あやぶろ/OLD

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20132/22

● ごぶさたしております―エアあやとりなコンテンツ論ー(河尻亨一)

★ただただ恐縮です★

長らくごぶさたしてしまいました。待たれてもいないと思いますが、氏家編集長す・み・ま・せ・ん! なぜか毎年、東大寺のお水取りシーズンが近づくとせっせこ書き始め、夏も近づく八十八夜を過ぎる頃には渡り鳥的に消えている身勝手な私です。特に今回は留守の期間が長かったので、あやとり(議論)がどこまで進んだかイマイチ捉えきってないのですが、さすがにそろそろ書かないと「卒業」という名の除名か? という無言のプレッシャーもありますから、今回はリハビリと称して近況報告をかね、空中リプライならぬ空中あやとり、ということでご容赦いただきたく。

ちょっと前の話から始めます。私は昨年5月に地デジ対応テレビジョンを購入したのですが、「MAKE TV」放送後はたまに報道番組を観る程度で、AQUOSがさっそくホコリをかぶっておりました。

しかし、こんな私のような者が最強テレビブログ「あやぶろ」の一員としてその末席を汚していたり、「月刊 ザ・テレビジョンお正月特大号」の取材を受けて現代アイドルについてイージーに語ってしまうのはいかがなものか? ということでボウズにはしないまでも猛省いたしまして、正月近辺はかなり集中的にテレビ番組をウオッチしました。ぶっちゃけ年内に積み残した仕事に正月早々着手せねばならない過酷なリアルから脱出したい心理も大きかったのですが。

で、収穫もあったと言いますか、興味深い番組にいくつか出くわしました。前川センパイとFacebookで語り合った「日本人は何を考えてきたのか」シリーズ(Eテレ)も面白かったですが、個人的には「歴史にドキリ ロワイヤル・スペシャル」(NHK)もキましたね。

これは中村獅童氏が総勢20人の日本史上の偉人たち(卑弥呼や信長といったメジャーどころから睦奥宗光&小村寿太郎のようないぶし銀コンビにまで)に扮し、パンチの効いたそれぞれのオリジナル曲を「ひたすら歌い踊るのみ!」というすさまじい企画でして、ついエキサイトして画メ写を撮りまくりました(以下でございます)。

http://instagram.com/p/V-wZM_KuDh/
「手ぶれから筆者の興奮ぷりと撮影テクの乏しさが伝わります」

実はこれ、過去オンエアした10分の社会科教育番組(小学6年生向け)の総集編だったとのことですが、終了時には制作スタッフに対するリスペクトの感情さえ湧きつつ、ソーシャルウェブでシェアしたい誘惑をグッとこらえていました。世の中世知辛いものでして、「テレビ観てる暇があるなら原稿書け!」といったお叱りを受ける可能性もあるからです。

まとめて観たからかもしれませんがこの番組、なんだか新しい気がしたというか、スカッとしました。ウェブとの連動はしてませんので、仕組みはリニアなテレビ番組そのものであり、ヒャダインによる音楽も懐メロのパロディ風だったりするのですが、そこに内包している感覚がウェブっぽいというか、とにもかくにも「やってみた」な感じはニコ動的でさえあります。振り付けのair:manさんには私も取材したことがありますが、UNIQLOCKの振り付けなども担当されてるダンスユニットです。

早い話、これ、どこから観てどこで終わってもいいんですね。一応、歴史軸に沿って進むとはいえ、獅童氏が奇抜な格好で歌い踊る金太郎飴型コンテンツですから(合間に卑弥呼によるオネエなMCアリ)、一瞬チラ観でもネタになるし伝播も早そうですし、1曲観るとなんとなく次も観てみたくなります。

●参考 【卑弥呼無双】歴史にドキリ ロワイヤル・スペシャル【えねっちけ自重】(Togetterより)
http://togetter.com/li/433162?page=1

 

 

★人が面白い限り、テレビは面白いはずだ?★

一方、これに関してはまた稿を改める予定ですが、元旦には「リアル脱出ゲーム」のテレビ版(TBS)も放送されてました。簡単にご説明すると、ユーザー参加で謎解きをする部分と録画部分(ドラマ)がドッキングして同時進行する半生タイプの番組ですね。謎がすごく難しいんですが、開始10分くらいで解いてる人もいて、世の中にはどんだけ暗号読解力高い人いるんだ? とビビります。

実は自分は帰省中のため、リアルタイムでは観られなかったのですが、Twitterの私のTLがナチュラルに盛り上がってまして、これもいまっぽいテレビ番組と感じた次第です。

何を述べたいかというと、様々な仕組みやモデルの話はさておき、すでに番組(テレビコンテンツ)の中に“そういう感覚(ウェブの様式あるいは生理)”がおのずと出入りするようになってるのでは? ということ(仮説)です。

