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20122/11

ソーシャル+ドキュメンタリーの試み ~「18 days in Egypt」の挑戦 ー 山脇伸介

歴史とは?真実とはなにか?この問いに答えることは難しい。同じ出来事でも受け取るひとによって、その意味はまったく異なってくるからだ。
歴史の教科書に「近現代」があまり書かれていないのは、「当事者がいなくなるまで書けないからだろう」と、勝手に思ったりもする。いったい誰が「歴史」を書いているのか?誰か教えてください(笑)。
そんななかで、エジプトの若者たちがソーシャルメディアを使って、新しい「歴史」作りの試みを始めている。それが、「18 days in Egypt」というプロジェクトだ。

http://vimeo.com/35368376 (「18 days in Egypt」動画)

「18 days in Egypt」は、エジプト各地で大規模な反政府デモの起きた2011年1月25日から、ムバラク大統領が失脚する2月11日までの18日間の記録を残そうという試みである。
作り方はカンタンだ。「18 days in Egypt」のサイトを訪れ、自分がいた場所・時間・写真・動画等をアップしていけばいい。フェイスブックやツイッターやユーチューブといったソーシャルメディアと連携させ、そちらからアップすることもできる。(つまり、「18 days in Egypt」のサイト自体がユーチューブのようなソーシャルプラットフォームになっているわけです、はい。)

こうして「18 days in Egypt」上に、あの時、私は何をしていたのか?何を感じていたのか?という大勢の証言が集まってくる。
「あの時、エジプトでなにが起こっていたのか?」
まさに、当事者しか語れない新しい「歴史」作りの試みなのである。

http://vimeo.com/35240707 (「18 days in Egypt」の作り方説明動画)

ところで、この「18 days in Egypt」の中心メンバーであり、上の説明動画で英語ナレーションをしているのは、私のNYU大学院の同級生、ヤスミンである(懐かしい!)。

「ヤスミンはクラスで一番の美人だった・・・」
これは拙著の冒頭の一文だが、彼女は私をフェイスブックの世界に引き込んでくれた大恩人でもある。

パロアルト生まれ(今をときめくフェイスブックの本拠地だ)。カイロと行ったり来たりして育った彼女は、英語とアラビア語の完璧なバイリンガル。NYU大学院の2×2(two by two、2インチx2インチの小画面ビデオ研究)というビデオ制作のクラスでも、そのセンスの良さと奇抜なアイディアとユーモアで、圧倒的な存在感を示していた。
下は、私がイタリア取材(旅行?)で学校を休んでいるときに作られた動画だ。

 http://blip.tv/xtian/assassins-meeting-for-the-first-time-477511(ヤスミン共作動画)

NYU大学院卒業後、ニューヨークで働いていたヤスミンが、ジャスミン革命直後から、国連本部前の「エジプト民主化支援デモ」に熱心に参加していたのは、フェイスブックで知っていた。そしてムバラク政権崩壊直後に、仕事を辞め再びカイロに引っ越したことも。私たちも彼女の安否を気にしてはいたのだが、まさかこんな壮大なプロジェクトを立ち上げていたとは…。

これは、まさにドキュメンタリーが「ソーシャル化」された一例である。今後この大量に集められた「証言」をどのようにまとめあげてくるのか?とても楽しみだ。

 

山脇伸介(やまわきしんすけ)
1991年TBS入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook 世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)

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