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20138/28

テレビの未来①…テレビは不便で時代遅れのサービスだ

ジャーナリストの佐々木俊尚氏は最新の著書『[amazon_link id=”414088410X” target=”_blank” ]レイヤー化する世界[/amazon_link]』で、「コンピュータとインターネットによる第三の産業革命が進行していくと、ウチとソトという区分けは意味がありません。インターネットによってただひとつの<場>のようなものがつくられ、その<場>はインターネットに接続している限り全ての人びとに開放され、無限の広がりを持つからです。その<場>では、かつてウチだった人たちは優位性をなくし、ソトだった人たちは前より活躍できるようになります。強かったウチと、弱かったソトが、ガラガラポンと混ぜなおされるのがインターネットの<場>なのです。」と、現在の世界を表現している。
この「内側と外側の区分けは無意味になる」という概念は、テレビの未来を考察する上で、重要なカギになる。

 

テレビは放送免許による制約はあるものの、競争相手がごく少数に限定されるという極めて優遇された環境、言わば「テレビの壁」の内側にいることで、メディアの王者として君臨してきた。しかしインターネットとソーシャルメディアの爆発的普及と、デバイスの多様化と進化、それに通信速度の高速化によって、テレビの壁の外側でも、放送を脅かすような動画コンテンツの新たな流通経路が誕生し、急拡大している。

 

これまでもテレビの壁を乗り越えて内側に侵蝕しようとする試みは様々なされてきたが、テレビの強大な影響力でそれを排除してきた。
テレビ広告という極めて効率的で完成度の高いビジネスモデルを少しでも毀損するものは徹底的に排除するというのが、テレビ局経営者の重要な責務だったし、既得権益を囲い込んで守るというのが、とても正しい企業判断だった。

 

しかしテレビの外側に誕生した新たな領域は、テレビの壁に守られた内側の特権的領域とは関係なく、テレビ側のコントロールが効かない新たな市場として急速に成長している。
さらに、この外側で育ちつつある新たな領域は、インターネットの、いつでも、どこでも、だれにでも浸透してゆく特性で、テレビの壁を乗り越え通り抜け、内側に侵蝕している。

 

テレビ広告費はピーク時の2兆円から5年間で1割以上減少した。視聴率も、在京キー局の年度平均視聴率合計を見ると、7年間でプライムタイムが9.6%減った。減少率は実に−15.6%を超える。この減少率で換算すると、7年前の20%は16.8%に、15%は12.6%になる。何となく今の視聴率の実感と合うのではないだろうか。広告費の減少は底を打ったように見えるが、視聴率は低下を続けている。

 

半世紀以上もの間、テレビ業界を守ってきたテレビの壁が崩壊し始めているのだ。それを一気に加速させるのがスマートテレビだ。

 

スマートテレビは、テレビ放送からインターネットサイトへシームレスに移行できる。これは地上波放送がデジタル化(地デジ化)した際、コントローラーにBSボタンやCSボタンが装備され、結果、BS放送などの視聴が一気に拡大したのと同様だ。地上波テレビにとっては大きなマイナス効果となる。一方、地上波テレビのリアルタイム視聴と同期した新たなインターネットサービスが可能になる。既に、テレビとソーシャルメディアとを連動させたソーシャルテレビという視聴形態も普及しつつあり、リアルタイム視聴が促進されるプラス効果もある。

 

スマートテレビによる変化はテレビにとって、プラスもマイナスもあるが、この変化を止められない以上、マイナス面をだけを拒絶することはできない。しかもプラスのはずのソーシャルテレビで、新たな利益を生み出す方法は未だに見いだされていない。
それなら動かずに状況を見極め、冒険や実験は他局にまかせ、成功例だけを模倣するという選択肢もある。しかし先進的な局に追いつく間に、視聴者、ユーザー、株主からは見捨てられ、時代から取り残され淘汰されるだけだ。

 

シリーズ『テレビの未来』の第1回目は、現状認識だけで終わってしまった。次回の『テレビの未来』②は、冒頭に書いた、「テレビは不便で時代遅れのサービスになっている」ことについて述べる。

 

 

 

氏家夏彦プロフィール
株式会社TBSメディア総合研究所 代表取締役社長
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビの明るい未来を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ番組・ワイドショー・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。
最近はテレビの外の人たちとの人脈が増えています。
Facebook、Twitter(natsu30)やってます。

 

 

 

 

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