あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

20116/23

「テレビの“ソーシャル化”ってなんなのさ!?」 ― 山脇伸介

5月27日(金)放送のNHK「あさイチ」での出来事だ。あるコーナー終わりで有働由美子アナが「ここで、視聴者の方からファックスが来ています」といって、紹介したのが「有働アナの脇汗がひどい」というクレームだった。有働さんはこのファックスを読み上げ、「自分はあまり気にしていなかったが、これからは気をつけたい」とコメント。たまたま見ていた私は頭をガツンとやられたような気持ちになった。

普通、生放送の番組で視聴者からファックスやメールを募集しても、出演者についてのクレームは取り上げないものだ。というか、クレームを受けた本人に見せることもほとんどない。しかしこの番組では、スタッフがこのファックスを出演者に見せ、しかも出演者はそれを自ら読み上げることを決断したのである。現在「あさイチ」は同じ時間帯の視聴率トップを走っているが、その理由がわかったような気がした。

最近色々なところで、「テレビのソーシャル化ってどんな感じですか?」と聞かれる。ツイッターとかフェイスブックの普及で、テレビ番組はどう変わるのか?という問いである。私はアメリカのテレビ局の例を出して、「バーチャル茶の間」とか「共感視聴」とかそんな言葉で説明することが多い。テレビはソーシャルメディアの活用でもっと身近で楽しいものになりますよ。
でも、それだけぢゃない。ファックスとかメールという旧来の「閉じられた」コミュニケーションツールでも番組側に聞く耳があれば、「親近感」はまったく違ってくる。

日本のテレビはいつから「建前」になっちまったのだろうと思うことがある。昔はもっと荒くって、ハチャメチャで楽しいものだったのに。それに比べるとアメリカのテレビ出演者は、日本より歯に衣着せぬコメントが多くて面白い。(訴訟大国のアメリカだ。よりハイレベルのリスクマネージメントが働いていることは間違いないのだが。)私はソーシャルメディアがこのような番組制作側の「建前」をぶち壊し、視聴者とのキョリを狭めてくれるものになってくれると期待している。

一方で、「本音」に近いと思われている日本のネット系サービスも、利用者の増加によって新たな段階を迎えつつある。去年の忘年会で一緒になった時、「2011年はソラノートの年!」と意気軒昂だった“元祖ダダ漏れ”のそらのちゃんは名誉毀損問題で、現在活動停止中である。また、2ちゃんねるで女性タレントの家族を中傷した匿名コメントについて、プロバイダーに対し「発言者のIPアドレスを開示せよ」という判決も出た。

…その後「あさイチ」では、6月7日(火)に『なぜか気になるワキ汗』特集を放送した。40代独身おばさんというぶっちゃけキャラをばく進する有働アナは、もしかしたら“テレビのソーシャル化”の一番手なのかも知れない。

山脇伸介(やまわきしんすけ)
1991年TBS入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook 世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る