あやぶろ

多彩な書き手が、テレビ論、メディア論をつなぎます。

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20123/18

マルチスクリーン型テレビ論 ~メディアはメッセージ?~

はじめまして、今谷と申します。氏家さんに予告されてしまい、焦って書き始めました。
私はこのような諸先輩方の前でメディア論やビジネス論について偉そうに語れる人間ではありません。とにかく場の雰囲気にビビっております。
と言いつつもサブタイトルにマクルーハンを引用するとは大した度胸ですね(笑)

私が少しだけお話できるとすれば、テレビとウェブはどうやって連携させるのかというシステム論なのだと自分では思っております。川尻さんのおっしゃるところの「②使い勝手もよく(システム・技術・インフラ面)」の一部でしょうか。まさしく氏家さんの前振り通りのあやとりということになります。
なぜならば、私は1998年にNAVIOというテレビ用ブラウザーを搭載したSTBに出会って以来、「テレビに関連する情報をネットから取ってきて同時に表示させる」ということについて13年以上、しつこく、今も考え続けているからです。
ありとあらゆる方法でテレビとネットを繋げる方法論について検討しましたし、実証実験もしてきました。しかし、決定打となる方法がなかなか見つかりませんでした。

ところがようやく、その思いが日の目を見る可能性を感じ始めているのです。
私は1993年ぐらいからインターネットに関わっていたのですが、ネットのことが徐々にわかり始めると、テレビに関する危機感を感じるようになります。ネットは好きな時に好きなことをいつでも探して見ることができる。それに対してテレビは時間通りに一斉に同じものを見せられる、しかも興味の無いCMも自動的に付いてくる。これは非合理的であると。これからはインターネットの時代だよ、そんな風に考えることは自然の流れでした。
そして、ネットがあれば何でもできる、全てのメディアがネットに置き換えられるのはもちろん、ネットは政治・経済・流通・言論・コミュニケーションなど何でも解決できるというネットパラダイス論が世の中を席巻するようになっていきます。

しかし、本当にそうなのか?と気付くのにも、そう時間は掛りませんでした。インターネットはあくまで能動的な姿勢で接するメディア。人間それほど常に自分の欲することが明確になっている訳ではありません。いくらネットが進化したとしても、テレビの受動的なメディア特性が今後も重要なポジションを占める。一般的な人が一般的な生活の中でテレビがネットに完全に取って替わるようなことはないのだと。もちろん、先端的な知識層はテレビに頼らずネットを駆使して生きていくことが可能でしょう。世に蔓延る「テレビ崩壊論」をぶち上げる人たちはこの先端知識層にあたる人たちなので、ある程度はこの理屈は仕方の無いことでしょうね。

時を経ずして、逆にテレビがネットを味方に付けて引き出したい時に引き出す仕組みがあれば理想的だと考え始めるようになります。下り中心で時々上りがある。情報の流通量は圧倒的に下りの方が多い非対称である限りその方が合理的だ。そう思い始めたきっかけが1998年のNAVIOだったのです。NAVIOは番組を見ながら同期した関連情報を同時に見せる。これを実現しようとした最初のモデルでした。
その後MicrosoftがNAVIOを追随した形でWebTVを出してきました。当時のNABを賑わせたプロダクトです。今年のCESにおけるスマートTVのような位置づけでした。その後言われ始める放送通信の融合を先取りしたシステムとも言えるでしょう。しかし早すぎましたね。常時接続すらままならない時代にこの製品は受け入れられませんでしたが。

でもこのNAVIOを始めて見た時の衝撃たるや。テレビとネットの関係性についてのひらめきの原点がここにありました。
その後長年にわたり、ネット広告&ネットビジネスに関わることになります。普通にバナー広告や検索連動広告も売ってきましたし、企業のサイトも色々作りました。動画CMもやりましたよ。世の中のネットに対する期待が高まる中、それでもなかなか会社の期待に応えられるほどの成果は出ません。もちろん、個人が上手に活用すれば素晴らしい成果が得られるメディアであることは自分自身が気づいていましたし、個人の生活の上ではそれなりに活用もしてきました。しかし、いざマスメディアで儲けてきた会社が満足できる成果となると、なかなかそうはいきません。随分扱い高も拡大したとはいえ、その状況は現在も大して変わりないと思います。

