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201212/31

テレビの今と未来は?何をするべきか?…今年を振り返って考える①

今年一年、あやとりブログ上では「テレビは?」、「メディアは?」、「デバイスは?」など様々な議論が繰り広げられた。あやとりブログ管理人としては、もっと議論を活発にできたのに…と反省することは多々ある。お詫びの意味も込めて、年がかわる前に思い切って総括してみることにした。

まず、テレビやインターネットなどのメディアに今何が起きているのかを、一般に公開されている各種データから読み取る。そして、「あやとりブログ」のポストを元に、次には何が起きようとしているのか、そして、テレビが進化し新たなブランドとして再生するためにはどうすればいいのかを考察した。

実はこの原稿の初期段階のものをベースに「提言」を作成し、TBSメディア総合研究所の親会社に提出したばかりだ。ひとつのテレビ局への提言ではなく、メディアとしてのテレビへの提言として書いたつもりだ。今回のポストも、提言というスタイルをとることにした。

なお記事の分量が多いので、3回に分けて掲載する。

 

【前説】

インターネットの一般化、特にTwitterやFacebookなどソーシャルメディアの爆発的な浸透によって、メディアは急激に変化し、最強のメディアと言われてきたテレビもその影響を強く受けている。テレビの外の世界では、いわゆる4マスと言われるメディアはオールドメディアと分類され、オワコン=終わったコンテンツなどと言われる事さえある。

だが新聞や雑誌の広告市場の激しい縮小に比べれば、テレビ広告市場の縮小はまだ穏やかであり、テレビの力は今でも十分強大だ。例えばテレビ番組である書籍をごく短時間取り上げただけで、その本は簡単にAmazonのランキング1位に躍り出る。インターネットには双方向性があり、ユーザーとの強い共感関係を構築できると言われているが、リーチ力、認知度を高める力では、テレビにはとてもかなわない。半世紀以上もの間、メディアの王者として君臨したテレビがそう簡単に滅びることはない。

しかし様々なデータを分析すると、テレビのメディアとしてのパワーが徐々に弱くなっていることが確認できる。影響力、説得力、共感力を失っていく状況を変えるために有効な手だてを打てずにいれば、無料広告地上波放送という極めて効率の良いビジネスモデルが弱体化し、コンテンツ作成に必要な資金が得られなくなる恐れは十分ある。

テレビが最強メディアとしてのパワーを保持している間に、次のフェーズへ向けての進化に成功すれば、テレビは新たな存在価値を見いだし、これまでとは違う次元で強い影響力を持つ事も可能だ。このようなことは、10年前から繰り返し指摘されていたことだ。しかし有効な手だてを打たなかった結果、今の状況に陥ってしまったのではないだろうか。残り時間は刻々と少なくなっている。今ここで正しい危機感を持たなければ、気づいた時には手遅れになっているだろう。

【インターネットの状況】

 インターネットやソーシャルメディアは急激に普及している…と言われるが、実際はどの程度なのか、データや様々な白書で確認してみる。


*インターネットは高齢者にも普及
総務省・人口統計データと情報通信白書の世代別インターネット利用率を元に作成した。

 スクリーンショット 2012-12-29 18.02.39

10代から40代は、ほとんどの人がインターネットを利用している。50代でも86.1%、60代は68.4%、70代でも半数近い42.6%がインターネットを利用しており、高齢者もインターネットを利用しているのが実態だ。


*2020
年には60代以上9割がインターネットを利用?
電通総研の調査データを元に作成した。青色が実施された調査、灰色は推測値。

スクリーンショット 2012-12-29 18.03.16

調査回数は少ないが、仮にこの勢いで利用が広まれば、8年後の2020年には60代以上の9割以上に普及すると推測される。これは10代〜40代と同じレベルだ。


*60代以上のネット利用者の8割以上がネットで買い物経験あり
「インターネット白書2012」(財団法人インターネット協会監修)によると、60代以上のネット利用者の8割以上がネット購入経験があり、この割合は20〜50代とほぼ同じだ。60代以上にネットがさらに普及すれば、個人消費が拡大する可能性がある。

インターネットはむしろ高齢者にこそ便利なツールといえる。体を動かさなくても世界を知り、友人が増え、モノやサービスを買える。ユーザーインターフェースが改善されれば、さらに急速に普及するだろう。テレビ視聴の大票田であるのが高齢者なので、これがテレビに与える影響は、テレビにプラスになることはないだろう。
*  日本のソーシャルメディア人口は急増
「インターネット白書2012」(財団法人インターネット協会監修)のデータを元に作成した。ソーシャルメディア人口とはSNSとマイクロブログ(mixi、Facebook、Mobage、GREE、Twitter等)の利用者数としている。

スクリーンショット 2012-12-29 18.03.46

現時点で、5000万人、国民の半数近くがソーシャルメディアを利用し、そのうち65%が情報発信をしている。しかもその人数は年々増加が加速している。このペースで増加すると仮定すれば、2015年には利用者が9000万人(総人口の75%)、情報発信者は6500万人(54%)にまで普及することになる。こうなると社会のコミュニケーションの仕組みが大きく変化し、社会の意思決定の仕組み自体が変わってしまうだろう。

