スマートウォッチは低機能であるべし
モーダルとモードレス、対話型操作とダイレクト操作
UIの分野には「モーダル」と「モードレス」という概念があります。
この概念については、ソシオメディアの上野学氏が、よく言及しておられます。
(アンダーライン部分は引用)
モーダル
モードがある状態。つまり、システムが特定の機能の使用に制限された状態。ユーザーが自由に操作を行えなくなることと、モード別に機能の意味や振る舞いが変化することから、ユーザーインターフェースのデザインでは、できる限りモードを設けないほうがよいとされる。
モードレス
モードがない状態。ユーザーインターフェースをデザインする際に目指すべき状態。状況に依存した機能制限がなく、自由な手順でタスクを進行することができ、かつ特定の操作がシステムによって常に一定に解釈される状態。
「モーダル」の典型は、たとえばYesかNoかの選択を求めるダイアログボックスです。どちらかを選ばないと他のことができない状態、つまり、その間の行動を二択に制限されている状態にユーザーを閉じ込めてしまいます。
別の例では、たとえばウェブ画面上で、リストから項目を編集するためのUI。
「編集」というボタンをクリックして編集モードに切り替え、内容を編集する…というのはよくあるパターンですが、このように、アクションをまず指定してモードを切り替えて操作するという流れも、モーダル型UIに当てはまるそうです。
このような「モーダル」なUIは、極力避けるべきなのだそうです。
Appleも、iOSアプリ向けのヒューマンインターフェースガイドラインで、やはり「UIはモードレスであるべき」と述べています。
具体的には、ダイアログ等により操作の選択肢を制限するようなUIは極力避けるように、と推奨しています。
ただそのわりには、たとえばiOS標準のリスト編集用UIは、明らかに「編集モード」への切り替えを想定したものであったりします。
また、先ほども書いたように、そもそもアプリを選択してから各機能にアクセスするというiOSの構造自体が「モーダル」的であるようにも思えます。
…私はアカデミックなユーザビリティの専門家ではないので、「モーダル」「モードレス」という概念に当てはめて語ると、「いやいや、モーダルとかモードレスっていうのは、そういうことじゃないんだよ」と専門家の方につっこまれそうな気がしてきました。
なので、ここでちょっと逃げを打って、「対話的操作」「ダイレクト操作」と言い換えてみます。(私の勝手な定義です)
iPhoneのUIは「対話的」である、と先ほど述べました。(「モーダル」かどうかはともかく)
ではそれと対になる「ダイレクト操作」とは何か。これを説明するために、カメラの操作体系を例に挙げます。
私は会社で「カメラ部」の部長をやるくらいのちょっとしたカメラ好きでして、一眼レフデジカメを愛用しています。
一眼レフ、ミラーレス一眼、あるいはハイエンドコンデジといった上位のデジカメの中にも、ローエンド機からハイエンド機までいろんなグレードがあります。グレードによる違いはいろいろありますが、重要な違いのひとつは「ボタン/ダイヤルの数」です。ハイエンド機になればなるほど、ボタン/ダイヤルの数が多くなるのです。
たくさんのボタン/ダイヤルがなぜ必要か。それは、撮影のセッティングをすばやく変更するのに必要だからです。
ある程度こだわって写真を撮るようになると、いろんなセッティング変更を頻繁に行なうようになります。絞りを変える、露出補正する、ホワイトバランスを変える、測光モードを変える…など。それこそ、1枚撮るごとに変更する、といっても過言ではないくらいです。
こうしたセッティング変更を瞬発的に行なう上で、たくさんのボタン/ダイヤルのひとつひとつに機能が割り当てられている操作体系は、とても有利です。被写体に意識を集中しつつ、指感覚だけでパパッと操作することができます。
こういったセッティング変更は、ローエンド機でも行なうことができます。
ただしローエンド機の場合、ボタン/ダイヤルが少ないため、ちょっと込み入ったセッティングになると、メニュー画面から操作しなければなりません。こうなると、その操作をしている間は、カメラの液晶画面に集中せざるを得ません。そんなことをしている間に、被写体はどこかに行ってしまうかもしれません。
ただし、ローエンド機のUIがひとえに劣ったものであるかというと、そうではありません。おそらく、ローエンド機の対象ユーザーは、そもそもそんなにあれこれセッティングをいじったりしないライトユーザーなのでしょう。ライトユーザーにとっては、ボタン/ダイヤルが必要最低限にとどめられたUIの方が、むしろ適しているのでしょう。
つまり、カメラという機器の習熟レベルが低いユーザーには対話型操作が適しているのに対し、習熟レベルが高くなったユーザーにはより多くのダイレクト操作が必要になる、ということが伺えます。
スマートフォンにもダイレクト操作化の流れが来ている
さて、再び話をスマートフォンに戻します。
最近「スマートフォンのUIは、転換点に来ているのでは?」と感じたことがありました。
きっかけは、iOS7の新機能「コントロールセンター」です。
“http://www.apple.com/jp/ios/whats-new/“アップル – iOS 7 – 新機能
Appleのサイトには、このような説明が書かれています。
コントロールセンター。欲しいものが、スワイプ一回で指先に。
今この瞬間にしたい操作や、使いたいアプリケーションへ瞬時にアクセスできる。それがコントロールセンターです。ロック画面を含むどの画面からでも、上に向かってスワイプするだけ。すると、そこで機内モードへの切り替え、Wi-Fiのオン/オフ、ディスプレイの明るさの調整など様々なことができるようになります。周りが暗い時のために、新しくフラッシュライトも追加されています。一回のスワイプでコントロールできることが、これまでになく広がりました。
これを見たときに感じたのは、「Appleにしてはずいぶん見境なく、例外的なUI出してきたな」ということでした。
そして、当初のiPhoneUIのシンプルな基本概念、すなわち徹底した「対話型操作」から、徐々に「ダイレクト操作」にシフトしてきている、と感じました。
当初のiPhoneが提供した原理主義的なまでにシンプルな操作体系は、iPhoneという新しいデバイスの概念を世に示す上では有効だったし、必要だったのでしょう。しかし、スマートフォンが道具として浸透し、ユーザーの習熟レベルが上がっていく中で、より現実的な利便性、すなわちダイレクト操作の要求が高まってきました。(現実的な利便性という意味では、むしろ昨今ではAndroidの方が先行しているともいえます)
そんな状況を踏まえ、今回Appleは、コントロールセンターという新機能を投入してきたのではないかと推測します。
考えてみれば、スマートフォンは、外出時に頻繁に利用される道具です。カメラと同等、あるいはそれ以上に、屋外の雑多な状況、周囲に注意を払わなければいけない状況の中で、直感的に素早く操作することを必要とされる道具といえます。
ユーザーの習熟レベルが向上し、分かり切った操作を素早く実行したいという要求が増加するにつれ、ダイレクト操作の必要性が高くなるのは、必然的な流れなのです。
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