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20138/7

テレビCM復権のカギ②、テレビにターゲティング技術は必要か

行動ターゲティング、リターゲティング、オーディエンスターゲティング。
ネット広告の世界は日々新しいテクノロジーで広告主の注目を集めようとしています。
そしてついにネットでの行動にとどまらず、リアル店舗での購買履歴と結び付け、消費者の趣味趣向・属性を推定し、その人に最適な広告を配信する・・・。それだけやれば購入に至る可能性の高いユーザーを探し出す精度がどんどん高くなっているはずですね。
しかしそれは広告出現回数に対する購買に至る率(コンバージョン)を高めているのであって、そもそも購買の総数は増えているのでしょうか。購買一人あたりのコミュニケーションコストは下がっているのでしょうか。実は、すぐに買う可能性の低い人を切り捨てることで広告の成功率を上げているだけのようにも見えます。
広告の無駄打ちは本当に無駄なのでしょうか。今すぐ買わなくても将来的に欲しいと思わせたり、名前だけでも覚えてもらったりすることも広告の重要な役割。無駄とは言い切れません。前回の話の繰り返しになりますが、ターゲティングは顕在顧客をより正確に探し出す技術であって、広告ではなく販促の領域です。今すぐ買いそうなお客さんを他のブランドではなくこっちを買ってください、と誘導するのが目的です。

最近よく耳にする言葉が「ビッグデータ」と「O2O」です。ビッグデータを活用してオンラインからオフラインへ効率良く導くことが革新的なマーケティング手法としてもてはやされているわけです。もちろん、その技術自体を否定するつもりはありませんし、効率を上げるためのIT活用として理解できます。しかし、結局のところ販促のためのメディアターゲティング精度を上げる技術に過ぎないのです。興味の無かった物や事に興味を持たせ、時間を掛けて購買に誘導し、更にはファンになってもらうという長期的な視点の話とは結び付きにくいです。企業のマーケティング活動は、既に実っているものを刈り取るだけの狩猟民族ではなく、種まきから始めて毎年収穫ができる農耕民族であるべきはないでしょうか。

ユーザーから見てもターゲティングされた広告というのは役に立ちますか?一度チラッと見ただけの中古車や靴、ホテルのバナーがいつまでもストーカーのように追いかけてくるのに辟易としていませんか?むしろその商品の印象が悪くなってしまう可能性が高いです。思わず履歴を消去してしまいたくなりますよね。フェイスブックが今後、動画CMをフィードに挟むと発表しました。ユーザーに合致したCMを自動的に挿入するらしいです。今でも静止画の広告が入っただけで嫌な印象になるのに動画CMが入るなんて想像しただけでも・・・。

どうでしょう。そろそろユーザーも広告主もそのことに気付く時期に来ているのではないでしょうか。ましてや、ターゲティングできるテレビCMなんてあり得ますか?
どんな番組を見ても自分用の偏ったCMばかり・・・。あり得ない。
テレビCMは料金が高いと言う人がいますが、総額が高いのであって単価はネット広告に較べるとケタ違いに安いのです。わざわざコストを掛け、ターゲティング技術を使ってユーザーを絞り込むよりも、無駄打ちも含めて広くリーチする方が長期的には得だという考え方はありませんか。無駄という言葉がいけないのでしょうか。損している気分になるのでしょうか。スマートテレビの時代に入り、CMを視聴者毎に差し替える技術まで提案されていますが、これこそナンセンスだと思うわけです。差し替えるための仕組みにいくら掛るのでしょうか。そしてそれを使うためのコストはどうなのでしょうか。おそらくターゲティングするには単価を10倍~100倍にしないと見合わないと思います。知らないことも含めて出会いのあるテレビの良さをわざわざ放棄し、ストーカーのようなCMが自分を追いかけてくるなんて、ますますテレビが嫌われることになりそうです。もちろん、「出会い」のようなフリをするターゲティング広告というのもそのうち登場するのでしょうけどね。それよりも本編は今まで通りで全国共通、セカンドスクリーン側でターゲットによって違うメッセージを送るという方法が現状では最も合理的だと思うのですが。

またセカンドスクリーンの具体的な話をせずにティーザーにみたいになってしまいました。
今谷秀和 プロフィール
建築士、インテリアデザイナーとして活躍した後、1990年電通入社。
プロモーション、イベント、空間開発の後、デジタルビジネス系で13年間。
現在電通関西支社 テレビ局 局次長

 

 

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