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20133/6

「英国のテレビは面白い!」プラスの生態圏とネットメディア化(小林恭子)

―支える批評空間と視聴者

 

ライバル放送局との競争は、もちろん、日本でも盛んだろう。

 

しかし、視聴者数のみが番組の評価を決めるのではない。

 

大きな力を持つのが雑誌や新聞の番組評価だ。BBCが出す「ラジオ・タイムズ」(「ラジオ」とあるが、テレビの情報も入っている)を先駆者として、日本同様、英国には番組予定表やスターのインタビューなどを掲載した雑誌がたくさんある。

 

一方、新聞の評価も重要だ。英国の新聞は週末版で大きくページを増やすが、その土曜日版と日曜日版にはそれぞれ雑誌が付いてくる(英国の新聞は平日紙と日曜紙に分かれている)。

 

この雑誌はテレビやラジオの番組表とともに、注目の番組、映画、音楽、書籍、芸術の長い紹介記事、レビュー記事が満載だ。映画、書籍と並ぶ、批評に足るコンテンツとしてテレビ(やラジオ)の番組が並んでいる。

 

番組放送の翌日には、どの新聞も「前日のテレビ」と題するコラムを掲載して、批評する(番組評は日本の新聞にも出ていることは知っているが、この後の段落を読んでいただきたい)。

 

「批評」といっても、難しい話ばかりではなくて、専門のコラムニストがああだこうだと雑多なことを書く。こうした批評が新聞サイトやブログサイトなど、ネット上に氾濫する。紙やネット上の批評・雑談が口コミとなって広がる。一種の生態圏ができてゆく。

 

放送された番組について、あれこれ批評したり、雑談する習慣は、BBCが生まれた1920年代から続いている。自分たちがお金を払っている組織の活動について、英国の視聴者たちは文句を言ったり、ほめたり、話題にしたりする。

 

視聴者は、英国放送業界の生態圏の重要な一員である。制作者だけでも、批評家だけでも十分ではない。実際に番組を視聴し、感想を述べ、また番組を見るためにテレビの前に座ってくれる人たちだ。

 

放送業が生まれる前から考えれば、例えば演劇の制作者、上演者たちがいて、劇場に来る観客や批評家たち、批評を掲載する媒体、街中や家庭での雑談などが,一まとまりの生態圏を形作っているのと同様である。

 

放送業の生態圏の中で、番組制作者たちが競うのは(視聴者数もさることながら)質である。

 

・・・と書くときれいごと過ぎると思うかもしれない。確かに、視聴者数はできる限りたくさん欲しいし、広告がなければ民放は営業停止に陥る。しかし、放送局あるいは制作者の評判がぐっと上がるのは、質の高い番組を作ったときだ。

 

英国のテレビ界に低俗な(といわれる)番組がないかというと、そうではない。

 

「低俗」の解釈にもよるが、例えば、「覗き見主義」として識者に批判された、「ビッグブラザー」という番組(当初、チャンネル4で、後にチャンネル5で放映)は大ヒット作品となった。数人の若者たちを外界から遮断した形で合宿生活をさせ、その様子を24時間、カメラで撮影し、ハイライトを放映する番組だ。

 

「ビッグブラザー」のように(この番組自体が悪いわけではないが)、視聴者数が高いだけでは尊敬はされない。

 

もちろん、お金をかけて人材に投資し、質に自信を持った番組が同業者の評価を受け、たくさんの視聴者にも支持されたら最高である。

 

どの局も、同業者からも、視聴者からも、批評家からも「これはすごい」と思わせるような番組作りに力を注ぐ。そんな番組ができれば、広告主だって喜ぶのだ。

 

 

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