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20156/4

カンヌ国際見本市MIPTV 2015にみるコンテンツ流通の世界的潮流

 

変化するテレビ見本市

去る4月13日(月)から16日(木)まで、カンヌ国際テレビ見本市MIPTV(ミップ・ティビー)が開催された。毎年、多くの業界関係者が集う世界最大級のテレビ見本市には、今年も100ヶ国以上から11,000人を超える参加があった(主催リードミデム社発表)。MIPTVは一昨年50周年を迎え、業界関係者の間では定番となっている。TBSも80年代前半から出展し、私も1995年以降、春のMIPTVと秋のMIPCOM(ミプコム)と、年に2度カンヌ入りしているが、昨今の世界的メディア事情の変貌は、時代の趨勢と共にカンヌ見本市の風景も着実に様変わりさせている。

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21世紀に入ってからの劇的変化は、好むと好まざるに関わらず「メディアの多様化」と「デジタル化」によってもたらされている。これにより、大局的には「放送=配信」化が急速に進行しているし、欧米やアジア(特に中国や韓国)では、特に若年層のテレビ離れが加速している。昨年、イギリス、中国を訪れた際にも、自宅にテレビを持っていない人達や、テレビではなくスマホやタブレットを通じてコンテンツを観ているという人達が、成人層でも驚くほど多かった。
カンヌでも当然、従来のテレビ前提のあり方から、デジタル系メディアを含めたオールメディア、オールデバイス的なあり方に変化してきている。出展社も、以前はテレビ局やテレビ制作、配給系の企業が大勢を占めていたが、昨今は、これまで聞いた事がない新興企業や、一昔前は存在していなかったのに今では巨大勢力となったデジタルや通信系企業の参加も増えている。今回は、デジタル系メディアの関係者の参加が1,000名を上回ったとの事。カンヌでは、デジタルやインターネット系関係者を対象としたMIP Digital Fronts(ミップ・デジタル・フロンツ)、フォーマット関係者を対象としたMIP Format(ミップ・フォーマット)等々、関連イベントを同時期に開催し、多様性を増している。

「見たいときに見られないコンテンツは存在していないに等しい」!?

一方、老舗企業もデジタル化の影響をまともに受けざるを得ない。販売においても、これまでのコンテンツの内容重視は当然のことながら、各国における実績(視聴率等)や流通条件が益々重要視されている。既に、放送においても「見逃しオンデマンド」や「タイムシフト視聴」が当たり前となってしまっている欧米やアジアの主要各国に対して、「放送回数α回、インターネット配信NG」などとのたまっていては、日本から一歩出た瞬間に相手にされなくなりつつある。

ここ数年、海外で当たり前に耳にするようになった言葉の一つに“Content 360”(コンテント360)がある。これは、コンテンツを、如何にanytime、anywhere、any device(いつでも、どこでも、どのデバイスでも)観られるようにするか、インタラクティブに全方位で活用するか、というもの。全方位で機会を提供し接触率を高める事で、認知度や人気をどう高めるかに世界の主眼は完全に移っており、「囲い込み」やウィンドウの切り分け等々で「希少性」を保つことでコンテンツの価値を高めるという考え方は、終焉を迎えている感がある。

また、全方位でタイムラグを置かずに機会を提供した方が、最終的には視聴率アップに繋がることがデータ上も実証され続けているので、特に欧米諸国ではこれが既に前提になっている印象を強く受ける。欧米の関係者から強烈に印象に残る事を言われたが、それは「触れたい(観たい、遊びたい等)時に触れられる環境にないコンテンツは存在していないに等しい」というものだ。その考え方の正否や、日本に合っている考え方かどうかはともかく、世界は確実に、しかも急激なスピードでそれに応じた運用やビジネスに変貌している。人間の大半が本質的に利便性を追求する生き物である故、この波は止められないだろうし、日本も世界の潮流の中に晒されている以上、Netflixの日本上陸にあたり「黒船来襲」などと言っている場合ではなく、攻め込まれるよりも世界に打って出るくらいの気概がないと、いつまでも防御一方で差し込まれるだけで終わってしまうとの危機感が今まで以上に募る。

中国・韓国の勢いと脅威

今回のMIPTVで、個人的に強烈な印象を受けた事が一つある。それは、中国と韓国の世界市場での躍進だ。両国のカンヌでのプレゼンス増は今に始まった事ではないが、それでも、これまでは、彼らのプロモーションやプレゼンの仕方一つをとっても、どこかアジアチックで、正直「ドンくさい」印象があった。ただ、今回、中国企業が主催した大規模パーティーや、彼らのプロモーションVTRを観るにつけ、短期間に驚くほど「ハリウッド化」が進み、洗練された印象を受けた。ハリウッド基準に合わせるのが王道というわけではないし、迎合すればよいというものでもない。ただ、ハリウッドを中心とする欧米基準が、グローバル・エンターテインメントにおけるメインストリーム=主流である事も否定しがたい。世界で勝負する以上、世界標準=グローバルスタンダードに合わせることが出来る、というのも重要な要素の一つだろう。それを、短期間に吸収して、適合させてきてしまうあたりに、中韓両国の勢いと脅威を感じざるを得なかった。

