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20116/9

「『SASUKE』のアメリカ版、日本実写番組初のアメリカ地上波進出!日本の番組では初!」 杉山真喜人

 TBSの看板番組のひとつ『SASUKE』が、この度米国4大地上波NBCのゴールデンタイム(以降、G帯)で放送されることになった!日本の実写番組のアメリカ地上波G帯登場は、テレビ史上初の画期的出来事となる(*TBSは「フォーマット番販」を80年代には既に開始した「世界的老舗」で、現地キャストによる現地版の地上波G帯放送は20年超の実績がある)。

 『SASUKE』〔製作 モンスター9/TBS]は、1997年に『筋肉番付』のスペシャル番組としてテレビ初登場。以降TBSの看板番組の一つとして期末期首特番や正月特番として放送されてきた。

実はこの番組、世界的にも人気を博しており、これまで世界5大陸・全153の国と地域に販売されている(2011年5月現在)。150ヶ国以上に販売実績を持つ日本の番組は、TBSの『SASUKE』と『風雲!たけし城』(159の国と地域)のみ。
 
アメリカでは、全米ケーブル局G4(ジー・フォー)が、御本家『SASUKE』の映像を利用した米国版”Ninja Warrior”(ニンジャ・ウォリアー、以降”NW”)を2006年10月から放送開始。2007年には米国地上波番組を含む年間ベスト10に選出される(雑誌「GQ」米版やMovieWebのランキング)など一挙に人気が爆発し、アメリカで圧倒的な知名度を誇る『スタートレック』『CSI:科学捜査班』とならびG4の3大看板番組と称された。アメリカの国民的人気番組と肩を並べる評価を得た日本の番組は他に『風雲!たけし城』(TBS)の米国版”MXC(Most Extreme Elimination Challenge)”だけ。G4ではNWを放送するたびに同局の視聴率記録を更新、特に10~30代の男性層から圧倒的な支持を受けていて、ファンの間では収録が行われる緑山は「聖地」、日本人有名選手は「スター」や「ヒーロー」的存在になっている。

ちなみに、アメリカ人の間で、緑山(Mt. Midoriyama)は、日本の山の中で、富士山(Mt. Fuji)に次ぐ知名度とも言われ、本当の「山」だと思い込んでいるファン達が、TBSのスタジオ施設だとも知らずにGoogle Earthで所在地を探したりもしている。
 
また、G4ではNWの参加をかけた全米キャンペーンを2007年8月から行い、その都度番組は高視聴率を獲得。緑山への参戦をかけたアメリカ代表選出の模様と合わせ、アメリカ代表選手の動向に焦点を当てた派生シリーズ”American Ninja Warrior”(アメリカン・ニンジャ・ウォリアー、以降”ANW”)も2シーズン制作された。特に昨夏「シーズン2」の第1次予選を兼ねたイベントには延べ10万人が訪れた。『SASUKE』は、これまでに延べ2,600人が挑戦し僅か3人しか完全制覇者がいないことから、「究極のサバイバルアタック」とも言われるが、内2選手を含む3選手(長野誠さん、漆原裕治さん、奥山義行さん)がこのイベントにゲストとして渡米した。3人は、会場でサインや握手を求めるアメリカ人ファン達に揉みくちゃになったため急遽警備員を配置、連日サインを求める長蛇の列は途絶える事が無く、本人達も驚くほどのアメリカでの認知度と人気を裏付けた。

そして今年も、最新の「シーズン3」の第1次予選の公開収録を兼ねたイベントを5月16~18日に実施。今回は、『SASUKE』関連グッズ(選手着用のゼッケン番号や靴、ミニチュア・セット等)が、お宝グッズよろしくケースに入れられ展示され好評を博した。今回も、全米から集った300人がコースを疾走、うち上位15人が選出され第2次予選に当たる”ブートキャンプ”に進出。進出した15人は、聖地・緑山で行われる最終10人分の緑山での『SASUKE』出場権をめぐって壮絶な戦いを繰り広げることになる。なお、ANW「シーズン3」の模様は、G4で8月から各話1時間の10話シリーズとして放送される予定だ。
 
そして更に、米国での人気の高さに注目した米4大地上波NBCが、クライマックスとなる『SASUKE第27回大会』日本本選(前述10話中、第9話と第10最終話に相当)をこの秋放送することになった。
 
