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20143/17

マスコミは鬼子母神・羅刹 

今年も「東京・春・音楽祭」が始まりました。10回目です。
この間小澤征爾さんやリカルド・ムーティーさんはじめキララ星のごとき演奏陣が登場しました。
また日本で演奏機会が少ないパルジファル(ワグナー)とかハイドンのオラトリオ・天地創造(ハイドン)なども聞かせてくれました。
会場は東京文化会館を中心に国立博物館など上野の森の10か所近くになりました。
主催者の意志が強く色濃く見える催しです。
実行委員長がIIJ(インターネット・イニシアティブ・ジャパン)の鈴木幸一会長です。鈴木さんは日本でインターネットというものを創始した平成の怪人物ですが、この「東京・春・音楽祭」には私財ウン十億円をつぎ込んだと言われていて、この頃ご本人は「お金が無くなってきたよ」とぼやいておいでです。
僕は常々インターネット系のお金持ちは昔の金持のように芸術家を育てるところにもっとお金を出すべきだと言い続けていますが、鈴木会長を本当に尊敬していて「東京・春・音楽祭」が春を待つ楽しみの一つです。

 

 

以上は今回の前書きです。
この「東京・春・音楽祭」、今年は第一番に3月15日、ベートーベンの後期3大ピアノソナタと言うのを聞いて来ました。
ところが音楽に集中できなくて何故か「現代のベートーベン」事件をしきりに思い出してしまいました。
あの人の記者会見をテレビで見たとき確かに昔取材で時折見かけた「天性の詐欺師」的だなあと言う感じを受けました。あの会見も相当嘘が混ざっていたような気もします。
しかし、彼の詐術に乗りどんどんイメージを膨らませていったのはテレビ新聞等々マスコミです。
彼が自分で「自分は現代のベートーベンだ」と言ったわけではないでしょうし
「広島の名誉市民になりたい」と言ったわけでもないでしょう。
そして今年になって一部嘘がバレてくるとお決まりの集中バッシング。
「あれも嘘これも嘘」「作品も質が低いと思っていた」「インタビューはしたが危ないと見抜いたのでうちは記事にしなかった」などと溺れた犬は死ぬまで叩けという調子でした。危ないと見抜いたのならなぜもっと取材しなかったのか意味不明です。
それぞれ誌面や画面でお詫びはしていましたが、マスコミでは過去にも自分で作った虚像を手のひら返してバッシングということは沢山ありました。
最近では某有力司会者も気の毒でした。

 

 

そして今、STAP細胞の「リケジョ」。
あの人も原因を作ったのは事実でしょうが、そう言えばこんな事も有ったあんな事も有ったと過去まで穿り出し、一面トップや第一項目で30分も報じた事はだんだん忘れてしまう。彼女も自分で「リケジョの星」と言ったわけではないです。
ネイチャー誌も理研も早稲田大学もそしてマスコミもチェックが不十分で、世界中の研究者達や世間に対して責任がありますよね。
理研の人が会見で「一人の未熟な研究者の手に余る」と言ったのにはわが耳を疑いました。

 

 

「現代のベートーベン事件」や「STAP細胞マター」について、我々マスコミ関係者はもちろんそれぞれ関係者が、自分のチェックや行動がどうだったのか真面目に検証して公表すべきです。
特に民放は学術、科学等分野の取材体制(記者の数と質、情報のネットワーク、
キャスターの教育など)を早く構築するべきです。(僕は科学部を作ることができなかったのが痛恨事です)

 

 

ほぼ引退して普通の年金生活を送ってみると、世間ではマスコミは殆ど「信用」されていなくて、「面白おかしい話題の提供者」程度に見られていると思うことがあります。おば様たちにはっきりそう言われる時も有ります。
この事はネット上のもっと危ない玉石混交の「情報」が信用されてしまう下地を作っています。

 

 

自分もマスコミの世界で50年近くやってきたので、責任があるし恥ずかしいような気持になります。
「鬼子母神」や「羅刹」は自分で生み出した者を殺して食べてしまうような悪鬼でした。(最後にはヒンドゥか仏道に救われますが)
「マスコミは 産んでは殺す 鬼子母神
ベートーベンも リケジョも食うた」
恐ろしい歌を作ってしまいましたが、自分が生きているうちにテレビがこの恐ろしい繰り返しから脱却できるように、発言もしますし祈りもします。

 

 

 

城所賢一郎 プロフィール

元TBSテレビ特別顧問
2013年4月からTBSホールディングス顧問
TBSメディア総合研究所 上級フェロー
コンテンツのアジア展開に取り組み、BEAJ顧問。
「これからは日本経済のために尽くす」
骨髄異形成症候群で闘病中。

 

 

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