[けいおん!は一期を見なきゃダメだよ、河尻さん]…氏家夏彦
河尻さんの前回のポスト、面白くて思わずあやをとってしまいました。
まず、映画「けいおん!」ですが、テレビ・シリーズを見ないで映画だけを観た人がいたら、きっと河尻さんのような感想を持つでしょう。というか「何これ?どうして大ヒットするの?」と思ってしまうでしょう。やはり最低でもテレビの一期は観ておかないと。
映画「けいおん!」は異例の13週(普通は5週)のロングラン興行で興収17億円超えが確実な状況です。リア充も観なければここまでいきません。「まど☆マギ」は(萌え)+(シリアス)+(タイムパラドクス)+(予想外)でヒットしましたが、「けいおん!」は(萌え)+(淡い成功物語)+(親近感)+(リアルに繋がる)+(京アニ)で超大ヒットです。澪ちゃんが使うレフティのベースギターが楽器店から姿を消し入荷が数年待ち状態になったり、学校の軽音部の部員が急に激増したり、ローソンでオリジナルグッズが売り出された瞬間に売り切れたりという現象は、アニヲタだけの市場規模では起こりえないです。私でさえ唯ちゃんモデルのエレキギターを買ったくらいですから(まったく弾いてませんがw)。
この辺は、とにかく一期を見てもらえばわかります。今度、TBSメディア総研に私物のセットを持ってきておきますので是非、ご覧ください。
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「ふたりのヌーヴェルバーグ」と「マイバックページ」は観たいですね。後者の方は幸いDVDが出ているようなのでTBSメディア総研で入手します。
東大安田講堂事件の頃、自分は中学生で静岡に住んでいて遠い世界の出来事のように感じていました。庄司薫の「赤ずきんちゃん気をつけて」が芥川賞を受賞した頃で、僕らの世代からちょっと後までは「三無主義」(無気力、無関心、無感動or無責任)といわれ、高校の時には、学生運動に全く関心がない高校生たちみたいなテーマでNHKが高校に取材に来たくらいです。前川さんが以前、「革命は鯵のひらきみたいなもんだった」(革命がごく身近な存在だった)とおっしゃっていましたが、この映画でその頃の雰囲気だけでも知ることができそうです。
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で、河尻さんの質問です。
質問A:こういった映像コンテンツは「新しいテレビジョン」の世界でどうなるのか?リニアなものとソーシャルなものは完全分離される?
「リニアなもの」=従来のドラマや映画のように一方通行のコンテンツ
「ソーシャルなもの」=最初からSNSなどのソーシャル空間で浸透していくように設計されたコンテンツ
…ということなんでしょうか。
そうだとすると、分類自体が不要な気なします。バルス祭りを起こした「天空の城ラピュタ」は、すごい「ソーシャルなもの」なんですが元々は超「リニアなもの」の世界に属しています。
私は前から思っているんですが、昔作られたドラマなどはどれもソーシャルな仕組みに乗っかれば、新たな作品価値を持ち得ると思うのです。
具体的な例を考えてみます。
去年、会社の窓から満開の桜を見ながら一杯やっていたとき、「調査情報」編集長の市川哲夫先輩が「若い頃に自分が作った単発ドラマで変なのがあるんだよ。でも今の時代でも通用するというか、今見ると面白いと思うんだ」とおっしゃって、ざらざらになったVHSテープを皆で見たことがあります。とても不思議な雰囲気のドラマで、市川さんのこだわりが伝わってくる非常に「面白い」作品でした。こうした単発ドラマなど過去の多くの作品はDVD化されることはありません。しかしVODビジネスとソーシャル空間を結びつければ、陽の目を見ることができるような気がします。但し権利処理が低コストでできれば…ですが。
【TBSメディア総合研究所は、春になると花見ができます】
(去年、会社の窓から撮った満開の桜)
別の例ですが、TBSは戦中戦後の膨大なフィルム映像を保有しています。現在TBSメディア総研の手でデータベース化の作業中ですがだいぶ進んできました。また豊富な動物映像もデータベース化されていて権利は全てTBSが保有しています。これらの映像はTBSが開発した検索システムで非常に簡単に見たい映像を探すことができます。今のところ残念ながら社内でしか利用できませんが、これらとソーシャルの仕組みを結びつけて公開すれば、かなり面白いことになると思います。
