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20133/30

Googleにもできなかったメタデータ作成の現場を見た

 

一口にメタデータといっても、想像していた以上にリッチな内容だ。ただテレビ側の人間として気になるのは、データの正確性だ。データ入力センターには品質管理セクションがあり、見出し文と内容が合致しているか、誤字脱字、文法的に正しい表現か、映像と合致しているかをチェックしている。ここにはオペレーターの中でもベテランを配置し力を入れているそうだ。ちょっとおかしいと思ったら元映像をすぐ呼び出してチェックでき、間違え易いキーワードを登録しておいて、危険度によってレベル1〜3に分けて表示するなど一目でわかるような検索システムを使用している。この検索プログラムは自社開発だという。

 スクリーンショット 2013-03-29 16.07.09

自社開発のチェックシステム

 「それでもミスは発生するんじゃないですか?」と意地悪な質問をしたら、「絶対にないということはないけれど、2〜3ヶ月に1回程度、情報差異やお店や商品に関する専門的な問い合わせが来る程度」だということだ。電話番号を間違って表示してクレームになるなんてことはないそうだ。

 

さてどのような企業がこれを利用しているかというと、番組情報データを使っているのが放送局、キャリア系企業、大手シンクタンクなど。商品情報を使っているのはヤフーショッピングなどEコマースサイト。店や宿や施設などの情報は、ぐるなびやヤフートラベルなど。今注目を集めているスマートテレビや全録機では、東芝レグザ、スパイダーなどで採用されており、採用検討中の企業も複数あるとのことだ。

 

ただし日本全国の番組情報がある訳ではない。今の守備範囲は東京圏、大阪圏、名古屋圏(いわゆる東名阪)に限られており、それ以外の地域、例えば静岡県や宮城県などのローカル番組情報はない。今後は福岡と北海道に広げる予定だそうだ。また地上波以外では現在伸張著しいBS放送をターゲットに入れている。

 

現在、次世代のメタデータシステムを構築中で、EPG(電子番組表)と連動するなど、さらにリッチにしてハイブリッド化させとのことだ。

 

エム・データ社がメタデータを扱い始めたのは十年程前からだが、形が整い始めたのは2003年頃からだそうだ。3年前から売上も増え始めたが、同時平行してシステム投資も増え、Eコマース用システムができるとスマートTV用システム、さらにビッグデータ用システムの先行投資と、ベンチャーならではのチャレンジングな経営を続けて来た。昨年あたりからようやく安定的に利益を出せるようになったそうだ。

 

同様の事業を展開している企業は他にもあるが、データの精度や多様性、サービスの充実度でかなりの差があるようで、最近、エム・データ社に乗り換えるクライアントが増えており、在京キー局からの様々なアプローチが急増しているそうだ。また経産省とは、世界でも日本だけのこのメタデータ事業をクールジャパンに載せて海外展開する協議をしているそうだ。

 

実は私が7年程前にある企業との共同事業を担当していた時、このメタデータを使ったビジネスモデルを提案されたことがある。しかしその頃のテレビ局は、エム・データ社のような企業を「勝手メタデータ屋」などと失礼な言い方で呼んでいた。つまりテレビ番組の内容を勝手に利用して金儲けをしているという訳だ。それならテレビ局自らがメタデータを作成しビジネスにすればいいようなものだが、そんな面倒で手間がかかる事をやっても、いくらも儲かりはしないと放置しておいたのだ。そしてその時は、そんなものを利用するビジネスなどできないと提案を断った。

 

このような逆境のなかでエム・データ社の関根社長は「テレビのメタデータは必ず決定的に重要になる」という信念を捨てず、事業を育てて来た。

 

そして冒頭にも書いたが、あのGoogleでさえ頼ってくるような企業になった。
今から考えてみれば、関根社長が途中で止めないでメタデータをここまで育ててくれて本当に良かったと思う。

 

このメタデータ利用は一つの放送局だけがやっても意味はない。例えば新聞のテレビ欄は全局のデータがあって、初めて利用価値がある。1局ずつバラバラにしたら使いにくい事このうえない。メタデータも同じだ。各局が別々にメタデータを利用するプラットフォームやアプリを作ってもユーザーは面倒で使ってくれないだろう。全局が一緒にやることに意義がある。ところが現状は、局によって温度差がかなりあり、なかなか足並みはそろわないようだ。

 

ノロノロしているとGoogleやSamsungにやられてしまうぞ!とアラームは鳴らしておく。

 

 

氏家夏彦プロフィール

株式会社TBSメディア総合研究所代表
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。

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