あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

20113/19

「複眼報道の時代」 ― 志村一隆

CNNとNHK、TBSのネット配信

地震が起きたとき、私はニューヨークに居た。向こうの深夜1時半頃、時差ボケのままツイッターをぼんやり見ていたら、とあるアメリカ人が「日本で地震?CNNをみなくちゃ」とつぶやいている。
早速、テレビをつけると、津波に逃げるトラックが飲み込まれ、海に現れた巨大な渦巻きに1艘の船が引きずり込まれている。
それから朝まで、ツイッターとCNN、NHKの海外放送を見続けた。
東京では、電車の運行情報が錯綜しているみたいで、「渋谷から東急は動いてない」、「有楽町線はガラガラ」といった情報をリツイートし続けてみた。CNNは、ハワイ、西海岸への津波到達予想を出している。
そのうち、東京から「家に着いて、テレビを見て、地震の凄さに気付いた」というつぶやきが入った。職場にいた彼らは、家に辿りつくまで、ニューヨークで私が見ていた津波の映像は見ていなかったのだ。
CNNは、当初「iReporter」という視聴者提供の地震ビデオを流し、スカイプで吉祥寺在住のアメリカ人と話したり、テレビ電話インタビューを放送していた。そのうちに、東京支局のキャスターがレポートをするようになった。映像もNHK提供のものからテレビ朝日に代わった。
「人口1300万人の東京も地震に襲われた」という言葉と、「地震に慣れている日本人でも、今回は想像以上だ」というフレーズを何回も聞いた。
ニューヨークは、次の日はまだ金曜だ。カフェに行ってみたが、それらしき話題をしている人には出会わない。ベストバイのグーグルテレビや、発売したばかりのiPad2で検索すると、「Earthquake」の画像、映像が飛び込んでくる。昼過ぎから、英語でもEarthquakeのつぶやきがタイムラインを埋める。ジョークをつぶやき不謹慎として仕事をクビになる俳優もいた。「あまりのひどさに言葉もない」というアメリカ人のつぶやきもみた。
夕方のABCやCBSでも地震が大々的に報じられた。CNNも相変わらず中継している。そのうち、NHKがユーストリーム、ニコニコ動画で、TBSがユーチューブでライブストリーミングを始めた。
CNNは東京支局のキャスターが仙台に入り、現地レポートを始め、ニューオーリンズのハリケーン被害のときに、陣頭指揮を執った軍人などがコメントしている。日本のテレビ局も、現地からのレポートが増えた。
福島の原発で最初の水素爆発が起きてから、CNNは地震報道から原発報道にシフトし始めた。専門家が、「いまの時点で、福島はチェルノブイリ、スリーマイルに次ぐ3番目に悪い原発の事故だ」というコメントを何回も流していた。
NHKとTBSは、被災地の映像を流し続ける。現地の様子はよくわかった。ニューヨークからCNNとNHK、TBSの映像を見ていながら、いま必要なのは原発の解説ではなかろうかと思い続けていた。
そもそも、自分は日本に帰れるのだろうか?日本行きの飛行機はキャンセルされたり、成田ではなく横田基地に着陸している。成田が機能しているかの情報はテレビからは得られなかった。
それでも、やっと飛行機が出るというので、土曜午後JFK空港に向かった。タクシーの運転手が、「あれだけの地震で、あれしか死者が出ないのは奇跡だ。これから数字は増えるだろうけど」と言われる。「ソニー、パナソニック、サムスン、日本はテクノロジーを全部持ってるんだから、これからも大丈夫」とも言われた。
日曜深夜に帰国してからは、もうCNNは見ていない。日本のテレビ各局も原発に時間を割く時間が増えている。

テレビ局のネット中継とネットメディア

原発報道は、日が経つにつれ原発の解説図がより詳しくなった。注水パイプの位置、サプレッションプールが炉心を取り巻いていたりなど。当初の図では、なぜ圧力炉から建屋に水素が漏れるのか?などがわからない。図では線が引いてあるのに、なぜ漏れるのか?それについて解説できる人はいなかった。見ていて「えっ?」と疑問に思ったことを、質問してくれるアナウンサーもいた。
また、面白かったは、iPhoneなどから記者会見をそのままネット中継するフリーランスの人がいたことだ。テレビメディアの記者会見中継は、これからというところで、CMやスタジオに戻ってしまうことを多かった。しかし、ネット中継では、質問する人の顔も映し出され、また途中で終わることもない。また、彼らは配布される資料もPDF化して公開した。

権力との対峙には、プロアクティブな知見が必要なのでは

記者会見で質問する記者たちの態度の大きさは、それを見た視聴者にどう映ったのか。それはいいとしても、質問内容が、言動の挙げ足とりに終始していた。たとえば、「説明のトーンが変わったが、これは重大なことが起きていると見ていいのか?」とか「●●という報道がされていますが、それについてのお考えを」など。
取材される側の一字一句を追い、整合性が合わない部分をニュース的価値と思っているのだろうか。
重要なのは、記者会見での発表の方法、言葉、表情ではなく、原発の行方、全体像ではいのか。その予測、分析に価値があり、その知見こそが権力との対峙に必要なものだろう。今回の報道で、マスメディア側の受け身な体質が深く感じられた。
ネットメディアで一次資料もオープンにされる。記者会見での公式発表を受け、あとは各自が記事にトーンをつけるという既存のメディア報道の手法から生まれるニュースは、支持を得るのだろうか。それとも、それが権力に対峙する報道の役割なのか。
この1週間、ニューヨークと東京、テレビ局、テレビ局のネット配信、海外メディア、ネットメディアと地震と原発ニュースを複眼で経験した。また、複眼できる環境にあることがたくさんの人に知れ渡った。情報のセカンドオピニオンが広まる時代では、ジャーナリズムはより緊張感が必要だろう。

さいごに、今回痛感したのは、日本人による英語の日本報道が必要だってこと。

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る