すでに社会の大変化の兆しはいたるところに現れている。ジャスミン革命をはじめとしたアラブの春や、オバマ大統領の就任、総理官邸への反原発デモなどリアルな現象として現れているものだけでなく、視聴者のテレビ離れもソーシャルメディアの影響による要素が大きい。もはや変化は徐々に起きるのではなく、非連続的に、段階を飛び越えて起きるようになってしまったことを認識するべきだ。


*ソーシャルメディア内で消費行動の全プロセスが成立
10月末に開かれたアドテック東京で、博報堂DYグループが発表した「実効フェーズのSNS戦略」によると、ネット利用者の9割程度がソーシャルメディア(Facebook、Twitter、mixiなどのSNS)を利用しており、10〜50代くらいまで普及している。

さらに…

  • 買い物時の情報源として利用している=65.1%
  • SNS公式ページで商品・サービス情報を見る=63.6%
  • その後HPのURLをクリックする=51.3%
  • 商品やサービスの評判を調べる=約3割
  • SNSの友人・知人の情報を購入の参考にしている=33.7%
  • 購入体験を情報発信する=42.5%

既に、ソーシャルメディアは消費者の消費行動に深く関わるようになっている。

広告宣伝に対する消費者の心理プロセスのモデルAISAS理論(Attention:注意→Interest:関心→Search:検索→Action:行動→Share:情報共有)はよく知られているが、ソーシャルメディアは、この全てのプロセスを内包している。

ソーシャルメディアが消費行動への影響力を増加させた分、テレビ広告は相対的に影響力を低下させているといえる。それは、テレビ広告の広告価値の低下を意味する。

【テレビの状況】

 次に、テレビは今どうなっているのか、「テレビ離れ」と言われている現象は本当なのか、データからテレビの現状を見てみる。

 *視聴率は低下し続けている(7年間の下落率は17%)
民放各局の年度平均視聴率を合計した数字とプライムタイム=P帯のHUTの推移だ。2012年度は12月1日時点での年度平均視聴率値を使用している。

 スクリーンショット 2012-12-29 18.04.06

P帯は7年間に、61.2%から50.8%へ10.4ポイント減少、TBS1局分の視聴率がなくなってしまったという事になる。下落率は17.0%にもなる。2011年度は続いていた下落も止まったかに見えたが、今年度になって、再び下げ幅を拡大している。その他視聴率が増えているにもかかわらず、P帯HUTも低下を続けている。

 

*テレビ視聴時間は減少
NHK放送文化研究所の一日の視聴時間のデータから作成した。2000年から2010年の10年間のテレビ視聴時間を比較している。

スクリーンショット 2012-12-29 18.04.21

テレビ視聴時間はこの10年間で50代以下は男女とも減少し、特に女性の20代は48分減、30代は45分減と、女性の減少幅が大きい。70代以上のみが視聴時間が増えている。
*テレビ視聴時間はこの1年で急減
「2012デジタルコンテンツ白書」(経済産業省商務情報政策局監修)の、2010年と2011年の1日のテレビ視聴時間変化のデータから作成。

 スクリーンショット 2012-12-29 18.04.37

前項のNHK放送文化研究所のデータに比べると、わずか1年間でテレビ視聴時間は大幅な減少している。白書では、原因としては、地デジ化で家庭の全てのテレビがデジタル化できた訳ではないことと、東日本大震災の影響が考えられるとしている。震災後「メディアに対する信頼感が低くなった」という人は15%超となった。

 

*高視聴率番組の減少
ドラマの歴代視聴率トップ20番組を横軸が年代、縦軸が視聴率でプロットしたものだ。

 スクリーンショット 2012-12-29 18.04.55

 20世紀の番組数の多さに比べて、21世紀はわずか3番組、しかも2003年のグッドラックを最後に、2011年の家政婦のミタまで8年間はベスト20に入る番組は一つもなく、高視聴率番組は少なくなっている。

 

*BS放送の接触率は増加

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地上波放送の視聴率が減少する一方で、BS放送は接触率を急速に延ばしている。この好調の背景には、普及世帯が4年前の2000万から3786万世帯(全世帯の7割)に大幅に拡大した事がある。
地デジ化対応のテレビ受像機では、コントローラーにBSボタンが付いたことの影響も大きい。以前のコントローラーでは、BSを見られるまで面倒な手間がかかった。しかし今は、地上波放送からシームレスにボタン一つでBSに切り替わる。

売上も急増している。BSTBSではこの2年間は、前年比2割増に近い。
利益率も高い。BSTBSの昨年度の経常利益率15%、BS日テレでは3割といわれている(BS日テレの場合は、巨人戦の権利処理など特殊事情あり)。
高い利益率の背景には、電波を出すためのインフラコストの低さがある。いわゆるトラポン代は年間わずか6億円弱で、基本的なインフラ費用はこれだけあり、関東だけでも必要な中継局が150カ所、北海道では200カ所にものぼる地上波とは大きな違いだ。

 

