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文系男子の視点で考える「STAPとメディアな現象」前編〜藤代裕之×河尻亨一

河尻 まあクビですよね。キャッチコピーは短いので偶然似ちゃうっていうのもあるかもしれませんが、善意であっても意図的ならばジ・エンドです。まあ実際には意図的かどうかを判断するのは難しいですけどね。あと、広告だと「アイデアの盗用では?」といった事件はたまにあって、発覚すると騒ぎになります。いまはソーシャルメディアがあるので、指摘もしやすいし広がりやすい。

藤代 そうなんです。博士号を持ち、理研でリーダーをしているのですから本来はプロのはずなんです。でも、理研の野依理事長は小保方さんを未熟といい、小保方さん自身もそれを認めている。そうなってくると③の組織の問題になってくるはずですよね。未熟な研究者をリーダーにした組織が悪いわけです。でも、理研は小保方さんに責任を押し付けた。
5号館のつぶやきというブログが「筆頭著者の記者会見と連名著者の責任」という記事を書いて、小保方さんは退場だがすべての責任が筆頭著者一人の責任にされたことの不公平だとも指摘しています。例えば、広告の世界でもなんとか賞とかありますよね。名前を連ねるじゃないですか。

河尻 連ねますね。今回似てると思ったのは、実際の企画や演出、プロデュースなどの作業にタッチしてなくても、名前を連ねる人がいるということです。共同論文では、「ギフトオーサーシップ」って言うらしい。言わばどこの業界にもある“オエライさんシップ”みたいなことでしょうか。

藤代 名前を連ねたら責任を取る。それが当たり前です。広告賞だって、名前を連ねてエントリーしたけどパクリだったら責任とらければいけませんよね。なのに、「読んでない」とか「実験してない」とかいう共著者がいるわけです。共著者なのに責任を取らないというのが研究者の常識なんだとしたら、あまりに社会とズレている。ここで組織の話しが②に戻ってしまう訳です。

河尻 不正が存在したなら(1.)、組織が規定に則って関係者を処分、主語の頂点にいるトップもなんらかの責任を取る(3.)。ふつうはそれで終わり。しかし今回の騒動の場合、このプロセスがなんかよくわからないし、主語の曖昧さもあってか責任の所在範囲にまで話がいかないので、その間隙をぬってオーサー側が「悪意はなかった」とかまた言い出す。
すると世間の人たちはわからなくてストレス感じますから、「STAPあればいんじゃね?」(1.)で終わりにしようとしたり、超物語としての「陰謀論」にいったりもする。科学の人たちは世間のその感じにイライラが募るのか、「そういう話じゃねーんだ」ってことでまた②をガンガン追及する――その堂々めぐり。
つまり、騒動自体がどこかで初期化され、またストーリーが分裂し始める構造を持っている。そのリフレインの中で、小保方さんは図らずもメディア全体を酸っぱい汁にひたしてしまうことになったのでは?

 スクリーンショット 2014-07-26 13.26.184月16日。「STAP論文」の共著者である笹井芳樹氏の会見(河尻が参加)。
開始1時間前に行ったが、その段階で大会場の記者席はほぼ埋まっており
メディアの関心の高さがうかがえた。
これだけの人数になるとキーボードを叩く音もすごい。

 力を見せつけたソーシャル・ジャーナリズム疑惑の指摘とネタ、まとめをめぐって

藤代 ④のソーシャルメディアの話しをしましょうか。河尻さんはいつごろSTAP細胞に疑問の声が出ているのを知りました?

河尻 自分はそんなに早くなくて、3月に入ってからですね。最初の発表のときには「スゴい発見があったんだな」という程度の認識で、それほど大きな関心を寄せてはいませんでした。3月の1週目あたりで騒ぎになっていることをTwitterで知り、その後、若山照彦教授がメディアにコメントを出したあたりから、目が離せなくなってしまいました。