つまり、面白いにせよつまらないにせよ、別フェーズものが出て来てるってことかもしれません。大型番組が集中するその期間、私が観て特に気になった番組はこの2つでした。マニアックですかね? 実験にせよ、こういった「腕白でもいい、たくましく育ってほしい」な番組がもうちょっとあってもいいと思うんですが。

そういえば、「徹子の部屋スペシャル」なんかも面白かったですね。70代超えた嵐寛寿郎氏が「金がありまへんのや」とかあまりにも赤裸々に語っていてまったくシャレになってなかったり、長谷川一夫氏がいきなり流し目実演したりとか、「インタビューするほう大変ですね!」な貴重な映像が興味深く、これが正月に千万人単位の人々に向けて同時発信されている事実が凄まじいと思ったのですけど、これはアーカイブであって新しいという類いのものではありません。

すごいです、昔の人。しかしシンプルな考え方をすると、観る人・作る人・出る人など人間が面白いとテレビでもなんでも面白くならざるをえないはずですよね、本来は……。

 

 

★テクノロジーはいつのまにか僕らの中に★

ところで先日、『デザインするテクノロジー―情報加速社会が挑発する創造性』(青土社)という書籍の新聞書評をやらせていただいたのですが、この書籍がまさしくこういったテーマ(「メディア技術が特定の想像力を触発し具現化させる」)の解明に取り組んでおり、上記番組に同書の方向性とシンクロする何かを感じました。

[amazon_image id=”4791766741″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]デザインするテクノロジー 情報加速社会が挑発する創造性[/amazon_image]

『デザインするテクノロジー』はいわゆる“デザイン”を扱った書籍ではなく、メディアと現代コンテンツの関係を論じるものであり、読後の印象として“イッツ青土社”というフレーズさえ思い浮かびそうなカタめの思想書でもあります。

ピックアップされている事例も私には馴染みの薄い米国産の連ドラや映画が多いため、読解に多少骨の折れる部分もあるのですが(と言っても「ジュラシックパーク」や「SEX & THE CITY」といった有名作メインです)、著者の主張はあやぶろの議論、特に前川さんとのお話とも重なり合う部分が多かったです。

ようするに時代(メディア技術)が変わると、物語(コンテンツ)のルール(デザイン)も変わるってことですね。

著者はそのあたりの分析作業を、1980年代~2000年代までの洋物ヒット作でかなり丹念にやっておられます。例えば、2000年代初頭スタートの連ドラ「LOST」から、インターネット的な「ノンリニアなループ構造」を洗い出し、物語に宿る現代的クリエイティビティを浮き彫りにするといった塩梅です。そう言えば、このシリーズの演出家として知られるJ.J.エイブラムスが、新作「スターウオーズ」の監督に就任というニュースも最近ありましたね。果たして、どんなSWになるんでしょう?

「SEX & THE CITY」の場合は、毎回のオンエア後のファンのブログに反応する形で、脚本や結末を変更せざるを得なかったというエピソードも印象的です。ようするにドラマ自体の中に世間の物語と交差しながら生成する“入れ子”的構造を持ってしまっているということだと思います。

一転、本書の中盤では、コンテンツとプラグマティズム思想との関連性の著述等にかなり筆を割いており、そこはアメリカ特有の文脈とも思われたのですが、後半部分で「ソーシャル転回以降」のコンテンツについて論じた部分が興味深い。そこで満を持して「舞台化・劇場化」というキーワードが語られます。

 

 

★「眼鏡男子かしこす~」みたいなジョイン型コンテンツ(番組)はどうやれば作れるのだろう★

さきほど挙げた日本の2つの番組にも、「舞台化・劇場化」という見立てでハマる感触があります。「舞台化・劇場化」というのは、ようするに「ジョイン型コンテンツ」ってことでしょうね。

私のような書き手に顕著なこととして、昨今なんでも「参加体験」のひと言で片付けてしまう傾向があり、それもイージーな気もしますが、AKB48やリアル脱出ゲームをいまさら持ち出すまでもなく、くまもんから街コン、「やまもといちろう×イケダハヤトの世代を超えた眼鏡ブロガーバトルがなんでイベントになるんじゃーっ!? しかも決定後も迷走?」etcといった数々のバズ現象を見ても、大きくはやはりそういう方向のものが、よくも悪くもインターネット状況下では響きやすいのだろうと推察します。

