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20147/26

『SASUKE』米版、初の女性コース制覇者出現でアメリカ熱狂! 如何にして世界規模で情報は拡散し、1夜でシンデレラを生んだのか?

TBSの大型スポーツエンターテインメント番組『SASUKE』のアメリカ現地制作版 “American Ninja Warrior(ANW:アメリカン・ニンジャ・ウォリアー)”の最新シーズン6(ANW6)が大変なことになっている。

ANW6の快進撃については、6週連続視聴率トップまでは前回お伝えした通り(これまでの詳しい経緯は、『あやとりブログ』の関連記事をご参照ください)。

以降、7月21日(月)の放送でも、再び前週を上回り同時間帯トップを記録した。ANW6が放送されている午後9~11時には、午後9時からはABCで人気シリーズ “Bachelorette”、FOXでは、先週最終回だった“24”の後継番組として、新シリーズ“Hotel Hell”が始まった。また、午後10時からはCBSで、人気シリーズ‘Under The Dome”の最新シーズンと、強力な番組が連なるが、ANW6は、これらを含む同時間帯すべての番組の視聴率を上回った。6月30日(月)には、今年1月に新春特番として放送された「日米頂上決戦」“ANW: USA vs. JAPAN”が再放送されたため、一旦トップの座を譲ったが、(それでも後半の1時間は2位に上昇するなど、新作に混ざって大健闘)翌7月7日(月)から再びトップを記録し、以降、これで3週連続、6月2日(月)以来、実質7週連続の同時間帯視聴率トップとなっている(内2週は月曜全日全局全番組中トップ)。また、7月20日(日)のG帯午後7~9時の再放送では、同時間帯にABCで放送された“Wipeout”の新作の視聴率を上回るおまけまでついた(TBSは、同番組制作放送側を2008年に提訴、2012年に和解決着している)。

そんな中、7月14日(月)に放送された、テキサス州ダラスでの予選2次ラウンドで、ANW史上初めて、女性選手がコースを制覇した事で、アメリカを中心に話題騒然となっている。

American Ninja Warrior Catanzaro(Kacy Catanzaro選手)
“American Ninja Warrior”より

 

番組史上初の女性制覇者となったのは、これまで世間一般には実質無名のKacy Catanzaro選手。彼女の滑走の模様は、日本からも番組公式サイトで観られるので、まずはご覧いただきたい:
http://tv.esquire.com/videos/71307-kacy-catanzaro-at-the-american-ninja-warrior-2014-dallas-finals
(上記URLをブラウザにコピペしてご覧ください)
(Esquire “American Ninja Warrior”公式サイトより)

アメリカの予選では、特に時間制限を設けていないため、実質7分あまりに及ぶ滑走だが、鍛えぬいた男性選手でもほとんどが途中脱落するこの難コースを、観る者を時にハラハラ、時に誰も予想しなかった展開でクリアした模様が、まずは番組視聴者を魅了した。セカンド・スクリーンによるインタラクティブ視聴が浸透しているアメリカだからなのか、特に若年層にファンが多いからなのか、元々、SNS経由の投稿が多いこの番組だが、この後、それが爆発した。彼女の名前を模したハッシュタグ #MightyKacy (マイティー・ケーシー)が、1時間以上にわたりTwitterのグローバル・トレンドのランキングでトップに踊り出、@KacyCatanzaro を含むFacebookやTwitterの投稿数もおびただしい数に上った(現在でも、同関連ワードで検索すると、かなりの数の投稿が観られる)。ほぼ全面的に賞賛、絶賛する投稿だった事から、当然、番組を観ていなかった多くの人達の興味も引いた事は間違いない。アメリカではタイムシフト視聴も普及しているが、番組公式サイトが、いち早く彼女の映像をアップした事で、この映像も、当然の事ながら、瞬く間に全米を中心に世界を駆け巡った(前述映像)。YouTubeの公式映像だけでも約800万人が視聴している(7月25日現在)

2014202_470598989WM042_Elaine_Strit“American Ninja Warrior”より

 

そして、この後、ご本家日本の『SASUKE』で女性のコース制覇者が今後仮に出たとしても、起こり得ないであろう現象が起きる。

ANW6を放送しているのは、アメリカ4大ネットワークの一つ老舗地上波局NBC。ユニバーサル社と合併した現在は、NBCUniversal(NBCユニバーサル)と称される。また、親会社は、日本では一般にはあまり知られていないが、世界最大規模のケーブル会社Comcast(コムキャスト)社である(アメリカでは、地上波テレビ局や大手映画スタジオがケーブル会社の傘下にあるのだが、今ではあまり違和感がない)。Comcast社は、今や多くのメディア関連企業を傘下に置くメディア・コングロマリット。NBC系列のローカル局多数が、ニュースや情報番組で彼女の活躍を報じた。これら系列メディアが、彼女の活躍を報道するのならばまだ分かる(とは言え、地上波G帯の番組をいちいち全部取り上げていたらきりがないが)。

140726_Kacy Catanzaro“American Ninja Warrior”より

 

