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20122/8

稲井さんのポストの伏線となった正月に展開した仲間内のやりとりを公開しちゃいます― 氏家夏彦

管理人の氏家です。

昨日アップロードした稲井さんのポスト、刺激的な中味でした。前川せんぱいの先日のポスト「テレビCMは死んだか…」のあやをとったものですが、実はそれ以前にフェイスブック上で展開された仲間内のやりとりが発端になり、前川せんぱい、稲井さんのポストにつながっていたのです。
このやりとりをもう一度見直してみたら、かなり面白く、このやりとり自体をポストとしてしまうことにしました。

なおフェイスブックでのこのやりとりは、「あやとりブログ」という非公開のグループで繰り広げられたので、フェイスブック上ではメンバー以外は見られません。

登場するのは、あやとりメンバーの前川せんぱい、稲井英一郎さん、あやぶろにはまだ投稿していただいていませんが、私がお願いしてグループに参加していただいた今谷秀和さん(関西電通)と山本一郎さん(アルファブロガーとして有名な)と私、氏家です。

********************************

やりとり その①

■Eiichiro Inai(1月3日 10:48)
アスキー総研の論。ただし単純なテレビ崩壊否定論ではありません。新しい媒体やソーシャル、ブラウザ、アプリとの共存を模索しないと、そのテレビ局はおいていかれそう。
米ヤフーが買収したIntoNowは再生中のテレビに画面をかざすと、いま放送中のどのチャンネルか、あるいは何年前の何月何日に放送されたどの番組のどのシーンかを教えてくれる機能をもつ。テレビ動画そのものが検索される時代になったことを逆手にどうとるか?

≪リンク≫
「テレビ崩壊」はウソだと思う
「いまの若い人はテレビ見ない」ということがよく言われる。アスキー総合研究所にも「若者のテレビ離れに関するデータはないか?」というお話を何度もいただいている。たしかに、アスキー総研のデータでも20
代は8.8%が「テレビをまったく見ていない」と答えているし、「5分未満」という人も4.1%いる。20代の約10%は、テレビのない暮らしをしているといってよいだろう

■今谷 秀和(1月4日 1:01)
遠藤さんは冷静に見ておられますね。私もこの記事は注目しておりました。ウェブ信者からはいたずらにテレビ崩壊論が出てきますが、現実は大半の人がテレビを普通に楽しんでいます。もちろん、過去の栄光にすがってあぐらをかいているワケにはいきません。テレビ業界は焦ってウェブ系の企業と不平等条約を結ばされるんじゃなくて、逆にうまく利用すればいいと思うのです。

■山本 一郎(1月4日 3:23)
所長さんが言ってるのはテレビではなくて動画の話で、動画は崩壊しないと言っているだけで動画を流すCarrierについては何の知見も示していないと思うのですが、どうなんでしょうか。

■Eiichiro Inai(1月4日 17:18)
「動画」というのは、変化が連続する静止画を高速で切替ると脳内で静止画が動くように見える錯覚を利用した「表現様式」ですので、そもそも「表現様式」の崩壊というのは論理的に成り立ちません。
ただご指摘のように論者は、従来型テレビのビジネスモデルが生き残るとも言っておらず、新たな機能をもったテレビデバイスが次の時代の技術革新の舞台になるという見通し示しています。
どのデバイスが主流になるかは分からないので、それにビジネスモデルが合うように自己変革していければ、単純なテレビ(局)崩壊論は成立しないとも受け取れます。

■山本 一郎(1月4日 22:45)
ええと、語弊があったようなので恐縮しつつ、改めて申しますと、キャリアー(デバイス)とレギュレーションの問題に踏み込まない限り、テレビ局のビジネスモデル、とりわけ高い占有とそれに伴う広告効果の高さ、ひいては基礎的な利益率の高さを論ずることができません。
彼が言っているのは映像を流すにあたっての技術的、表層的なマーケティングの概観と、規制の枠組みがそもそも違うコンペティターのところまでであって、テレビ業界の話ではないように感じつつ読んでおりました。

 