その放送枠は月曜日のG帯。放送局にとって月曜日のG帯は、全タイムテーブルのなかで最も重要な時間帯のひとつで、アメリカではプロフットボールNFLも放送される枠。日本の実写テレビ番組が4大ネットワークG帯に初進出するというだけでなく、いきなり全米最注目枠での放送となる!一般的に、深夜帯から日中の時間帯への「昇格」や、地上波放送後にローカル局やケーブル局で再放送される事はあるが、全米規模とは言え、ケーブル局の番組が地上波に「昇格」するのは、アメリカ国産の番組でも稀。

今回これが実現したのは、単にNWが人気拡大したからだけでなく、実は幸運な特殊事情がある。G4の親会社は、世界最大規模(米最大)のケーブル会社Comcast(コムキャスト)社。同社はM&Aを繰り返し、一昨年には、遂にNBCユニバーサル(米地上波NBCと映画最大手の一角ユニバーサル・スタジオが2004年に合併し誕生)の経営権も傘下に収めた。他にもインターネット事業やNBAやNHLのプロスポーツチームのオーナー企業でもある。つまり、ケーブル会社が地上波放送局や映画スタジオを実質的に飲み込んだ、今や世界有数の巨大メディア・コングロマリットなのである。

また、G4は、NWを放送だけでなく、自社サイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などとも連動して効果的に媒体価値を上げる試みを行っている。特にFacebookにおいては、既に日本の実写テレビ番組としては異例の42万人以上のファンを獲得しており(2011年5月現在)、驚異的ペースでファンを増やし続けている。100ヶ国以上で放送されているためか、英語だけでなく、ウォールにはさまざまな言語が飛び交っている。今後、米地上波放送される事で、更なるファンの増加が見込まれる。NBCの月曜日のG帯は、平均で全米1,000万人以上の視聴者がいる。アメリカの一般視聴者に『SASUKE』とNWがどの様に受止められるかは全く未知数だが、他のアメリカ番組とは異質の日本番組である事や、既にG4での放送を通じての認知度もあるため、より多くの一般視聴者の目に触れることで大きな反響を呼ぶ可能性もある。

 一方、日本の震災復興支援のためG4とTBSは赤十字社を通じた日米共同の支援活動も行った。4月29日~5月1日にはNinja Warrior Japan Relief”(『ニンジャ・ウォリアー日本支援』)と称する50時間を越えるマラソン放送(過去の番組を数日間にわたって集中的に放送する)を行い、この中で1時間の日本特集を組んだ他、5月1日には、今年1月に日本で放送された『SASUKE』正月特番を元にしたNW最新話も放送した。さらにマラソン放送を皮切りにG4の番組HPなどでの義援金募集と、NWの10名のファイナリストと共に1名分の”日本に行く権利”を含むチャリティー・オークションを5月12日まで世界でも最大級の米国オークションサイト「eBay(イーベイ)」を通じて行うなど、インターネットやFacebookとも連動した日本支援キャンペーンも敢行した。落札者は次回『SASUKE』出場の権利を得たが、義援金とオークションの落札額は全額赤十字社に寄付される。日本の番組コンテンツを通じた日米の放送局共同の復興支援活動も前例が無い。

既に、『SASUKE』の海外展開は、日本の放送局では、過去に実現した事がない次元に突入しているが、今後、更に世界でどのような新たな展開が起こるか(起せるか)非常に楽しみでもある。

【参考情報】
TBSオンライン・カタログ: http://www.tbs.co.jp/eng/programsales/index.html
TBS海外番販公式ツイッター: https://twitter.com/TBS_prosales
米G4、本件公式リリース: http://ow.ly/52tvb
米G4“American Ninja Warrior”公式サイト: http://g4tv.com/anw/index/
米G4、Facebook公式ファンページ:

http://www.facebook.com/ninjawarrior#!/ninjawarrior?v=wall

杉山真喜人(スギヤマ マキト)プロフィール
TBSのコンテンツ海外販売を担当。TOEIC965点。国連英検特A級取得。TBSにアナウンサーとして入社する前には、日米合作映画「MISHIMA」(プロデューサー:フランシス・コッポラ&ジョージ・ルーカス)の監督付きアシスタントをした経験もある。渋い低音が魅力で、CMやビデオの日本語・英語ナレーターを副業としている。

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