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20146/8

『HAPPY福島バージョン』の元気をもたらす力

6月2日、HAPPY動画の福島版がYouTubeにアップされた。とてもよくできている。とにかく明るい。

 https://www.youtube.com/watch?v=B-pk8z8rX2U&feature=kp

ほとんどの方が知っていると思うが、HAPPY動画は、ファレル・ウィリアムズのHAPPYという曲にのせて何人もの人たちが踊るという、「恋するフォーチュンクッキー」のワールドワイド版だ。 HAPPYは楽曲が長いので、他のいくつものHAPPY動画はたいてい途中で飽きるのだが、福島バージョンは全然飽きさせない。どのカットも、もうちょっと見たいといういいタイミングで切り替わる。
それに出て来る人が皆、楽しそうだ。笑顔が見ているこちらにまで伝わって来る。素敵だ!もっと見たい!という気持ちにさせる。

3.11以降、世界に知れ割ったったFUKUSHIMAは、「住民たちは放射能に怯え、一日中マスクをして暗い生活を送っている」という実態とは異なるイメージを負わされている。それを後押しするメディアすらある。

この動画をプロデュースした熊坂仁美さんは、Yahoo!個人の記事の中で http://bylines.news.yahoo.co.jp/kumasakahitomi/20140604-00036011/

「被災地ということで、いまだに道行く人がみなマスクをしている暗い街というイメージを持たれがちだけれど、実際、ほとんどの人は普通にハッピーに暮らしている。むしろ以前より割り切っていて、腰を据えていて、地域愛が強い人が多いのだ。HAPPYの動画なら、その空気をそのまま伝えることができると思ったのだ。」 と、制作に至った動機を述べている。

YouTubeでの再生回数は6月8日時点で7万5000を越え、全世界150カ国以上で見られているそうだ。つけられたコメントも読んでみるとほとんどがポジティブなもの。
FUKUSHIMAからの明るい笑顔は、世界の人の心に暖かさを届けている。放射能に怯えて暗い顔をしているとばっかり思って人たちから、逆に元気を与えられたことが、笑顔の共鳴を生んでいるのだろう。
熊坂さんによると、中には「福島がハッピーだって?何を言ってるんだ」「よくできた東電の宣伝だ」「政府のプロパガンダにのせられた間違った人たち」「これが福島で撮影された証拠がどこにあるんだ」「マスクをした女性が出てくるではないか」などのコメントもあるそうだ。原発に反発するあまり放射脳になってしまう人は、日本だけでないとしても、でも数としてはごくわずかだ。

このコンテンツの制作は、多くの人たちを巻き込まなければならず、とんでもなく手間がかかり、エネルギーが必要だ。でも、それが完成した時の一体感、満足感に繋がり、見てる人の共感を呼ぶのだろう。
熊坂さんは、「一体感ははんぱないです。外に向けての発信のつもりでしたが、地元の結束力が強まりました。両方の効果がありますね。グローバルに耐えられるコンテンツというのが大きなハードルですが、それをクリアすればどの地域にとってもいい効果が出るのではと思っています。」というメッセージを送ってくれた。

本来なら、福島以外の我々が福島の人たちを元気にしなければならないのに、このHAPPY福島バージョンは、見ている我々が福島の人たちから元気をもらった。
今、福島に住んでいる人たちは、自らその生き方を選んだ人たちだ。だからこそ明確な意思表示としての笑顔と元気さを伝えられるのだろう。

このような試みは、テレビなどマスメディアではできない。いや、やろうと思えばできるが、おそらくそれでは、福島の人たちが制作の過程で得られた一体感も、動画を見た何万人もの人たちが感じた、心の暖かさや共感はもたらせないだろう。

今、動画は変わりつつある。動画は画像と違い制作するのが難しいというハードルがあった。YouTubeやニコニコ動画は以前からあったが、自分で動画を撮り編集して、投稿動画サイトにアップするのは、限られたひとだけだった。
しかしスマホにも動画撮影機能が装備され、ユーザーはいとも簡単に動画をソーシャルメディアにアップできるようになった。
これから先、動画文化は急激に進化していくだろう。 今回、HAPPY福島バージョンが 動画コンテンツの新たな可能性を教えてくれたように、これまではプロだけの領域だった動画の制作過程、流通過程を飛び越えた、ユーザーの手による様々な動画コンテンツが、一気にインターネットに供給されるだろう。 そしてそこから新たなビジネスや文化が発生していく。
社会や生活はまだまだ変化の途中だ。

 

氏家夏彦プロフィール
「あやぶろ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年テレビ局入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)、テレビ局系メディア総合研究所代表を経て2014年6月現職
テレビ局系関連企業2社の社長
放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員

 

 

 

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