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印象的な会話の一つに、中国関係者とのものがある。彼曰く、今回、彼らが世界に打って出たフォーマットは、元々世界市場用に制作したものだという。それを国内市場で実験するべく日曜日のG(ゴールデン)帯に放送したところ、予想以上に国内でヒットしてしまったとの事。G帯を世界市場のための実験に当てる、という発想自体も凄いが、中国には言うまでもなく、日本の総人口の約10倍にあたる13億人超の国内市場がある。それにも関わらず、自己完結するのではなく、貪欲に世界を取りに来ている。翻って日本はどうか?日本にもし10数億人の市場があったら、「海外」などという外向き志向には恐らくならないだろう。1億数千万人で、ほぼ自己完結してしまってはいないか?そう考えると、根本的発想自体を変えないと、少なくともコンテンツ流通面では、今後、中韓をはじめとするアジア各国の背中すら遠くなっていってしまうと感じざるを得ない。

世界に広がるTBS発祥の「スポーツ・エンターテインメント」フォーマット

海外のメディア事情の激変ぶりに危機感が募る一方だが、今回、うれしかった事もある。TBSが80年代から実績を積み上げているフォーマット番販というジャンルは、これまでは、クイズやゲーム、サバイバル、恋愛、ファミリー等をベースにしたものがほとんどだった。そこに、スポーツ的要素を盛り込んだ、身体能力を競う「スポーツ・エンターテインメント」とも言えるフォーマットを数年前から目にするようになった。これは、欧米制作会社最大手の一角を占めるEndemol社が、“Wipeout”と称する番組を2008年以降制作、販売し出したあたりからの印象である(TBSは、“Wipeout”が『風雲!たけし城』と『SASUKE』に酷似、著作権侵害しているとして、2008年に提訴、2012年に和解している)。

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ただ、TBSが“Wipeout”を提訴したように、元々、屋外の大規模セットでゲームをする『風雲!たけし城』のような番組や、身体能力を競う『SASUKE』のような「スポーツ・エンターテインメント」と呼べるような番組は、海外にはほとんど存在していなかった。唯一思いあたるのは“American Gladiators”だが、これも『風雲!たけし城』より後に誕生している。そこにもってきて、ここ数年の『SASUKE』の世界的人気拡大である。TBS番組の「パクリ?」(もしくは、少なくとも、確実に影響を受けている)と思わせるような類似番組も数多く目にするようになった。当然、世界の業界関係者の話題に上る事も多いらしく、今回も、全く関係無い複数の事情通から、今世界で流行っている「スポーツ・エンターテインメント」とカテゴライズ出来るフォーマットは、元々TBS発祥で、“Takeshi’s Castle”(『風雲!たけし城』の海外での呼称)や“Ninja Warrior”(『SASUKE』の海外での呼称)が潮流を作り出したのは間違いない、と賞賛された。確かに、カンヌでもそのように実感出来る事象も多く、その意味ではTBSの優れたコンテンツが世界中に影響を及ぼしているとも言える。

世界の趨勢は「いつでも、どこでも、どのデバイスでも」

メディア事情が変貌し “TV is King”(テレビが王様)の時代が終わりを告げたとしても、今後、世界的にも“Content is King”(コンテンツが王様)の認識は、むしろ強まっていくだろう。ただ、ここに、優れたコンテンツというだけでなく、前述の“Content 360”で、如何にanytime, anywhere, any device(いつでも、どこでも、どのデバイス)でも全方位で「正規に」「早期に」運用出来るよう、著作権処理ルールを整備し流通条件を整えられるかが、日本コンテンツの、特に海外における活用に課せられた大きな課題の一つではある。

今回触れたMIPTVの変化は、全体的変化を大局的に要約しただけだが、これだけをみても、メディア事情が激変していることがわかる。また、仕事のやり方一つをとっても、直接面会をしなくてもこなせる事や交渉が増え、一昔前とは比較にならないくらい便利になった。デジタル化によって、アナログ的流通の代表格である国際見本市も変貌を余儀なくされている。ただ、世の中がどんなに便利になっても、人と人が直接会って、語って、一緒に食べたり飲んだりする事をきっかけにコミュニケーションが始まる。人間関係と信頼関係が構築出来て初めてビジネスが前に進むという側面は、どんなに時代が変わってもなくならないだろう。それを一挙に短期間に出来る国際的イベントや見本市は貴重な機会で、その意味でも、テレビ同様、見本市そのものが消滅してなくなるということは無いだろう。ただ、テレビが主役だった時代についた見本市名MIPTV(ミップ・ティビー)からTVが消えて、見本市の名称自体も変わってしまう日が早晩訪れても何の不思議もない。カンヌの夜景を見ながらビールを片手に関係者と話している際にも、そんな思いが何度も頭をよぎった見本市だった。

 

杉山真喜人
TBSテレビ メディアビジネス局海外事業部

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