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20124/24

自由の国(と思っていた)フランスで、ツイートしたら、罰金をくらったかもしれないという話

4月23日月曜日

「せんぱい」の「パリ5月革命」評からあやを取って、パリ便り。初めて書きますが、よろしくお願いします。さて、なぜパリにいるのか。

実は、すっかり忘れたフランス語で取材ができるか腕試しに、大統領選挙を狙って、「無謀」にもパリに飛んだというのが理由だ。
欧州のトレンドだった保守派を代表するニコラ・サルコジ大統領(民衆運動連=UMP)が、社会党候補のフランソワ・オランド候補に敗北するかもしれない。大国フランスの政権交代なら、私のようなフリーランスが原稿を書くチャンスがあるかもしれないとやってきた。

到着して驚いたのが、選挙報道の「管制」があるということだ。
投開票日前夜の21日夜、最新情報をチェックしようと、フェイスブックとツイッターで、サルコジ、オランド両候補のアカウントを調べた。ところが、両陣営ともに、20日金曜日から何の最新情報も載せていない。おかしい、と思ったのはこの時だ。

4月22日日曜日、取材した投票所近くのバーで、新聞をチェックすると、週刊紙Le Journal du Dimancheの「20時までの禁止事項は守られるか」という記事が目を引いた。

同紙によると、1977年施行の法律で、午前8時から午後8時の投票時間帯に、出口調査の結果などを伝えた報道機関や、調査機関、市民には75000ユーロの罰金が科せられるという。投票に影響を与える情報の発信を何人にも許さないということだ。
このため、2007年の前大統領選では、現状を知ろうと、有権者がベルギーや英国のフランス語メディアのウェブサイトに殺到したという。

土曜日から選挙陣営のフェイスブックなどが凍結されていたのも、太平洋の仏領ポリネシアで投票が始まっていたからに違いない。
また、選挙陣営や報道機関は、世論調査機関から直前の調査結果を入手はするものの、土曜日に公表、報道はしない。
さらに、今回の選挙では、ソーシャルメディア、つまりフェイスブックの2500万人、ツイッターで500万人の利用者に対し、リツイートであっても法律を適用するという。

ところが、ツイッターなどを使って、あたかも第2次世界大戦中のレジスタンス向け暗号ラジオのように、出口調査の結果を喩えでつぶやくという手段を、みなが模索していた。また、仏市民ではない海外のアカウントから発信すれば、法の規制はまぬがれる可能性はある。
「春は、予想よりも緑豊かになるでしょう」
「日曜日に天気予報をつぶやきます。楽しみに!」
「フラン(筆者注:市販のプリンのようなもの)は、27%がミルクで、防腐剤(注:保守主義という意味もある)は入っていません」
というのは、前述の週刊紙に掲載されていた例だ。

バーの新聞チェックの後、郊外の投票所に回り、ホテルに戻ると、午後7時45分、投票所閉場の15分前だった。ツイッターを見ると、AFP通信が出口調査の結果をあえて一部伝えたようだ。
「AFPも75,000ユーロクラブに仲間入り」
「法律を破るなんて信じられない」
というつぶやきが飛び込んできている。

午後8時になった途端に、テレビの各チャンネルをざっとスキムした。すると、各局は選挙特番のタイトルを表示する間も惜しんで、出口調査の数字をサルコジ、オランドと並べて表示、アンカーが早口で伝えている。堰を切ったような数字の報道は、予想通り、オランド候補の優勢を明らかにしていた。

しかし、テレビがずっとこらえていた数字を「爆発」させたのを見ていると、何とも滑稽だった。報道機関なら、
①知り得たことを伝える
②特に「政権交代」ということで、オランド候補の優勢を示す数字はニュースに値する
—という意味で、法を犯しても報道したいというのは当然だろう。
さらに、ソーシャルメディアの登場で、1977年法はますます陳腐化している。
ロイター通信記者は、同法を「マジノライン」に例えていた。第1次世界大戦に巨額を投じてドイツとの国境に建設した対ドイツ要塞だが、第2次世界大戦では、ナチスの戦車がマジノラインがない森を通って侵入した。(笑。ちなみに、フランスの記事は、結構史実を例えに使う。歴史が分からないと、記事が何を言おうとしているのか分からない=外国人には親切な記事ではない)。

ところが翌23日、各紙ウェブサイトは、司法当局がAFP通信など複数の報道機関を、1977年法違反の容疑で捜査を始めたと伝えていた。

そこではっと気がついた。ツイッターで取材中につぶやかなくてよかった、と(笑)。実は、現在住んでいるニューヨークの友人が関心を持っているかもしれない(というよりは、無謀にもパリに飛んで来たのを心配しているかもしれない)と思い、取材中に有権者のコメントや、現地の報道の様子を英語と日本語でつぶやこうと思っていた。

結果としては、WiFi環境があまりなかったのと、雹(ひょう)まで降る悪天候と寒さに疲れて、つぶやく余裕がなかった。もちろん、私のアカウントは海外のものだが、つぶやいていれば、内容はフランス国内から発信しているものと分かる。罰金覚悟で、報道機関としてはやるべきことをやると数字を報じたAFPをリツイートなどしていたら、危なかったかもしれない。
AFPのような大手報道機関には75,000ユーロは大したことはないかもしれないが、私のようなフリーランスにとっては年収をはるかに超える金額だ。
あー、よかった。恐るべし、自由の国?フランス。

そうそう、あやとりとしては、第5共和制の初代大統領、シャルル・ドゴールは、パリ5月革命当時の大統領ですね。サルコジはドゴールと同じ保守派で6代目。また、現在宿泊のホテルは、5月革命の中心となったソルボンヌ大学のはす向かいです。うまく、とれたでしょうか?!

 

(津山恵子) つやま・けいこプロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。共同通信社経済部記者、ニューヨーク特派員を経て、2007年からフリーに。「アエラ」「ダイヤモンド」などを中心に米社会・経済について執筆。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版コラムニスト。「ジャーナリズム」(朝日新聞社)、「GALAC 」(放送批評懇談会)に、米メディア事情を定期執筆。ことし3月、フェイスブックのザッカーバーグCEOを単独インタビュー、「アエラ」に記事掲載。
せんぱいこと、前川英樹氏は、共同通信時代の「取材先」。
ニューヨークの同居人は、太郎(白、日本猫)とロザリー(黒、ニューヨーカー)。

 

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