あやぶろ

多彩な書き手が、テレビ論、メディア論をつなぎます。

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201011/29

コンテンツはメディアを選ぶ。

前川大先輩の「あやをとります」と言って、
自分なりの書き出しの大見栄を切ったものの、
その後、現業に追われていて、時間がたってしまった。
先輩の2010/11/01 12:20のエントリーに、

>「コンテンツはメディアを選ばない」という発想や認識の
>一番の問題は、それが制作者の創造性に反することにある。

という重要な指摘がある。

>どのような「場」で人に見られる(読まれる、聴かれる、など)かを
>想定しない創作活動はないからだ
>どういう人が、どういう形で接触してくれるかわからないけど、
>先ずは良いモノを創ろうなんてことはあり得ない

そう、その通り!
これを読んで、あることを思い出した。
先月(2010年10月28・29日)、アドテック東京の第2回目が開催された。
http://www.adtech-tokyo.com/ja/
その基調講演のひとつとして、電通の岸 勇希氏を司会に、
吉本興業の大﨑 洋社長、フジテレビの大多 亮氏の3者で、
「テレビはこれからもポップたりえるのか?」と題する、トークセッションが行われた。
http://www.adtech-tokyo.com/ja/conference/session_detail/October_28th_02.html
いくつものスリリングな問題提起がなされたが、その終盤で、
「テレビはこれまで、強いコンテンツが作れたのだから、
これからも、強いコンテンツが作れるはずだ」
という主旨の発言が出た。(註:聞きとった私の解釈を含んでいます。)
これは、一見、正論であるが、実は、重大な見落としがあると気づく。
それは、俗に言う、「良い聴衆が、良い演説者を育てる」という諺の視点である。
広告はいつも、「メディアの似姿」を借りてきた。
という持論を自著に書いた。(アスキー新書「使ってもらえる広告」)

人々は移り気で、時代と共に新鮮なメディアがあらわれ、
人気のメディアも移り変わって行く。
広告は、軽薄に、時代ごとに一番人気のあるメディアの中にもぐり込み、
そのメディアの「似姿」を借りて、人目を引いて来た。
人々が新聞を読みたかった時代は、新聞の「似姿」を借りて、
「読み応え」のある広告になり、
人々がTVを見たかった時代は、TVの「似姿」を借りて、
目を魅了する「ビックリ映像」の形をした広告になった。
では、その人気のメディアは、どう生まれ、どう変遷するのか?

それまで、読めなかった新聞というものが、ある日、印刷されて売られる。
それまで、お茶の間になかった映像というものが、ある日、電気屋さんから届く。
かつて、皆が一生懸命に新聞を読んだからこそ、ジャーナリズムが勃興し、
かつて、皆が夢中でTVにかじりついたからこそ、TVは毎週、面白い番組を作り得たのだと思う。
したがって、重要な視点は、
「その時代の、新鮮なメディアと共に、新鮮なコンテンツが出現する」
という、歴史認識である。
これは、絵巻、黄表紙、歌舞伎の時代から、
薄型大画面、3DーTVの今日まで変わらない、普遍の原則だと思う。

なぜ、70年代のアニメは、エキサイティングな名作の数々を生み出し得たのか?
なぜ、ドリフは、毎週土曜夜8時に、次々と新鮮なギャグを小学生に届けられたのか?
常に、ユーザーが企業を育てるように、
常に、客が芸人を育てるのだ。
見る人がいて、はじめて見せる人が燃える。
この事実に、すべてのメディア人と、コンテンツ制作者は、謙虚に学ぶべきだ。
謙虚に学んでこそ、新しく出現するメディアで、どう生きていけるのか、察することができるだろう。
再び、前川先輩のエントリーから引く、

>ここでメディアという場合、
>それは端末/ディスプレイを含んでいると考えた方が良い

そう、その通り!
そして、今、ディスプレイは、ネットとつながったまま、
手のひらで、持ち歩かれるようになった。スマートフォンである。
この先に、ネットの次の「未来」がある。
それは、ただの表現とは違うもの。
日々、役に立つ、「使ってもらえる表現」のようなもの、だろう。

最後に、もうひとつ、重要なヒントを引用しておきたい。
先に紹介した、アドテック東京の、お3方の基調講演で、
吉本興業の大﨑 洋社長が、締めにおっしゃったひとこと。
「笑いは、ワクを超える。」
その通りである。
お笑い芸人は、TVでも、ラジオでも、舞台でも、地方巡業でも、
ブログでも、ツィッターでも、ウケることができる。
なぜなら、「笑い」もまた、人類が普遍的に欲するものだからだ。
メディアは進化する。人間は進化しない。
デバイス(道具)とシステム(社会)の進化で、
生活様式は変化するが、人間が本質的に欲するものは、1万年前から変わっていない。
ラクをしたい、笑いたい、Hが好き、おいしいもの食べたい、平和に眠りたい。
変わらない人間の本質に対して、最新のテクノロジーで、どうアピールできるか?
メディア人、コンテンツ人の課題は、要は永遠に、それだけだ。

 

須田和博(スダカズヒロ)プロフィール
1990年 博報堂入社。「使ってもらえる広告」著者。クリエィティブ・ディレクター。現在、エンゲージメント・ビジネス・ユニット在籍。多摩美術大学GD科卒業後、デザイナーとして博報堂に入り、以後、アートディレクター、CMプランナー、WEBディレクターと、7年周期で制作領域を遍歴。全媒体を作り手として把握できる、広告業界でも希な制作ディレクター。2009年「ミクシィ年賀状」で、東京インタラクティブ・アドアワード・グランプリと、カンヌ国際広告祭メディア・ライオンを受賞。新潟県・新潟市出身。

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