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20138/29

テレビの未来②:テレビをサービスとして見ると不便で時代遅れだ

 

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ビジネスとしてのテレビは、視聴率という指標が基盤となっている。
視聴率については、TBSメディア総合研究所が編集を担当している雑誌『調査情報』の2013年7-8月号の中で、上智大学の渡辺久哲教授が非常にわかりやすい説明をしている。
渡辺教授は、「視聴率の存在が、半世紀にわたって日本のテレビ業界を発展させてきたことは疑いえない」と視聴率を評価している。 確かに視聴率があったからこそ、半世紀もの間、テレビというメディアを支えるだけの経済的基盤が成立していた。しかしこの視聴率は、今のユーザーの視聴実体を正しく反映しているだろうか。
渡辺教授は、今の視聴率で局別に算出されるのは、地上波のキー局とその系列局のみで、ケーブル局やBS、CS局、地上波独立局は全て「その他」という分類にまとめて放り込まれているが、この「その他」の視聴率は徐々に増え、キー局1局分に近くなっていると指摘している。
実際、今年4月から8月上旬までの「その他」の視聴率平均を見てみると、全日5.5%、G帯8.6%、P帯8.2%となっていた。これだけの存在感を示しているにもかかわらず,「その他」の内訳はわからない。前年比2割増というハイペースで売上をのばしているキー局系BS放送の実態もわからないのだ。

 

また、NHKの調査では録画した番組を再生して視聴する人は58%いるが、この録画視聴でどの局のどの番組がどれだけ見られているか、わからない。
さらに自室のベッドの中でよく見られているといわれるワンセグ放送も、スマホやタブレット、パソコンやゲーム機での視聴も、視聴率にはカウントされない。
視聴率はビジネスとしてのテレビを支えてはいるが、視聴者の視聴実態を正確に反映しているとは言えない。つまり、今のテレビは、視聴者の視聴実態とは乖離したところでビジネスをしているのだ。
さらにこれは番組自体にも影響する。今のところテレビ番組を“測る”モノサシは視聴率だけだ。その視聴率が視聴実態と乖離しているなら、本当に視聴者に楽しんでもらえる番組が生まれるのだろうか。

 

 

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視聴率の定義に縛られているテレビ局にとっては、視聴率につながらない録画視聴や自宅外での携帯でバイスによる視聴は、それがどれ程、ユーザーにとって便利だとしても、できる限り避けるべきものだった。視聴率にカウントされない視聴が増えると、視聴率に直結する自宅での視聴が相対的に減ってしまうという当然の理由からだ。
視聴者に楽しんでもらうため良い番組を作るにはお金がかかり、そのお金を稼ぐためには視聴率を上げなくてはならず、そのためには自宅でのリアルタイム視聴を毀損する要因は排除しなければならないというテレビ局の事情は、ユーザーには関係ない。
「高い制作費をかけたって、自分の見たい番組を放送してくれない。似たような番組ばかりいくつも放送しているなら、放送局の数を減らして1局当たりの制作費を確保すればいいじゃないか」と思われてしまう。

 

「ユーザー」は、自分たちにとってこんな不便なサービスを押し付けるテレビよりも、いつでもどこでも見知らぬ大勢に人とつながるソーシャルメディアや、バーチャル空間で他のユーザーと一緒に盛り上がれるニコニコ動画、それに世界中の投稿動画が見られるYoutubeの方が面白く感じてしまう。
また、家に置いたままで動かせないテレビより、いつでもどこでも自分を世界とつなげてくれるスマホの方が大切だと思っている。スマホはいつでもそばに置いておかないと不安だが、テレビは別になくてもかまわない、テレビは持っていないという若者が増えているのは事実だ。

 

もちろんインターネットや新しいデバイスを使いこなせない高齢の視聴者もまだ多くいるし、かつての視聴スタイルを崩さない視聴者もまだたくさんいる。 しかし、世代のローテーションが進むにつれ、こうした視聴者は減少してゆき、ユーザーとなる視聴者が増えていくのを止めることはできない。

 

テレビはこれまで自分たちの利益を守るためなら、ユーザーの利便性が犠牲になっても仕方ないという姿勢を崩さなかった。それが可能だったのは、強固なテレビの壁に守られた、誰にも侵蝕されない特権的領域があったからだ。テレビ広告という極めて効率の良いビジネスモデルを守るためには、それはまことに正しい企業判断だった。

 

しかし、すでにテレビの壁は崩壊をはじめ、テレビを取り巻く環境は大きく変化してしまっている。そしてこの変化はまだ始まったばかりなのだ。この先、変化がさらに加速してゆく中で、テレビはどこへ向かえばいいのか。
少なくともユーザーに不便を強いてでも、自らの利益は守るといったやり方はもはや通用しないのは明らかだ。 それならユーザーの利便性向上が、テレビの利益につながるよう、自らを進化させればいい。 『テレビの未来』シリーズ、次回からは、その方向を考察する。

 

 

氏家夏彦プロフィール
株式会社TBSメディア総合研究所 代表取締役社長
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビの明るい未来を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ番組・ワイドショー・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。
最近はテレビの外の人たちとの人脈が増えています。
Facebook、Twitter(natsu30)やってます。

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