あやぶろ

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20135/24

「番組映像の二次利用フリー化」はテレビを再活性化するか?

最近興味を引かれた2つの記事。

アマゾン、二次創作を公認販売する Kindle Worlds を開始。作者と原作者に支払い
http://japanese.engadget.com/2013/05/22/kindle-worlds/

任天堂、ユーザーがYouTubeにアップロードしたゲームのプレイ動画から広告収入を得る
http://it.slashdot.jp/story/13/05/19/0731221/

ひとつめは、アマゾンがあらかじめ原著作者との間でライセンス処理をしておくことにより、二次創作者は現著作者との権利交渉抜きで二次利用を行えるようになる、という話。
ふたつめは、任天堂のゲームのプレイ動画をユーザーが許諾抜きで公開できるようになる代わりに、その広告収入は任天堂が持っていく、という話。

それぞれポイントは微妙に異なるものの、共通の文脈を読み取ることができます。
それは、著作物の権利処理を簡便化し、一定のルールを定めることで、著作コンテンツの二次利用/流通を促進させようという流れです。

Facebookのニュースフィードに、たまたま間を置かずにこの2つの記事が流れてきたので、「二次利用フリー化のムーブメントがいよいよ本格的に来たか!?」とワクワクしてしまったわけですけれども。

 

『ブラックジャックによろしく』の成功

「二次利用フリー化」といえば『ブラックジャックによろしく』の件が記憶に新しいかと思います。

漫画家の佐藤秀峰さんが、自身の作品である『ブラックジャックによろしく』の二次利用完全フリー化を宣言、すなわち

「商用・非商用の区別なく、事前の承諾を得ることなく無償で複製し公衆送信し、また、どのような翻案や二次利用(外国語版、パロディ、アニメ化、音声化、小説化、映画化、商品化など)を行なうことも可能」
とするという、例のアレです。

この結果、漫画そのままの形で電子書籍アプリとして配信されたほか、ソフトバンクの「ホワイトジャックによろしく<http://mb.softbank.jp/mb/special/white_jack/>」ほか、さまざまな二次創作物が生み出され、ソーシャルメディア等を通じて大きな話題になりました。

これにより、佐藤秀峰さん作品の売れ行きが向上し、電子書籍関連の著作ロイヤリティが半年で3,700万円を超えたとか。

 

「番組映像の二次利用フリー化」はアリか?

これと同じような手は、映像コンテンツを大量に持っているテレビ局であれば、有効に使えるのではないでしょうか。
つまり「番組映像の二次利用フリー化」です。

たとえば、ドラマのシーンを二次利用フリーにしてみたらどうでしょう。

ユーザーは、映像に別のセリフをつけてパロディにしたり、ネタにしやすいシーン(たとえば修羅場)をつなぎ合わせてダイジェストムービーを作ったりと、勝手にいじってくれるでしょう。
そして、この二次創作物が「おもしろい」と話題になれば、ソーシャルメディアを通じてたちまち拡散するでしょう。
それに興味を持った人の何割かは、オリジナルの番組そのものに興味を持ち、次回見てみようと思ってくれるかもしれません。

ここでポイントになるのは、素の番組映像をそのままネットで流通させることを許容するのではなく、二次創作物の流通を許容する、ということだと思っています。
番組映像そのままだと、おもしろがって友人にシェアしようという動機はあまり生まれませんし、むしろ「ネットでいつでも見られるから、テレビで見なくてもいいや」となる危険性の方が大きいかもしれません。
二次創作物であるからこそ、ネタとして流通しやすくなりますし、本編のテレビ視聴を阻害することもありません。

冒頭に挙げた任天堂の例も、ゲームそのものを勝手に二次配信することを許容しているのではなく、ゲームのプレイ動画の配信を許容しているわけですので、ゲームそのものの販売を阻害することにはなりません。むしろ、プレイ動画が流通ことによる宣伝効果への期待の方が高いといえるでしょう。

 

勝手にいじられるのはおいしい

番組を勝手にネットに流されたりいじられたりすることについて、テレビ関係者の方は当然拒否反応を示されると思います。

出演者等の権利処理関係がまず大きく立ちはだかるであろうことは推測できますし、テレビ局に対する批判のニュアンスで使われるケースも多いに予想されますので、警戒されるのも当然です。

ただ、そういうマイナス面はあるにせよ、ソーシャルメディアマーケティング的には、「ユーザーに勝手にいじられる」というのは、きわめておいしい状況といえます。

4月初旬、焼津商工会議所が愛称募集をした「萌えキャラ」が、予想外の形でネットを賑わせました。

焼津商工会議所の萌え系キャラが「いまいち萌えない娘以上」と話題に
<http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1304/02/news123.html>