さらに地上波放送から姿を消しつつあるプロ野球ですが、これこそ「ソーシャルしながらテレビ」にピッタリです。サッカーなどはゲームの展開が早くてコメントを打つのが追いつきません。しかし野球はなにせゆっくりですから、呟く余裕がたっぷりあります。何かのきっかけがあれば野球の新しい楽しみ方として一気に広まるでしょうし、スポーツコンテンツとして野球が再評価される可能性は高いと思います。
これらのアイデアはすぐに儲かりはしません。そして、儲からないならやらない、3年5組(事業をスタートして3年で単年度黒字、5年で累損解消)ができないならやらない、などと単純に考えてしまう人がオールドメディアには多いのです。この思考方法を変えない限り新しいビジネスなど生み出せる訳がありません。これについては後でもう少し詳しく書きます。
私は、コンテンツにはリニアもソーシャルもないと思うのです。昨年のセミナーの際、河尻さんは「ソーシャルはメディアでなくネットワークだ」と言いました。メディアの定義とは…という議論はさておき、リニアに見える映像コンテンツはソーシャル・ネットワーキング・サービスによって「ソーシャルなもの」に生まれ変わるのだと考えるべきです。
質問B:どうすれば「①中身が面白く」「②使い勝手もよく」「③ウケてお金も入る」のか?
この3つの連立方程式の正解を同時に出すのは、なかなか難しいでしょう。
かつてトレソーラという会社がありました。TBSとフジテレビ、テレビ朝日の共同出資で設立され、2000年代前半にテレビ番組の有料配信実験をしましたが、結果は「とてもビジネスにはならない」でした。しかし、一昨年あたりからTBSやフジテレビのVOD事業は急激な成長を見せ、今や「もっとTV」という大掛かりなビジネスが始まろうとしています。同じビジネスモデルなのになぜ昔はうまくいかなかったのか。権利ホルダーの考え方(インターネットに対する認識)やユーザーインターフェースの進化、お金を払ってコンテンツを楽しむというユーザーの習慣の変化など、様々な要因がありますが、新しいビジネスを投入する時期を間違えると失敗するのは確かです。例えばFacebookも「①中身が面白く」「②使い勝手もよく」でしたが、「③ウケてお金も入る」というフェーズに移行するのはずっと後でした。というより①と②は最初からできていたのに、安易に③にいかなかったところが成功の鍵でしょう。
河尻さんは①、②、③で「最初にココを固めなきゃ」という本命は「③でしょうか」としていますが、大当たりを狙うなら、私は上記の理由で③はむしろ最後だと思います。では①かというと、ちょっと違うような気もします。それはこのポストの前半部分で書いたように、どんな昔の番組でも価値が見いだされるのがインターネットのロングテールの仕組みですから。
私が意外ですが決定的に重要だと感じているのが②です。Googleがなぜ世界を制覇したかというと、圧倒的に先進的で②技術力のためです。Facebookも数あるSNSの中から抜出た理由はユニークな②システムだと思います。Appleがなぜ楽曲の有料配信で成功したかというと、やはり②インフラを押さえたからでしょう。
例えばユーザーが、VODでお金を出して映像コンテンツを見ようと思ったとき、お金を払うために、クレジットカードを取り出して16桁の番号を打ち込んで、名前と有効期限を入れて、様々なアンケートに答えなければ見られないとなったら、見たい気持ちは失せて途中で止めてしまうでしょう。いかに抵抗なくお金を払ってもらえるかは、ユーザーインターフェースの中でも最重要な点です。また、見たい作品がすぐ見つかるか、見たい気持ちにさせるようなソーシャルの仕組みが備わっているか、などシステム・技術・インフラ面は無茶苦茶!重要だと思います。これがダメだといかに①中身が面白くても、決して③ウケてお金もはいる、にはつながりません。
テレビのモテキはいつくるのか、それはどれだけ面白い②を思いつくか次第だと思います。だからこそ様々な試行錯誤をいろんなテレビ局がやっています。実は今、一発大逆転的な構想が進められています。Facebookの非公開グループ「あやとりブログ」に参加しているある方が関わっているので、そのうち原稿を書いてくれるかもしれません。
まだまだ面白いことはありそうです。
氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。フルマラソンでサブ4を続けるのが目標で す(次の3月は危ない)。
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