あやぶろ/OLD

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201311/25

ホームレスメディア

志村2

 

満月の11月。急に寒くなった週末、日本橋浜町の首都高速下を歩いてたら、
「貧富の差が激しすぎるんだよっ!」
っていう絶叫が聞こえた。
高架下でホームレスの人たちが酒盛りしてたのだ。
ホームレスと高層マンションが同居する人形町。高層マンションには老人たちとベビーカーを押すセレブ気取りの女性が同居する。新大橋通りを金太郎印の前掛けだけ着てる人が駆け抜ける横で、身なりのいいオジサンが立ちションしてたりする。金太郎は多分この人、DJぷりぷり。
みんな、この界隈に生息してるが、決して交わることは無い。自分だって、見知ったホームレスの人はいるが、挨拶なんてすることもない。
でも不思議な人を見かけるたびに、おぉーという叫びが脳内を刺激する。
たとえば、甘酒横丁でよく見かけるこのオジイサン。腰に本屋の袋を下げている。凄まじいまでの知識欲にいつもビックリする。この人を半蔵門線で見かけたときは、なんとマンガを1頁ごとにバラバラにして読んでいた。

 

志村3

 

写真展TOKYO1970で知った内藤正敏さんの作品「東京」にも面白い人がたくさん紹介されてる。
鼻から蛇をいれ口に出す女性とか、元スパイの浮浪者、深夜ゴミ捨て場を徘徊するネズミなどなど。
人形町を散歩するのと同じくらい脳内が刺激される。
内藤氏は都会の異物をハレの闇と呼び、そこに芸能・文化の未来を見た。異物を見ることで他者を知り、他者を知れば新たな知性が生まれる。
お互いが交わらなくても、同じ空間に共存する距離感。園子温監督の東京ガガガのように、まぜっかえすことはしない。参考:地獄でなぜ悪いと東京ガガガ
自分は一度、空き缶でいっぱいのリアカー引いてるオジサンに読み終わったFACTAって雑紙を手渡したことがある。そしたらなぜか「よお」って言われた。
酒盛りのネタにでもしておくれ。
ホームレスといえば、先日NHKのドキュメント72時間で“広島太郎”を探してっていう番組をしていた。広島の繁華街に暮らすホームレスのオジサンを探す番組。
結局会えなかったのだが、淡々と広島太郎を探す感じが、今風でリアルだった。内藤正敏さんの執念深さとは正反対な感じ。どちらも、その時代のメディア的空気感なんだろう。
広島太郎や高架下のオジサンは、内藤さんの紹介した闇というより光の世界の住人だろう。高架下のオジサンが叫んだ収入格差は、光の世界のなかでの格差である。
そして、NHKのドキュメントが淡々とした感じだったのは、闇の世界にまでカメラが踏み込んでないからだ。というより、踏み込む闇が都市の内部に無いのかもしれない。
以前書いたテレビ三角論でメディアの役割は提示であると考えた。なにを提示したらいいのか?内藤さんの写真を見てると、それは闇であると思える。しかし、闇が消えつつあったらどうだろう。
提示する役割が消えたら、メディアには結局一斉同報といった機能しか残らない。つまり、視聴率や部数といったビジネス的な要素だけ。
ただ、どんな時代にも闇は残るし、闇にダイブするメディア的な人は出現する。そんな人が次のメディアを作っていくんだろう。

 

 

オマケ

 

内藤氏がこれらの写真を撮りまくっていた1975年から85年、東京都の人口は初めて減少した。その後1985年から2005年まで東京都の人口は増え続けたが、それ以降また人口が減り始めた。しかし、関東近郊から東京へ流入する人口は増加してる。年間約5万人が引越してくる。

 

写真集東京で、内藤氏は東京タワーにカメラを据え付け1時間に2コマずつ10年間撮影を続けると、2時間の映画が出来上がると書いている。オモシロイなー。
また、芝増上寺と上野寛永寺が江戸を守っていたとあった。いま、増上寺には東京タワーが立ち、押上にスカイツリーが建ってる。関係あるんだろうか。

 

2013年12月2日号で連載が終わった週刊スピリッツのマンガ、プラモ男子とプリチー女子は、ガンプラマニアの40歳ミズオの部屋にイエナという20歳女子が押し掛け、一緒に暮らし始めるという物語だった。園監督は部屋に引きこもるっていう断絶を伝説東京ガガガで描いていた。プラモ男子とプリチー女子は、引きこもる部屋に異物がやってきてグジャグジャする、いま考えるとずいぶん高尚なマンガだと気づいた。

 

 

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
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