ただ、彼女の活躍は、系列だけに留まらず、多くの著名媒体も取り上げ始めた(日本から確認出来るのは各社電子版。電子版の多くは彼女の映像込)。そして、ライバル局であるはずの大手他局やAP通信も打電したのである。あまりの数の報道で、とても全部追い切れないが、以下、確認出来た一部を紹介:
【一般紙】 Washington Post紙、USA Today紙、New York Post紙、英Daily Mail紙
【一般誌】 TIME誌、People誌、Us Weekly誌、Esquire誌、Fitness誌
【女性誌】 COSMOPOLITAN誌、marie claire誌、ELLE誌
【放送局】 ABC、CBS、FOX、ESPN、CNN

これだけ、世界的にも知られる全米規模の大手メディアやその系列メディアが、事件・事故や著名人の訃報でも無いのに、一週間前までは無名だった一般人のテレビ番組での活躍を報じるのは、逆にある意味事件である(いずれも、7月25日現在、日本から確認出来た報道のみ)。上記の中でも、ライバル局ABCのニュース・サイトが彼女の活躍の分析記事を掲載したり、CNNがHeadline Newsで “A lot of you are watching this…(既に多くの方々がご覧になっていると思いますが…)”の切り出しで、3分近くにわたって彼女の活躍の詳細を報じたのには更に驚いた。
http://edition.cnn.com/video/data/2.0/video/bestoftv/2014/07/18/sot-hln-american-ninja-warrior-kacy-catanzaro-nbc.hln.html
(CNN Headline Newsより)

当然のことながら、彼女は一夜にして有名に。彼女自身もPeople誌でのインタビューで語っているが、一夜にして有名になってしまったシンデレラ状態に、若干戸惑いながらも、特に女性層に良い影響を及ぼせたことを喜んでいるようである。

これまでも、ANWシリーズは、アメリカ人が「世界一の難関コースMt. Midoriyama(マウント・ミドリヤマ)」と称する『SASUKE』の全4ステージを、「日本人は3人も完全制覇者がいるのに、アメリカ人は未だに誰一人も制覇していない。誰が最初のアメリカ人完全制覇者になるのか?」と言うのを逆に番組の売り文句にしている。最後に勝者を必ずしも生むとは限らない、世界でも稀有な番組であるが故、アメリカ人の負けず嫌いを上手く煽っているようにも感じられる。それにしても、TBSの「緑山スタジオ」が、Mt. Midoriyamaとして、今やアメリカ人の間で、富士山(Mt. Fuji)に次いで知名度がある日本の山、として認識(誤認?)されているのは何だか感慨深い。このアメリカ人第1号を目指し、全米規模で想像以上に多くの人達が現在でもトレーニングを積んでいる。それを、予選とは言え、女性が達成してしまったのである。しかも、ただでさえ男女とも平均的に大柄な人達が多いアメリカで、屈強な男性選手達に囲まれた、体重45kg、身長152cmの彼女は、日本以上に小柄に映る。彼女の活躍が、既に特に多くの女性達をインスパイアしているようである。確認出来ただけでも、Alex Morgan(女子サッカー米代表)、Nastia Liukin(五輪体操女子個人総合金メダリスト)、Chelsea Clinton(クリントン元大統領の娘)等を始めとする多くの女性著名人が彼女の活躍を絶賛している事で、特にSNSを通じて影響を拡大している。

フィットネス大国、スポーツ大国、(特に女性の男性に対する)男女平等意識、強い個人主義や競争意識、疑似体験、共感、そして番組としての希少さや面白さ、等々、ここまでANWやそこで活躍する選手達がアメリカでうけている理由には様々な要因が考えられる。そして、この国では、国籍や性別、人種を問わず、偉大な事を成し遂げた者には、惜しみない賞賛が贈られる。トレーニングを積んだ屈強な男性達にも無しえない事を小柄な彼女が成し遂げたからこその #MightyKacy (何でも出来るケーシー)であり、この反響なのかも知れない。

ANW6は、まだ予選第3の都市での2次ラウンド!そして、コースを制覇したとは言え、彼女はラスベガスでの決勝への出場権を得たに過ぎない。ANW6は、この後、2つの都市での2次ラウンドの模様を経て、第4ステージまであるラスベガスでの決勝の模様の放送は9月に入ってから。この後、どのような展開と反響が待っているのか?興味は尽きない。

TBS番組の海外輸出に関しては、下記の「海外番販」公式サイトで最新情報を国内外に向け発信している:
<TBS海外番販公式Facebook> http://www.facebook.com/tbs.intl.sales
<TBSオンライン・カタログ> http://www.tbs.co.jp/eng/programsales/index.html
<TBS海外番販公式Twitter> https://twitter.com/TBS_prosales

 

杉山真喜人(スギヤマ マキト)プロフィール
テレビ局のコンテンツ海外販売を担当して18年目。「しあわせ家族計画」「風雲!たけし城」「未来日記」「SASUKE」等、多くのテレビ局作品の輸出を手がける。TOEIC965点。国連英検特A級。テレビ局にアナウンサーとして入社する前には、日米合作映画「MISHIMA」(プロデューサー:フランシス・コッポラ&ジョージ・ルーカス)の監督付きアシスタントをした経験もある。本業の傍ら、バイリンガル・ナレーターとしてCMやビデオの声の出演も多数。

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