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20123/13

【テレビは奇跡の復活を遂げるのか!?…数字から見えてくるもの】 氏家夏彦

 

先日、電通の恒例「2011年 日本の広告費」が発表された。

総広告費は、東日本大震災、欧州金融危機、急激な円高、タイの洪水被害の影響で5兆7千億円あまり、前年比97.7%と減少。ただし後半は好調だった前年を上回るなど広告出稿は活性化した。テレビ・新聞・雑誌・ラジオのマスコミ4媒体は前年を下回ったが、インターネットは引き続き増加した。
この数年続いている傾向がそのまま今年も引き継がれたといえる。

この資料からテレビ・新聞・雑誌・ラジオのマスコミ4媒体とインターネットの広告費をピックアップし、グラフ化してみた。

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 まずはオーソドックスに、2005年から2011年の媒体別広告費の経年変化を見てみる。なお、縦軸の単位は「億円」である。

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テレビ、新聞、雑誌の減少が激しい。この6年間でテレビ広告費は3174億円の減少、新聞広告費は4387億円の減少、雑誌広告費は2300億円の減少となっている。テレビ広告費の減少額は、東京キー局2局分のCM広告収入に近いほど金額だ。

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 次に、各媒体別広告費を2005年を1とした場合、この6年間でどのように変化したかをグラフ化してみる。

スクリーンショット 2013-04-18 15.20.44

1.00以上は増加、1.00以下は減少だ。一目瞭然だが1.00以上、つまり増えているのはインターネット広告費のみ、しかもいかに急激に増えているかがわかる。

一方、いわゆる4マスは2005年以降一度も1.00を超えていない。減る一方である。特に雑誌広告比は2011年には0.52、つまり6年前の半分になってしまっている。新聞広告費は0.58、つまり6割に減少。一方インターネット広告費は2.13、つまり2倍以上に増えている。

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さて、これだけでは物足りないのでテレビの視聴率の推移も見てみる。数値は株式会社TBSホールディングスの決算説明会配布資料を参照した。
東京キー局とNHKのP帯(プライムタイム帯…19時〜23時)の視聴率推移をグラフ化した。なお2011年度の数値は3月5日週までの年度平均を使用している。

スクリーンショット 2013-04-18 15.26.53

なんとなく全体的に下がっているのがわかる。局ごとの増減には各局の必死の努力が隠れている訳だが、全体ではどうなのだろう。全局を合計してみるとその傾向がはっきりする。下のグラフは、 全日(6時〜24時)、G帯(ゴールデンタイム…7時〜22時)、P帯ごとに民放5局とNHKの各年度平均視聴率を合計したものの経年変化だ。

スクリーンショット 2013-04-18 15.29.26

全日、G帯、P帯ともこの6年間で約13%下がっている。これがテレビ離れの実態だ。テレビに関わる人たちは、このグラフを真正面から受け止めなければならない。なぜこうなったのか、これからどうすればいいのか。

ただ2005年度から下がる一方だった視聴率が、この1年間は下げ止まったように見える。大震災の影響なのか、個々の番組の努力か。ただ気をつけなければならないのは、視聴率を獲るということはどれだけ視聴者(=ユーザー)の時間を獲るかと同じだ。競争相手はテレビ局だけでなく、ゲーム、DVD、インターネット動画、ソーシャルメディアだ。テレビの敵は次々新たな魅力を打ち出してくる。しかもその量はどんどん増えている。それに対して今までと同じコンテンツを作るだけでは敗北するのは明白だ。

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 視聴率の変化とテレビ広告費の変化を比べてみると面白いことがわかる。
横軸の単位である年度は、P帯視聴率についてのもの、テレビ広告費の単位は暦年なので厳密には時期が一致しないが全体の傾向を見る分には差し支えないと判断した。赤いラインがテレビ広告費、青のラインが民放キー局5局P帯視聴率の合計の推移。テレビ広告費は全国のテレビの広告費だが、視聴率は首都圏キー局とこれも厳密には基準が一致しないが全体傾向を見るには差し支えないだろう。

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2008年度までは視聴率の方が先行して下がっており、2009年度は前年のリーマンショックの影響で広告費が急落、しかし2010年度は視聴率は下がっているのにテレビ広告費は僅かながら反転している。前年度のリーマンショックの反動もあるだろうが、それにしてはなかなかしぶとい。
2011年度は久方ぶりに視聴率は持ち直した。しかし大震災やタイの洪水、円高、欧州金融危機があり経済活動が停滞したため、テレビ広告費は下落するかと思われたが、僅かな下げに停まっている。
わずか1〜2年の動きでははっきり言い切る事はできないが、広告主は「放送」の持つパワー(リーチの力)を再評価してくれているのかもしれない。

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 もう一つ、広告費の経年変化のグラフをご覧頂きたい。媒体別広告費の前年比の変化である。0.0%ラインより上は前年より増加した割合、マイナスは前年より減少した割合を示している。

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 この5年間、4マスはテレビの2010年を除き全てがマイナス、つまり減少を続けているのに対し、インターネットはリーマンショックの影響が強く現れた2009年も含めて全てプラス、つまり増加を続けている。

しかし注目すべき事が2点ある。一つは、4マスの減少率はリーマンショックの影響が現れた2009年をピークに、その後は減少率がどんどん縮小していること。もう一つは、インターネット広告費は2009年の特異な数値を除き、2006年からずっとその伸び率が減少していることだ。

つまり、もしかすると4マスの広告費の急激な減少と、インターネットの広告費の急激な増加は、徐々に収束してきているのではないか。もしかするとテレビ広告市場の縮小ももうすぐ止まるかもしれない。テレビは奇跡の復活を遂げるのか!?

・・・なんて楽観的になってはいけない。インターネットビジネスの世界ではこの数年の間に、めまぐるしく主役が入れ替わってきた。数年前にキラ星のごとく現れた企業が、今は見る影もない…などというケースはいくらでもある。新たな産業革命、というより社会自体が大変革を遂げているまっただ中では、新しい技術やサービスの登場で状況がガラッと変わってしまうのはごく日常的なことだ。生き延びるためには変化し続けなければならない!変化できないなら滅びるだけだ!とは、古来からのビジネス書に嫌というほど書かれてきた。しかし今ほどそれが極端に要求される時代はかつてなかった。

テレビは変化を続けることができるか?本気で変化する意思があるのか?

変化できないなら、リスクを恐れず変化に挑戦する将来有望な強者に飲み込まれた方が幸せかもしれない。

 

氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。フルマラソンでサブ4を続けるのが目標で す。

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