そんな中、2000年あたりからテレビをきっかけにネットで検索するという習慣が生まれました。番組で気になる事があれば検索で詳細情報を調べるのです。CMも例外ではありません。企業は自社サイトへ誘導するためにCMの終わりに「○○で検索」と呼びかけるのが半ば常識となりました。いよいよテレビとネットの実態的な融合の始まりです。これによりYahoo!やGoogleの検索広告は随分恩恵を受けたことでしょう。しかしよほどの目的が無い限り、その企業の商品を検索するのは面倒です。もっと簡単にアクセスしてもらえる手段は無いのか?と考えるに至ります。

そこでPC、携帯電話(ガラケーの時代です)に向けたテレビにシンクロした情報を配信するサイトができないか検討し始めました。CMと同じタイミングでスポンサーへのリンクを出すのです。しかし、CMがいつ放送されるのかを知っているのは放送局です。そのタイムラインを入力する作業を放送局にお願いするのはハードルが高すぎます。何とか自動化できないかと考えた末に発見したのがフィンガープリントによる音声マッチングの技術でした。これは元々楽曲の判別に利用されていた技術ですが、CMの判別に利用できないかと考えたのです。視聴者はCM情報だけを見たいとは思えないので、番組中に使用されている楽曲を自動判別して楽曲情報もリアルタイムに提供することにしました。そして、楽曲とCMの情報がリアルタイムにシンクロする実験サイトが完成するに至りました。それが2006年のことです。名称は「テレビシンクロ」、その広告部分を「シンクロアド」と呼びます。

しかし、このシステムの登場は早すぎましたね。1ヶ月間の実証実験を行いましたが、一部の放送局さんの同意が得られず、実サービスには至りませんでした。しかし、このシンクロアドは現在、radikoに生きています。4月から対応する局から順次CMに連動する広告が表示されます。是非ご覧ください。
そしてあれから5年。いよいよその考え方が生きる時代が到来しました。ガラケーじゃなくてスマホの急速な普及、米国が先行するスマートTV、いろんな環境が大きく変わりました。いよいよテレビにシンクロする情報サービスの時代が来たのです。

そこで昨年、IPDCフォーラムに参加したときに毎日放送斎藤さんと出会います。スマートフォンやタブレットなどのセカンドスクリーンに対するIPデータの放送は、地上波放送に大きな付加価値を生むんじゃないかと、一気に話題が盛り上がる訳です。番組を見て検索するのではなく、番組側から一緒に手元に情報が降ってくる。視聴者は手元の端末を使って自由に深堀できたり、プレゼントに応募できたり、買い物ができたりするようになるのです。何しろ番組に関連する放送前の情報を持っているのは放送局だけなのですから。もちろん、CMが出たら手元の端末は広告主のサイトへ誘導されます。ここが広告会社にとっての肝ですね。
これでようやく広告会社としてテレビと一緒にはじめてちゃんとしたデジタルビジネスが可能となる、そんな予感が少しばかりしているのです。

2011年12月7日、在阪5局が中心となりマルチスクリーン型放送研究会を立ち上げるに至りました。私はここではサービス部会長なる役割を拝命しました。隔週のペースで大変中身の濃い議論を行っております。この研究会で議論されていることの中身に関しては次回のお楽しみとしますが、概要に関しては研究会のサイトがありますので一度ご覧になってください。
http://multiscreentv.jp/

テレビが新しく生まれ変わるには、
「②使い勝手もよく(システム・技術・インフラ面)」から変革を始めると、そのシステムに合う形で「①中身が面白く(思想・クリエーティブ面)」なり、「③ウケてお金も入る(ビジネス・マーケティング面)」ようになると思う訳です。メディアがそこに流れるコンテンツを規定し、生活者の行動を変えるというマクルーハンの「メディアはメッセージ」を今さらながら感心しながら読み返しています。
「形から入る」やりかたは批判されることが多いですが、メディアに関しては形から入らざるを得ないのかもしれませんね。

今谷秀和 プロフィール
建築士、インテリアデザイナーとして活躍した後、1990年電通入社。
プロモーション、イベント、空間開発の後、デジタルビジネス系で13年間。
現在電通関西支社 テレビ局 局次長

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