「萌えキャラ」といいつつ、まったく萌えない古くさいキャラクターデザインだったため、「ひどすぎる」と話題になり、一般ユーザーがかわいい萌えキャラに描き直して投稿するというムーブメントに発展したことでさらに注目を浴びた、という話。

「ひどすぎる」といわれるのは作り手にとっては大変不名誉なことだったでしょうが、結果として想定を遥かに超える認知を獲得することに成功したわけですから、結果オーライといえるのではないでしょうか。
あまりにうまくいきすぎているので、「確信犯的なプロモーション戦略なのでは」という疑いの声さえあがっていたようです。(実際のところはどうかわかりませんが)

 

テレビが直面している状況は、かつてネットが辿った道の相似形かもしれない

繰り返しになりますが、テレビ局の財産である映像コンテンツをオープン化するということは、テレビ局にとってはとても大きな決断を要することであろうということは、容易に推測できます。

ただ、ウェブの世界に置き換えてみますと、この件に関していまテレビが直面している状況は、RSSが普及し始めた時期にウェブメディアの担当者を葛藤させた状況に重なって見えます。

RSSが普及し始めた当時、古いウェブメディア感から抜け出し切れないサイト担当者は、こんなことを言っていました。「RSSを配信して記事を外に出してしまったら、うちのサイトにユーザーが来てくれなくなるじゃないか」と。

それまでのウェブ運営においては、自分のサイトをブックマークして毎日訪問してくれるリピーターをいかに増やすか、という価値観が主流でした。その価値観においては、サイト内にコンテンツを囲い込み、サイトに来なければ記事を見ることができないようにすることこそが、ユーザーにリピートしてもらうために必要なことだとと信じられていました。
この価値観に縛られた頭には、RSSによって情報をオープン化するメリットが理解できなかったのです。

いまでは、その考え方が誤りであることは明白です。

ネットの世界ではその後、コンテンツをオープン化することの重要性が、急速に浸透していきました。
ニュースメディアの世界では、Yahoo!ニュースに記事を提供し、そこに自社サイトへのバックリンクを掲載することで、爆発的なトラフィックの恩恵を得るという勝ちパターンが成立しました。
RSS主流の時代には、RSSを出し惜しむサイトは、RSSリーダーやマッシュアップサイトからの集客チャンスを逃すというハンデを背負いました。
そしてソーシャルメディア全盛の今日では、ソーシャルメディア上で記事を流通させることがきわめて有効な集客手段であることを、誰もが知っているでしょう。

こう考えると、テレビが映像コンテンツをなんとかテレビの中にとどめおこうとする発想は、かつて旧来のウェブメディアがオープン化に抗おうとした発想に似ている気がしませんか?

 

番組映像流通のオープン化は負のサイクルを断ち切るか?

ソーシャルテレビ推進会議主催者にしてあやとりブログ執筆者でもある境治さんが、以前どこかで、以下のようなことをおっしゃっていました。

「映画館に映画を観に行くと、新しいの映画の予告をたくさん見せられる。あれを見るから、また映画を観に行きたくなる、というサイクルになっている。そして、いったんそのサイクルが途切れると、新しい映画の情報を目にしなくなり、パッタリと映画館に行かなくなるという「負のサイクル」に入ってしまう。

テレビも同じ。番組の合間に別の番組の宣伝映像を目にするから『あれも見てみよう』と思う。

いまは、そもそもテレビを見なくなっている人たちが増えている。この人たちは、番組の宣伝映像を目にしない。つまり、映画館に通うサイクルが途切れた状態と同じ「負のサイクル」に入っているのではないか」

まさにこういう状況が生じているとすると、テレビの映像をテレビの中に囲い込んでも、いったんテレビを離れた人を呼び戻すことはできないでしょう。
テレビの外でいかにユーザー接点を作り、テレビ番組への認知を再獲得するか。そこが課題であるはずです。

「番組映像の二次利用フリー化」は、この課題を解決する一手にはならないでしょうか?

 

伊與田孝志  プロフィール
ニフティ株式会社勤務。ソーシャルテレビサービス「実況レビ番組表みるぞう」のプロジェクトリーダー。
テレビ業界の外の立場から、ソーシャルとテレビが作る幸せな未来を探っています。
1996年、富士通株式会社入社。1999年よりニフティ株式会社勤務。
社会人一年目から一貫して、インターネットサービス事業に従事。ユーザーインターフェイス設計を中心に、数多くのインターネットサービスプロジェクトに参画。

 

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