*広告費は下げ止まると予測されているが・・・
民放連の経営四季報の夏号では毎年、2020年までの媒体別広告費の推移を予測している。このデータと、電通の「日本の広告費」のデータを合わせてグラフ化してみた。

 スクリーンショット 2012-12-29 18.05.26

この予測によると、4マス広告費は今年2012年で下げ止まり、テレビ広告費は若干増加した上で2020年まで水準を維持、急激な低下を続けている新聞と雑誌も下げ止まり、2012年以降も同水準で移行する。一方、増加を続けて来たインターネット広告費は、2013年以降は増加が止まるとしている。

ところが別の予測もある。下は、2年前の2010年に出された同じ民放連の予測データより作成したものだ。

 スクリーンショット 2012-12-29 18.05.41

今年の予測との違いが一目でわかるのが、2020年にかけてテレビ、新聞、雑誌、ラジオとも減少し続ける点と、インターネットが増加を続ける点だ。
テレビ広告費は2010年予測に比べ、2010年、2011年と実際は2年連続して低い実績となっている。予測のベースとなる日本経済の前提条件は、楽観的な予測をした2012夏号の方が、GDP前年比など、どれも2010夏号より低い数値だ。それにもかかわらず、2012夏号予測では2013年以降、減少せずに現状維持の予測となっている。

なぜこれだけ予測が変わったのか、その根拠については「前提とした経済環境が極めて低位安定的なものだったことが最大の要因」とした上で、「少なくともマス4媒体広告費の長期低落傾向にようやく歯止めがかかりつつあることは、かなりの蓋然性を持って指摘可能であろう」と、多少強引に結論に導いているように読める。マスメディアの広告費下落は、本当に止まるのだろうか。

少なくとも、テレビ広告費は下げ止まりインターネット広告費の増加も止まるという前提で経営に臨むのは、危険なのではないだろうか。

 

*2011年メディアは戦後最大の変化を起こした
この図は『デジタルコンテンツ白書2012』(経済産業省商務情報政策局監修)巻頭の特集「メディア大激変時代へ」の中に掲載されていた図を元に作成したものだ。

スクリーンショット 2012-12-29 18.06.05

この特集記事では、「2010年から2011年にかけてメディアは戦後最大といえる変化を起こした可能性がある」と指摘し、各種メディアへの接触時間が大きく変化した様子をデータで示している。

一日のテレビ視聴時間は152分から134分へ大幅に減少、減少率は11.8%。
PCによるネット利用時間は、173.5分から151.4分へ大幅に減少、減少率は12.7%。
携帯電話(いわゆるガラケー)の所有もしくは利用率も10.3%の減少率。
ゲーム機の利用率は最も激しく減少し、減少率は47.1%と半分に。
その代わりに増加したのはスマートフォンとタブレット端末の利用率だ。
スマートフォンの利用率は2.7倍、タブレット端末は2.1倍にもなっている。

この大きな変化の背景には、スマートフォンでソーシャルメディアやソーシャルゲームを利用する人が、急激に増えていることがあげられる。

また、今年のデジタルコンテンツ白書の特集では、もう一つ、注目すべき指摘がなされている。

今後のメディア環境では、パソコン・スマートフォン・タブレット・テレビの「4スクリーン」が中核的なフレームとなり、新聞・書籍・雑誌・ラジオ・電話などの従来型のメディアは、この中に取り込まれていく、そして、クラウドを中心にデバイスとサービスを連携させながら、新しいユーザー体験を提供するところに無限といえる可能性があり、映像を含むマルチメディアコンテンツは、「4スクリーン+1クラウド時代」を迎えつつあると指摘している。

クラウド上の動画を見るのは、パソコンでも、スマホでも、タブレットでもかまわない。どんなデバイスでも、ネットにつながっていれば見る事ができる。

これが実現すると、半世紀以上の間、番組という動画コンテンツを流通させる唯一のデバイスであったテレビ受像機は、多くのデバイスの中の一つになってしまう。しかもこれらデバイスは全てインターネットでクラウドと結びつく。そのクラウドから供給される動画コンテンツは、テレビ放送ではない。もちろんテレビがクラウドとリンクするためにはインターネットに接続しなければならない。その際には、テレビに映し出されるのはテレビ放送ではなく、インターネット上のコンテンツだ。

2010年から2011年への大変化はこれで終わったのではなく、今後も続いてゆく。

 

IT技術やネットワーク環境の進化は加速し、メディア状況は急激に変化している。その激変の中で、テレビの居場所は徐々に少なくなっているようだ。インターネットやソーシャルメディア、テレビに関する様々なデータを検討すると、メディアとしてのテレビ、ビジネスとしてのテレビが置かれた厳しい状況が見えて来た。

しかしテレビはもうダメかというと、そんなことはない。あらゆるメディアの中では、圧倒的なリーチ力を保持している。だからこそ、まだ動ける余力があるうちに、次のテレビへ向かって自ら変化する方向へ舵を切らなければならない。これは前述したように、これまで何度も言われていきたことだ。ただかつてと違うのは、状況がはるかに切迫しているということだ。我々に残された時間はもう少ない。これを直視できなければ、判断を誤り未来はなくなる。

 

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