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20132/5

● 野生とデジタル(志村一隆)

スクリーンショット 2013-02-05 12.28.39

無個性なレンガを積み重ねると、個性ある建物が完成する
(コッツウォルズのレンガ塀)

 

デジタルは道具か革命か?

前川センパイは問いかける
「デジタルはただの道具か、はたまた人間存在に関わる革命なのか」
デジタルを考えるのに、新石器革命まで遡るなんてダイナミック。
「新石器革命で変異したニューロン・認識・思考」は、「一人称・個人目線」の成立に繋がるだろうし、それらが「因果関係ではなく総体的関係」であるという前川センパイの指摘も重要だ。
そして、そのうえでデジタルが我々の心に残されている「野生」にどう響くのか?ということが前川センパイの問いかけであろう。「荒々しく感情豊な反骨の系譜」をデジタルはどう受け継ぐのかという問いである。

分解と個性の除去

 ちょっと前「分解する人、しない人」について書いた。分解して理解しようとする人たち。分解すれば、何かが見えてくる。何かに近づけるという考え方。
「デジタル」関連もその分解する考え方に影響を受けている。
「分解」は個性を除く作業でもある。
映画もアニメも「デジタル」の0と1の組み合わせできている。全てのモノが原子と分子で出来ている。
そんな考え方だ。
ただ、そんな作業に没頭すると、分解のための分解になる。
どこかで折り合いを付ける必要があるのだ。

 

分解の再構築

16世紀以降、科学は、モノごとを分解し尽くしてきた。行き着くとこまで行ってしまったのか、最近の「デジタル」は、分解したモノで、何かを再構築をしようとしている。
たとえば、CESにもあった3Dプリンター。頭のイメージがそのままモノとして生み出される。あるいは、どの器官にも変化していくiPS細胞。小さなモノからの再生だ。
レゴでお城やガンダムを作るのと同じで、無個性なモノがなにか性格をもったモノになる。
もう分解するのは充分だろう。これからは、分解された知見を「統合」する時代であろう。

 

テクノロジーの不便さ

分解することで生まれる「テクノロジー」は、我々に便利さを提供してきた。
130年前、電話を初めて見た人は「遠くの人の声が聴こえる。ワオっ!」って驚いただろう。
最初から電話やメールを使っている我々はツイッターを見ても驚かない。それよりも、「声」や「文字」だけでコミュニケーションすると、リアルな会話とは違う伝わり方をするってことを学んでいる。
つまりテクノロジーがもたらす「便利さ」は、何かと「交換」してることに気付いている。
この気づきは、前川センパイが引用した中沢新一氏の言葉、「科学の限界」「革命の成果がほぼ出尽くしたのではないか、という予感」と同じ意識であろう。

 

 スクリーンショット 2013-02-05 12.29.12

 アルファベットは漢字と違う。一文字では何も表現しない。
「記号」と「意味」の違い。
(サクラダ・ファミリアの扉)

 漢字とアルファベット

そうした気づきや予感が、我々の思考回路を色々なモノの再構築や統合へ向かわせているのではないか。
再構築や統合には、全体を俯瞰できる能力が必要だ。クォーターバックやゴールキーパーのように、同時並行で起こっていることをイメージとして把握する能力。電線に鳩が何羽止まっているか、瞬時に記憶できる能力。
それは、論理を辿るのと別なイメージの記憶力だ。
中沢新一氏の「『比喩』が「記号」を「意味」に変え、表現・芸術が生まれた」という指摘(センパイの前回ポスト)をなぞれば、最初から「意味」を感じる能力を能力として活用する場が広がるのではないか。
アルファベット一文字では何も意味しない。記号だ。そして、アルファベット文化では、その一文字の繋がり、編集、論理に意味がある。
漢字はそれ自体に意味がある。分解しないで理解する能力、東洋的な考え方、こうした能力が発達した脳を持った人たちが増えると、どうなるのか。考えると面白い。

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
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