やりとり その②

■Eiichiro Inai(1月4日 17:25)
実証的研究と語り口の面白さで知られる電通の奥律哉さんのテレビ論です。
暮れに氏家さんが言及されていたバルス祭り(ラピュタでの呪文)などを引き合いに出して、「ソーシャルメディアなどの普及に伴い視聴者が編成どおりの時刻にテレビ前へ戻ってきた」という見方を示しています。

≪リンク≫
ソーシャルメディアが示すテレビとネットの親和性–
電通総研・奥氏
ソーシャルメディアの隆盛によって実現した、ユーザーに求められる放送・通信の融合について電通総研研究主席の奥律哉氏に聞いた。

■今谷 秀和(1月4日 21:34)
個性の時代とか個人の時代とか言っても、結局はみんなの見ているものは見てみたいという欲求は変わらないのでしょうね。

 

その③

■Eiichiro Inai(1月4日 17:47)
3連投。
「テレビ視聴時間が減っている」という現象が事実のように語られることが多いのですが、データを見ると事実は違います。博報堂MPの調査は昔から定評がありますが、年毎の変動はあっても一定の水準でずっと推移しています。身近な例だけで論を組み立てても、マクロの実証データで確認しないと産業は動向も企業分析も誤る、という実例ではないでしょうか。
ただ繰り返しになりますが、だからといって従来型テレビ経営が保証されていることにはなりませんので・・・

≪リンク≫
博報堂DY
メディアパートナーズによる「メディア定点調査2011」、
一日のメディア接触時間は昨年並みの350

今回行われた調査は、メディアのデジタル化に伴って次々と登場する「ハードウェア」や「サービス」について生活者の接触実態を把握し、広告メディア市場形成の「兆し」を発見しようという目的のもと、メディア環境研究所の活動の基礎となる調査として2004
年より継続的に実施しています。調査結果は以下の通り。

■今谷 秀和(1月4日 21:32)
受動的メディアはそれなりに強いということでしょうね。自分を顧みても、年がら年中能動的にはなれませんもの(笑)

■前川 英樹(1月5日 10:45)
稲井さん
「あやぶろ三連投」どれも面白く読みました。一方、テレビマンユニオンニュースの重延テレビ論(これについては「あやブロ」に書きました)やTBS「調査情報」の今野テレビ論(これについても何か書こうかな)がテレビ側から投げかけられています。ところが、稲井さんが取り出してくれた三つのレポート(もちろん夫々独立したものですが)に共通している「分析的」視点と、重延・今野的(と括れないのだけれど)の「創造的」視点がかみ合わないのですね。これは、今に始まったことではないのだけれど、逆に双方(テレビ的・ネット的)が接近する局面が増えた分だけそれが目立つのです。ここを書くのが次のテーマですけど、その意味で?「あやブロ」は結構良いポジションのように思います。稲井さんも何か「稲井的」を書きましょう。

■山本 一郎(1月5日 15:49)
>「テレビ視聴時間が減っている」という現象が事実のように語られることが多いの
>ですが、データを見ると事実は違います。

前述のアスキー総研のデータとつき合わせると一目瞭然ですが、テレビ視聴時間が増えていると思われるのは60代であって、若年層のテレビ経由の情報摂取は漸減し続けてます。
上記、博報堂MPのデータは年齢属性を丸めた数字として発表しているので横ばいに見えるだけで、正規の購入されたデータを読む限り、視聴者と一緒に年をとるメディアとしてのテレビが浮き彫りになっているのではないでしょうか。
逆に、ニールセンのネット視聴率のマスデータから逆算しても、30代以下のテレビ視聴の時間は一貫して減っていると推測されますし(可処分時間が劇的に増えていない&ネットに使う時間が5年間で一日42分増)、ながら視聴は97年ごろから「当然のこと」になって増加していません。
録画やワンセグによるタイムシフト視聴も2006年からむしろ減り始めています。

■今谷 秀和(1月5日 16:01)
たしかに若者のテレビ視聴時間の減少は実感としてありますね。

■Eiichiro Inai(1月5日 17:35)
えーと、世代別の視聴傾向についてはご指摘の通りで、総量としてのデータを提示しただけなのですが…あまり論争の場にするつもりはありませんので~テレビ産業擁護論をはっているわけでもありませんし。

