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201312/28

ツール・ド・東北+ラジオが生んだもう一つのドラマ

東日本大震災で被災した高校生がFMラジオで心情を表現することによって新たな歩みを始める姿を描いた特集ドラマ「ラジオ」が今年度の文化庁芸術祭大賞に選ばれた。このモデルとなった宮城県女川町の災害臨時ラジオ局、女川さいがいFMは、ツイッターと連動しサイマル放送で町外にも多くの視聴者を持つ。ここでこの秋、自転車イベント「ツール・ド・東北 2013 in 宮城・三陸」をめぐりもう一つのドラマがあった。ソーシャルメディアが生んだ出会いの物語を、年末に書き留めておきたい。

 

●エピソード1・国見峠
始まりは9月、テレビのスマホ片手視聴だった。こちらのドラマの主役はドラマ「ラジオ」の主人公のモデルとなった「某ちゃん」と同学年で、ともに女川さいがいFMの高校生アナウンサーとして活躍した大平直人君(19)。震災後、不登校になっていた時にアナウンサー募集を知り「あこがれの声優になれるかも」と参加した。今春から都内で声優を目指している。「微妙に空気を読めない愛されキャラ」として人気で、町内には「大平くんを育てる会」もある。
その大平君が今夏いきなり「中途半端な自分を倒したい」と東京から女川まで460キロをママチャリ(軽快自転車)で帰省した。その模様が9月下旬にNHKのドキュメンタリー番組で放送された。どう見ても文化部もしくは帰宅部系の大平君が福島・宮城県境の国見峠を必死で越える映像を応援ツイートしながら見ていた女川さいがいFMリスナーたちから「次はツール・ド・東北!」という声が自然と起こり、広がった。そのうねりが大会関係者に伝わり、取材という形で出場が決まった。

 

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●エピソード2・モノノフ自転車部
ツール・ド・東北は石巻、女川、南三陸の1市2町を自転車で走る復興支援イベント。2012年7月から石巻に拠点を設けて支援活動を展開しているYahoo!などの主催で、今年11月3日に初開催された。石巻専修大学をスタート・ゴールとして全国から集まった1316人のライダーが160km、100km、60kmの3コースに別かれて走り、完走率は99%。募集と同時に出場希望者が殺到する人気イベントだ。
「町の人の期待に応えたい」と100kmコースに出場することになったものの、大平君はママチャリ以外乗ったことがない。バイクもウェアもない。大会スポンサー、GIANT社の協力で競技用バイクに試乗したところ、かなりぎこちない。大丈夫か…という大人たちの心配をよそに「自分らしく走りたい」と、あくまで自然体の大平君だった。
そんなある日、女川さいがいFMのツイッター公式アカウントが大平君のツール・ド・東北出場を発表すると、たくさんの激励の声が届いた。中でも強力だったのが、人気アイドルグループ、ももいろクローバーZのファンがつくる「モノノフ自転車部」の存在だ。
まず都内在住の「部長」から、オリジナルデザインのウェア提供の申し出があった。ももクロは女川さいがいFMの「お友だち」として女川を訪ねており、スタジオはファンの聖地となっている。この日のために仕立てられたジャージには、ピンクを基調にももクロ5人の姿やテーマ色があしらわれ、背中には「79.3MHz」と周波数が大きく入っていた。

 

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●エピソード3・「走れ!」
大平君出場にあたり、女川さいがいFMは3時間の生放送を企画した。しかし本当に100km走れるのかという不安は依然残った。そこにモノノフ自転車部からレース経験豊富な「秋田支部長」の佐藤さんをサポートに差し向けるという申し出があった。
大会当日、朝7時22分に石巻専修大をスタートした大平君は、女川エイドステーションまで順調に到着。コースの感触などをコメントしたが、その後アップダウンが小刻みに連続するリアス式海岸の洗礼を受ける。「坂は嫌いです」とペースダウンする大平君の背ポケットに佐藤さんがそっとiPhoneを入れ、ももクロの「走れ!」を聞かせた。その情報は生放送中のスタジオに伝えられ、ラジオでも「走れ!」がオンエアされ、リスナーがエールを送った。
親子ほどの年齢差のある佐藤さんに見守られ大平君は14時29分、無事ゴールを決めた。「自転車は孤独だと思っていましたが、佐藤さんに『みんなで走るんだから孤独じゃない』と言われ、どんな苦しい時も楽しむことが大切だということを学びました」と話す大平君の脇に、「やばい目から水が」とサングラスをかけなおす佐藤さんの姿があった。

 

 

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