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20112/25

[あや取り自由自在から「蒼ざめた馬」、そして祝祭革命まで] ー 前川英樹

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 戸隠スキー場(第6リフト) 瑪瑙山(1748m)
 北アルプス連峰の眺望  絶景だ

□小学校1年生の女の子の孫と、戸隠にスキーに行って来た。
この子が、長野新幹線に乗ると直ぐにあや取りを始める。一人あや取りは、四段梯子→盃→ゴム→箒→松葉など、母親と二人で亀→ゴム→飛行機→兜→ネクタイ…という取りっこもしている。実に手際よく紐が色々に形を変えていく。終わってみれば、紐はだらっとしたタダの紐だが、動いている間は変幻自在だ。
あや取りはハード・ソフト一致である、といってみても大した意味はないか…。

□河尻さんが「あや取りも創造と破壊」といっていたが、もう少しソフトにいえば自由自在といったところだろう。ところで、この「創造と破壊」というのは、シュムペーターの「創造的破壊」の河尻的大阪風ギャグなのだろうか。

□前回までの、ぼくと志村さん、河尻さんとの「あや取り」について、「“東京タワー”レベルのものは完成してしまったのではないかという気がする」と河尻さんは書き、東京タワーの上に旗を立てたら、スカイツリーを目指そう、ともいう。良いね、そうなれば「あやブロ」と名付けた甲斐があるというものだ。
ただ、東京タワーからスカイツリーへ、というのはチョット普通すぎるようにも思う。上のような風景を見ていたら、槍か穂高かという気になってきた。そのさきは、五大陸の最高峰を目指した植村直己の気分か。

□この一連の「あやブロ」で、かつて観た映画のことなどに思い至り、ネット通販で検索したり、今までは余り足を運ばなかったビデオショップを覗いてみた。
■「華氏451」(監督 フランソワ・トリュフォー)を観た。 映画としての出来は「いまいち」だと思うが、[読書=知の自由]をテーマにしたことは、(以前にも書いたが)現代のグーグル的知を考える上で、一つの視点を提供しているように思う。
…註:華氏451(451°F)は紙が燃え上がる温度。
■「「カッコーの巣の上で」(監督 ミロス・フォアマン)。「現代思想のパフォーマンス」で、内田樹さんがロラン・バルトの思想による実践例としてこの映画を解読している。見損なっていたので購入。
■「時計じかけのオレンジ」(監督 スタンリレー・キューブリック)は、ビデオ店で棚を眺めていたら眼に入った。これも見逃していた。
■「日曜日には鼠を殺せ」(監督 フレッド・ジンネマン)は、ジンネマンらしい佳作。
パッケージを眺めて気がついた。この映画の日本語タイトルは原作の小説のタイトル(Killing a Mouse on Sunday)で、映画の原タイトルは“BEHOLD A PALE HORSE”となっている。直訳すれば「蒼ざめた馬を見よ」だろう。「蒼さめた馬」は、ヨハネの黙示録(六章七節)に出てくる「…視よ、蒼ざめた馬あり、これに乗る者の名を死といい、黄泉これにしたがう…」(「蒼ざめた馬」ロープシン/川崎浹訳・現代思潮社1967)。
そうだとすると、どうして映画タイトルはこれになったのだろう。そして日本では何故原作タイトルに戻したのだろう。後者については、五木寛之の「蒼ざめた馬を見よ」が1967年に刊行されていて、映画の日本公開と時期がダブった可能性がある。その場合は、配給会社は誤解・混乱を避け作品意図を尊重するため原作タイトルを採用したという推測が成り立つ。
前者、つまりジンネマンが映画に“BEHOLD A PALE HORSE”と付けた意図は何だろう。ヨハネの黙示録にヒントを得たとも考えられるが、ロープシン(ロシア社会革命党のテロリスト、サピンコフの作家名)の代表作「蒼ざめた馬」を読んで、ロシアのテロリストの心情を、フランコに追放された元スペイン人民軍闘士でグレゴリー・ペッグ演ずる主人公に重ねたのではないかと思うのだが、どうだろう。オーウェルの「カタロニア賛歌」への共感が残っていた時代だ。
手元にある「フレッド・ジンネマン自伝」や「世界名作映画全史」、それにウィキペディアで色々探ったけど分からない。どなたか知っている人がいたら教えて欲しい。
■「アルジェの戦い」(監督 ジロ・ポンテコルヴォ) 前々回に触れた。取り寄せ注文中

