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20142/15

炭焼き小屋からの帰り雪道

仕事からほぼ引退したがやり残したことも少しあり、また新しい習い事などもはじめた。その間に病気の検査や突然の入院なども挟まり、体力激減の身にはちょうど良い日々送っています。

 

「ほぼ引退」と言いましたが、仕事の中身たるや人と会い飯を食うことがメインかと自分でも苦笑いです。

 

先日やはりほぼ引退した政府高官と飯を食い、来し方行く末の話になりましたがそこで先方から結構深刻な問題提起がなされました。
要点を乱暴に言えば「民放を生き延びさせる為としていろいろな施策を手掛けたつもりだが、それは効果が有ったのか無かったのか?
効果が有ったから今日もキー局地方局ともに生きているのか、
それとも何もしなくとも生きていたのか」というような事です。
この酒飲み話は実は僕にとっても大変重要な総括を迫っています。

 

この高官はもちろん僕も、有名な「地方局は炭焼き小屋になる」状態をどう避けるか、最後の15年位は危機感を訴えたり対策を話し合ったり要求したり闘ったりしてきました。
衛星放送の開始定着、インターネットの猛普及、パーソナル携帯端末の猛普及などなど避けることは決してできない技術の進歩が次々に興っています。
それに加えて酷いときには「もう放送は要らない。ネットがあれば十分」と声高に言って、法体系の中から「放送」という言葉も消してしまおうという政府内の具体程な動きさえありました。

 

キー局も地方局もNHKも技術進歩の波には様々な形で参加しました。
テレビのデジタル化と大画面化等の時期が重なって起きたことが、我々を否応なく参加させたのですが。
また放送無用論のようなおバカな主張とは闘いながら来ました。

 

議論するまでもなく放送は有用です。
特にドラマ、映画、報道の世界はまだまだ極めてチョー有用です。
仕事をほぼ引退して気が付いたのですが僕の周りの「ほぼ高齢者社会」では放送や新聞から情報を得る、娯楽はテレビか映画という人が大半です。 ネット社会の利用者で多いのは通販とFacebookやTwitterなどのお友達作りですかね。

 

そこでさっきの高官の問いかけです。
実を言うと僕も本当に今頃は地方局の幾つか(二けた局)が経営不能になり、キー局の一つ位は会社更生中、というぐらいに思っていました。
「炭焼き小屋の現実化」です。
そういう危機感を様々な機会に言ったり書いたりしたし、民放経営の刷新とテレビのデジタル機能の活用にも取り組んだつもりです。
それと並行して総務省や政府にも地方局やキー局のセイフティーネット作りを働きかけて来ました。
しかし幸いなことにセイフティーネットは今のところ現実には作動しておらず、政府高官や僕が先ほどから言っている問いを自らに問いかけている状態なわけです。
まあ、炭焼き小屋の入り口まで行って雪道を少し引き返しているような気分ですね。

 

なんでこうなったか。
第一にテレビというものが特に高齢化した日本の中で僕が考えていたよりずっと深く個々の生活や心の中に根差しているということですね。
(新聞やラジオも同様で、潰れてないですね。)
(この点については別の執筆者の間で大変ハイブローな論戦が行われているようですから、ここで詳しく言って論戦に巻き込まれたくはないですが。)
もう一つには民放やNHK,政府の危機感を持った取り組みが効果あった。(こう思いたいのです)
それともうひとつ、ネット事業者の怠慢ということが非常に大きいと思います。
自前でドラマを創ったり報道の取材網を構築した人は居ません。
地方の県で地域文化の担い手になった人も居ません。
彼らは目先の単年度利益にあまりにも強く自分を縛り付けていて、そのような直ぐに儲からないことはやらずに来たのですね。(出来上がっているものを買収しようとした人はいますが。自分で作らなければ社員全体の情が濃くならず、権力と戦うなんてこともしないですね。)
それと彼らは個人が情報や主張をやり取りする「場」を提供はしているが、自己投資はしないですね。

 

テレビや新聞、ラジオが僕の予想以上に善戦して生き延びているのはこの敵失のお蔭も大きいとこの頃は思うのです。
ですから「炭焼き小屋から引き返す」と言ってもそこは「雪道」です。

雪道はのろのろ歩くとかえって危ないし、急ぎ過ぎても危ない、誰かが滑ったら手を差し伸べながら、セイフティーネットも用意しながら、やってゆきましょうね。

 

城所賢一郎 プロフィール

元TBSテレビ特別顧問
2013年4月からTBSホールディングス顧問
TBSメディア総合研究所 上級フェロー
コンテンツのアジア展開に取り組み、BEAJ顧問。
「これからは日本経済のために尽くす」
骨髄異形成症候群で闘病中。

 

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  1. 2014年 2月 17日
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