部外者なので本来何かを言う資格もないのですが、たとえばアレ、眼鏡かけてる人だけでやるといいんじゃないでしょうか(参加者は伊達であれ装着して行くとか)。お二人とも取材やイベント等でお世話になったことがあり、インスパイアされるもの大きかったですし、キャラクターが立っていて好きな書き手なんですが、お二方ともそれぞれまったく別の進化を遂げたのび太と言いますか、共通項としては眼鏡くらいしか思いつかないんですよね……。その企画だったら、あやぶろ勢として前川センパイ&氏家編集長はじめ数名の方に参加権生まれますしね。私に眼鏡装着経験がないためかもしれませんが、世の多くの眼鏡男子(女子も)には、子供の頃から自分に持ちえないまぶしいオーラを感じてたこともありまして。ま、賢そうに見えるってことなんですが。

話がそれました。『デザインするテクノロジー』との絡みで近頃思うのは、ジョインはともかく、「形容詞+名詞=(素晴らしい)名詞型」のコンテンツって、よくできていてもいまはなかなかシンドイのではないか? ということです。むしろ、「やってみる」感の入った「副詞×動詞=形容動詞型」がヒットしやすいようですね。

抽象的かつ感覚的なもの言いになってしまい恐縮ですが、同じような内容(たとえば動物番組)でも「可愛い+猫」っていうアプローチでバラエティたくさん作っても限界があって、「ヌコもふもふ×やってみた=かわゆす~」みたいな構造のほうが、“いまっぽい”気がするんですよね。珍しい記号としての疑似体験というよりも、日常の本番感にいかに近づけるか? ただテレビの場合、「やってみてもらう」のハードルが高いので、そこの工夫やコーディネイトをどうする? という課題なのかもしれません。

スマホがクセになるのは、機能の高さはもちろん、スライドさせて「シュッ」とか、タップして「ポワン」とか、いわば身体感覚を味方にしていて、それをデザインとしてツールの中に組み込んでしまってる部分が大と思うんですが、多くの人が毎日使う機械がそうなってきており、その感覚が日常になり始めたからには、コンテンツ全般にその魂は宿り始めるんじゃないでしょうか?

私はセミナーの企画や司会が多いのですが、10年前に比べて明らかに変わったなあと思うのは、通うみなさん「やってみたがる」んですよね。「大物を招いてその方のお話を聞く」講演型のセミナーは人を集めにくくなってまして、「いる人たちで何か作ってみましょう」というワークショップ要素を取り入れたほうが、満足度も上がる気がしていますし、そういうご要望も多いです。もちろん、地域や参加者の業態によっても違うと思いますが。

講演型にする場合は、話者と聞き手の距離が近くなる工夫や仕組みが求められます。いま書いているのは、そこの“シフト”とも実は関わっているようにも思います。立派な言葉(「形容詞+名詞」)ではなく、言葉は自分で考えて頭と身体を動かすトリガーくらいになってればいい(「副詞×動詞」)というイメージでしょうか。

「形容動詞」と言いましたが、実は擬音語・擬態語に近いのかもしれません。より正確にはその真ん中でしょうね。頭とからだと行為がセットになってる感じをいかに表現できるか? ということだと思うのです。

何言ってるかわからないかもしれませんが、「笑い」とかで云々するよりも、「ワロター」とか「ワロス」とか言ってしまったほうが、リアリティと説得力を持ちやすいみたいです、いまは。そもそもそういった「ぶっちゃけ・はっちゃけ」は、映画・新聞へのアンチとしてのテレビが得意なことだったようにも思います、ということはすでにあやぶろでも何度か語られている通り(野生の思考ですよね)。

その意味では、「日本人は何を考えてきたのか」は完成度の高い番組と思いつつ、やっぱり「形容詞+名詞=(素晴らしい)名詞型」ではあるんですね。そこを「西田幾多郎×京都学派」ですとか「柳田国男×折口信夫」みたいな重層フォーマットと交差ナラティブで突破する、といった企画意図だったのかもしれないんですけど、それらの思想にある「やべえ」な感じとか「ぶっとびー」(古いですね)みたいな感じを表現するフォーマットは何か? という考え方もあってもよいと思うんですが、Eテレでそんなことやったら視聴者に怒られるかもしれません。

空中あやとりどころかエアあやとりになってしまった気もしますが、私の場合は冗漫かつ雲をつかむような話ということで本年もよろしくお願いいたします(前川センパイの対談も書きます)。

★イベント出演情報(2月・3月)★

・JAAAクリエイティブ研究会(2月28日/ヤクルトホール)→ http://www.jaaa.ne.jp/2013/01/2164/

・はてな×NHN JAPAN×ニフティ・デイリーポータルZによる「コンテンツマーケティングセミナー」(3月6日/渋谷ヒカリエ27F)→ http://news.livedoor.com/article/detail/7405396/

・横浜キュレーションラボ(連続セミナー※4月末まで/横浜三井ビルディング15F)→  http://www.solabo.net/wp/ycl0208/

 

 

 

★プロフィール
河尻亨一(元「広告批評」編集長/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授/HAKUHODO DESIGN)

1974 年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコ など多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現 在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動 を行う。

 

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