサービスが被るマイナスをはるかに凌駕するだろう。

 

テレビ局側が何もしなければ、録画機を提供する企業と違法動画サイト業者に、美味しいところを全て持って行かれ、テレビ局が受けるダメージは、巨大な規模になる。一方的にダメージを受けるくらいなら、テレビ局側から打って出るべきではないか。

 

これまでは、TwitterやFacebookでテレビ番組が話題になっても、録画していない限り見ることはできなかった。話題のドラマも初回を見逃したり、途中1回分を見逃したら、もう見なくていいとあきらめてしまった経験、録画し忘れたり、仕事が長引いて放送時間に間に合わず、お目当ての番組が見られない経験などが重なり、テレビから離れてしまったユーザーは決して少なくはないだろう。何しろユーザーにはテレビ以外にも楽しめるサービスは他にいくつもあるのだから。

 

ところが、この“見逃し視聴サービス”は、いつも持ち歩いているスマホやタブレットやパソコンで、自宅ではもちろん、トイレでも風呂場でも自室でも、通勤通学の途中や、仕事の合間に入った喫茶店でも、1週間以内に放送されたものなら、どの局のどの番組でも見られるのだ。これまでにありそうでなかった、画期的なサービスだ。

 

さらに利用者が増えれば、ユーザーの視聴ログデータから、番組視聴行動の分析調査が可能になる。放送とは異なり通信での番組視聴では、どのような属性のユーザーが、どの番組をどのように見たかなど、非常に細かなデータを取得することができる。これを利用すれば、番組のどこで視聴をやめたか等のデータを得られ、番組制作や企画に活用できる。
旅行番組を好んで見る人、ゴルフ番組の視聴が多い人など、趣味嗜好に合わせてターゲットを絞った新しい広告手法の開発も可能だ。

 

またガラポンTVのサイトでは、ソーシャルメディアと連動させたユーザー同士のレコメンドを表示する機能も装備している。テレビから離れてしまったユーザーに、もう一度、テレビの面白さを体験してもらい、テレビの友達を増やすのだ。

 

ユーザーとなってしまい、テレビと疎遠になってしまった視聴者に、これまでにないUI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)を提供できるようになる。これによってテレビそのものが活性化されることが、実はこのサービスの最も大きな効果なのだ。(※ UIとUXについては次回以降に触れる)
不便で、時代遅れで、ダサいと思われているテレビが、一気に最新のネットサービス並みの利便性を提供するクールなサービスに生まれ変わる。
テレビ放送というサービスは、劇的な進化を遂げることになるのだ。

次回の『テレビの未来⑤』では、メタデータ・プラットフォームについて述べます。

 

 

 

氏家夏彦プロフィール 株式会社TBSメディア総合研究所 代表取締役社長 テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビの明るい未来を探っています。 1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ番組・ワイドショー・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。 Facebook、Twitter(natsu30)やってます。

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