■前川 英樹(1月5日 21:30)
ちょっとフォローします。
山本さんも稲井批判が趣旨ではないと思います。博報堂MPのデータ解釈に無理があるという指摘でしょう。
その上で、「稲井三連投」以下のように考えます。
稲井さんが、三連投したのは、「あやブロ」で前川が重延テレビ論で書いた「この5年間で単純なテレビ崩壊論も変化してきた」、ということをフォローする意図で三つの事例を拾ってみたと理解しています。ということは、データ解釈の問題ではなく(もちろん、それは大事なのですが)、そしてその解釈に稲井さんが同意しているということでもなく、アスキー総研のようなシンクタンク?も「テレビ崩壊」に依拠しないレポートがあるよ、ということをピックアップしたのだと思います。アスキー総研の事例を紹介したときに、「テレビ擁護論」ではないと断りをつけていました。
ということは、単純な「テレビ崩壊論」も、単純な「テレビ擁護論」も既に無効で、新たなテレビ論を作るべきだということでしょう。もちろん、テレビ不要論=テレビ論不要論もあるとしてです。
少なくとも、私は新たなテレビ論があるべきだという立場で、先ほどコメントしたところです。
というのが、「三連投」についての私のフォローです。

どうでしょう、氏家さん。

■山本 一郎(1月5日 21:56)
inaiさん前川さんありがとうございます。
別段、inaiさんを批判する趣旨ではなく、博報堂MPの記事のタイトルが「一日のメディア接触時間は昨年並みの350分」となっていて、属性ごとの数字の変遷が大事なのに総量で横ばいとか言っているのはおかしいんじゃないのと思って書いたところでありました。
電通のラテ至上主義からのデジタルシフトも踏まえて一昨年から来年ぐらいまでのアプローチはとても大事なので、リサーチのテーマと属性の切り方をしっかりやらんとテレビ業界どころかIT系もtube floodに呑み込まれかねないなあという危機感を強く持っております、はい。

■Eiichiro Inai(1月6日 21:57)
前川さん、明晰なご解説ありがとうございます。崩壊もしていないが、日本のテレビ局は苦境にあります。漂流している印象です。●●(大人の事情で伏字にしますby管理人)時代から投資家の厳しい質問にさらされ常に自問自答する環境に置かれてきました。いまも探しています。難しいけど、でも考えがいがありますね!

■前川 英樹(1月7日 8:24)
「テレビ崩壊」と「テレビ局崩壊」の関係というもう一つの論点が出てきましたね。

■氏家 夏彦(1月10日 11:44)
なんともお恥ずかしい事に、このような熱い(面白い)議論が交わされていたことに、今気が付きましたです。乗り遅れた~、もったいなかった~!今のテレビ(編成を含めたソフトとして)離れ=テレビのメディアとしてのパワー低下は明らかです。20%をとれる番組がほとんどなくなったことが何よりの証拠でしょう。しかし原因は、番組がダメになったためという要素は少なく、テレビよりおもしろいネットに時間とコミュニケーションを奪われたからだと思います。この辺からあとは語りだすとすごーく長くなりそうですね。テレビは凄く強力な情報伝達手段ですから崩壊はないですが、テレビの無料広告放送というビジネスモデルは今の市場規模を維持することはできない(=崩壊)のも、覚悟しなければならないでしょう。こんなこと、ここだから言えるw。非公開グループっていいですね!

*********************************

私がこの刺激的なやりとりに参加したのはお読みいただいたように最後の最後、気付いたのは全てが終わってからでした。管理人として反省していますm(__)m
皆さんのコメントはほとんど“まんま”使わせてもらいました。従って私の「こんなこと、ここだから言える」の部分もほとんど“まんま”使います。
また山本さんの「一昨年から来年ぐらいまでのアプローチはとても大事なので、リサーチのテーマと属性の切り方をしっかりやらんとテレビ業界どころかIT系もtube floodに呑み込まれかねないなあという危機感を強く持っております」の指摘は非常に重要だと思います。これについてはまたどこかで触れます。

こんな風に、過程を見せてしまう!というのは、私は大好きですので今後も機会があればどんどんエントリーします。

 

氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。フルマラソンでサブ4を続けるのが目標です(次の3月は危ない)。

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