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20115/16

「始めなければ、終わりは来ない」・・・上智大学で講義をした ― 前川英樹

上智大学で講義をした。
TBSが上智大学の新聞学科に寄付講座を開設していて、TBSの担当者から、1コマを担当して欲しいという話が来たのだ。「もう新しい情報が入る立場にいるわけではないし、どうかなぁ・・・」といったら、「民放は何故“地デジ”を選択したかという話をして下さい」という。このテーマからは逃げられない。なにしろ、1999年に「地デジは不可避である」という民放連・デジ特(地上デジタル放送特別委員会)見解を書いた本人だからだ。で、この際ギョーカイにいた最後の10年余の仕事を整理しておくのも悪くないという気にさせられて、引き受けたのだった。

「デジタルとアナログは反対概念ではない」という話から始めて、80年代の放送業界のテーマが<衛星×ハイビジョン>だったこと(もちろん、当時はアナログ)、90年代に入ってアナログからデジタルへという衛星の伝送方式の転換が大論争を生んだこと、90年代後半にデジタル化政策が衛星から地上へとシフトしたこと、その間の行政・NHK・民放の関係などを話した。そして後半は、「地デジ不可避宣言」のこと、そしてデジタル化は放送方式の変更を越えて実に多様な論点に波及する問題であって(図参照)、現在のソーシャルメディアとマスメディアの関係の原形は、既に“地デジ”を選択したことのうちにはらまれていて、むしろ「そのための“地デジ”だった」と今にして思う、というような話をした。
最後に、東日本大震災とメディアについて触れて、「情報<系>の中の放送メディア」という「いつもの」自説を紹介して終わりにした。
8omxOdR_PN.jpg
※この図は10年ほど前のものなので、個々の論点例は現在の状況に合わない窶ィものがある。しかし、関係性として考えれば、大きな不都合はないであろう。
※講義ではこのPPTをアニメーション効果付き(プレートの色が変わるなど)で使用。
※図の左上に“地デジ”(緑色)がある。これを選択すると、ページュ色の矢印型の窶ィプレート上にある[デジタル時代のテレビの論点]のすべてに関わる、など。

“地デジ”ヒストリーは、これまでも何回か話したり書いたりしているが、7.24.が迫っているということもあり、またこれからそうたびたびこういう話をすることもないだろうということもあり、話しながらいろんな思いが浮かんだ。一つだけいえば、「物事は始めるより終わる方が難しい」と自分でも言ってきたが、やっぱり「始めなければ終わりは来ない」ということも確かなことなのだ。始めることを決断させ、そして始めたことを終りへと方向づけることも容易ではなかった。それを楽しめたことは幸運だった。

講義には50名弱の学生が参加した。以前、とある大学で講義をしたときは、大教室のせいもあってかノイズがうるさかったが、今回はそんなことはなかった。後日別の講師に聞くと「上智の学生は、そういう意味での質は良いですよ」ということだった。
話し始めて、「アッ、しまったな。こっちの思いで話をしてるけど、これって一般的なセミナーとか関係者や社内向きレクの内容で、学生サンにはどうかな」と思ったのだった・・・けど、もう始めてしまったのだからしょうがない。80分(最後の10分は質問時間)話してみて、こっちとしては、マァ上手くいったというところだった。

感心したのは、講義が終わったところで、教授(学科長の音さんで、旧知の仲だった)がその場で<リアクションペーパー>なるものを書かせたことだった。これでは学生は眠ったり、さぼったり出来ない。もっとも、最近の学生は、「授業料を払ってるんだから、大学の手抜きは許さない」と思っているのかもしれない。自分の学生時代を思うとえらい違いだとも思う。とはいえ、学生時代に、政治学科の主任教授の「政治学原論」が海外出張と休講続きで1年間に3回しか授業がなかったのには、さすがに呆れ果てたことを思い出した。

数日後、そのリアクションペーハーが送られてきた。読んでみて、今度はホントに感心した。講義直後のメモだから短いものなのだが、なかなか要領よく書けている。分からなかったところについては触れないで、興味関心のあったところを突いている。聞きながらレポートを意識していたということもあるのだろうが、そのあたりは「賢いナ」と思った。一番泣けたのは「前川さんの講義を聞いて、テレビへの情熱を感じました」という一行だった。一回限りの非常勤講師にリップサービスしても仕方がないのだから、これは素直な感想だと思う・・・というあたりが甘いのだろうか。それでも「良く言ってくれた!」と思ったのだった。

人前で話をするという機会ももうあまりないだろう。講演原稿を作るより、パワポをいじりながら話を組立てている時間は嫌いじゃなかった。そういう意味での自分の時間の中の緊張感が、だんだんなくなっていくのだろう。大震災や原発問題についての緊張感、生活レベルだけでなく意識の問題としての緊張感を喪失してはなるまい。

“せんぱい”前川英樹

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964年TBS入社 <アラコキ(古希)>です。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳のある日突然メディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジというポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。キーワードは“蹴手繰り(ケダグリ)でも出足払いでもいいから NHKに勝とう!”。誰もやってないことが色々出来て面白かった。でも、気がつけばテレビはネットの大波の中でバタバタ。さて、どうしますかね。当面の目標、シーズンに30日スキーを滑ること。

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