□「あやブロ」で自分の行為がこんな風に広がっていくとは思わなかった。「あやブロ」を始めて良かった。このあとは、アンジェイ・ワイダ、ルキノ・ヴィスコンティ、突然跳ぶが小津安二郎などに行きそうだ。

□東浩紀「ソーシャルメディア つながりが導く祝祭革命」-論壇時評-朝日(2/24)
「残念ながら、今月この事態(チュニジア、エジプト、バーレーン、リビアの状況…前川註)に対応している論壇記事はほとんどない。むろん事件の展開が早すぎるのが原因だが、一連の事件そのものが新しいメディアを原動力として進んでいることを思うと、この言論の空白は象徴的でもある。新メディアは、大衆の感情を克明に可視化し、大きなうねりへと結晶させる。そのダイナミズムを前にして、後付けの『分析』しか提供できない旧メディアは余りに無力だ」
「(ジャスミン革命以前に書かれたクレイ・シャーキーの)情報の真偽よりコミュニケーションの有無のほうが重要だという洞察は、一連の出来事の本質を正確につかんでいる」
…註:クレイジー・シャーキー「ソーシャルメディアの政治権力」(フォーリン・アフェアーズ リポート2月号)
「(酒井啓子は)今回の政変にはイデオロギーの対立がない。主導者にも権力奪取の欲望が欠けている。人々は『楽しく』政権を覆したものの、『祭りが終わったら家に帰る』だけのように思われる(という)。しかし、酒井はそれでいいと主張する。というのも、革命が祭りとして生じたということ、それはもしかりに新政権が民衆の期待を裏切ったとしたら、また気楽に批判の声が上がることを意味するからである。祝祭は政権の監視に役立つのだ」
…註:酒井啓子「エジプト:祭りの後、でもまたいつでも祭りは起きる」

□前々回こう書いた。「結局のところ、情報とは<情報空間>と現実の<場>との間に形成される関係性として意味を持つのであろう。情報空間もまた一つの現実であるとしても、である」と。この関係性がコミュニケーションということだ。パブリックあるいは情報の公共性もここに関わる。

□現実の<場>は、どの時代、どの都市でもまず街頭だった。
さて、日本のソーシャルメディアは成長・発展していると考えてよいのだろうか。
そうだとすると、政治的行為として街頭が<場>にならないのは、恵まれた国だからだろうか。そうではなくて、むしろそれはこの国の不幸なのではないか。「祝祭能力」の喪失か。

□「尖閣映像流出は<しなやかな戦い>だろうか」という思いは、そこに繋がる。これは、民主主義の成熟度、例えば中東・アラブは未成熟、日本は成熟というように分類するような問題ではないように思う。ここでも「近代の超克」というアポリアが待ち構えている。

□ある権力に代わって別の権力を、というのではなく、「真面目にやらないとレッドカードだよ」というのを<祭り>として行為するのは、革命か?

                 *

□リフトの上ではアレコレと思いが浮かぶことがあるが、滑りだしたらそんなことは何処かに行ってしまう。当たり前だ、考えていたら転倒する。
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 戸隠スキー場第5リフト 正面は戸隠連峰 右は高妻山

□今回はスローカーブで行こうと思った。入口はそれ風だと思うが、途中から荒れ球になってしまったようだ。ゴメン。
・・・あや取り手の皆さん、「自由自在」か「創造的破壊」か、何でもいいからフォローしてくれます?

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964年TBS入社 <アラコキ(古希)>です。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳のある日突然メディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジというポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。キーワードは“蹴手繰り(ケダグリ)でも出足払いでもいいからNHKに勝とう!”。誰もやってないことが色々出来て面白かった。でも、気がつけばテレビはネットの大波の中でバタバタ。さて、どうしますかね。当面の目標、シーズンに30日スキーを滑ること。

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