藤代 マスメディアではなくて、ソーシャルメディアということですね。

河尻 Twitterですね。最初は正直、嫉妬でたたいてるのかと思ったんです。ところがいくつか情報にあたると、どうもそうではないことがわかってきました。

藤代 流れとしては、色々な指摘がネット上であって、理研が再現手順を出す。それが確か3月5日。その後に若山さんが「これは違う」と言うわけです。

河尻 「TCR再構成は実はなかった」というプロトコルですね。

藤代 1月末に発表された後、ソーシャルメディア中心に、色々批判的なコメントもあったのですが私も嫉妬のようなものかなと思っていました。あと、科学は研究を批判的にとらえたり、再現実験をしたりするので、通常のプロセスかなと捉えていました。
どちらかといえば、理研の発表直後は、マスメディア批判がソーシャルで広がっていたので、それを追っていたわけです。ただ、だんだんと再現実験ができないという声が上がり、なんだか変な方向に行っているなと思っていました。若山さんのコメントは決定的でしたが、何人かの研究者はソーシャルメディアで発信していましたし、疑念の声を上げていました。なので、ソーシャルをウォッチしていたら疑問が高まって行く様子は分かったと思います。

河尻 参考になるブログもガンガン出てきましたよね。特に11次元氏のサイト(「小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑」ほか、かつての所属研究室関連のコピペも続々暴露)はスゲーと思いました。ネット上で研究不正を専門に追及している人がいるということもスゴいし、サイトでの情報の見せ方も工夫されてる気がして。科学的な内容に関しては素人によくわからないまでも、ヘンだと言うことは十分伝わる。あり方がジャーナリスティックですよね?
藤代さんにいまさら聞くのもあれですが、そういった“ネット・ジャーナリズム”のパワーも改めて実感したのでは?

藤代 そう思います。マスメディアは後追いでしたね。ソーシャルメディアのパワーなのですが 検証されやすい条件が揃っていたというのもあります。研究者が多い生命科学の分野だったのがあります。さらに、研究者はネットを使っている人も多い。ソーシャルジャーナリズムはどんな分野でも起きるのではないと思いますが、ソーシャルメディアがなければ違った展開になっていたかもしれません。
マスメディアは、多くの人を対象にするから仕方ない面もあると思うんですが、あれだけ最初に大きく報じたのだから、ソーシャルメディアをウォッチして、取材をしておけば、もっと早く疑念を報じることが出来たかもしれませんね。

河尻 早さは大事ですが、中身も大事ですよね。その意味では、「サイエンスZERO」(Eテレ)の緊急STAP特集は面白かった(3月16日放送「緊急SP! STAP細胞の謎に迫れ」)。これを見て、科学関係者の記事やツイート読んでもわからなかったことによるモヤモヤがかなり解消されました。
その番組情報もTwitterで知りました。放送前にスタッフなのか関係者なのか、制作の進行状況を伝える気合いの入ったツイートをしている人がいて、事態がこんなに流動的で大変な状況の中、ギリギリ作ってるんだなーと思って見てみたら、科学的な部分がわかりやすく説明されていた。
一方で、ワイドショーでコメンテーターがタレントが、STAPに関して一方的にモノ申す的タイプの番組は、自分は見てて正直シンドイなーと思うこと多いです。Twittre検索でTL見てるほうが、よっぽど「なるほど!」と思える意見に出会える。無茶苦茶なものもいっぱいありますけどね。

藤代 ソーシャルの力は大きいと思います。研究者だけでなく、河尻さんが指摘していたブログやスラッシュドットなどに匿名の投稿があり、それがさらにソーシャルメディアで拡散、そこに実名の研究者がコメントするというサイクルが追いつめて行きましたね。まとめサイトの力も大きいと思います。河尻さんは見ましたか? まとめサイト。

河尻 けっこう見てます。大学の講義で「“NAVERまとめ”を作ってみよう!」みたいな授業やってるくらいですから。

藤代 STAP騒動は議論のポイントが多いのですが、まとめサイトを読むと「あ、こんなことになっているんだ」と理解することができます。断片的にツイッターやフェイスブックに流れて来る情報や、指摘を整理することもできますね。

河尻 くわえて自分はコラ系もまめにチェックしてます。事件や出来事が世間に広まる中で、ネタ化されていくプロセスが気になるんですよね。そういった“社会クリエイティブ”は一見ふざけているようにも思えて、なかには言葉でロジック化できない本質をついてるんじゃないかと思えるものもある。匿名表現の中に「世相」みたいなものが反映される。
ちなみに今回、いまのところ自分が一番気になったのはこちらとなります。ネットで昔から使われてる定番コラフォーマット「チャリで来た」をアレンジしたもの。

藤代 川越シェフネタとか私も見ました(笑)。
これだけ注目を集めたのは、やはり小保方さんのタレント性を抜きに語れないと思います。どこか気になるというか、突っ込みどころ満載ですよね

河尻 そうなんです。さっきのコラを見るとSTAPと小保方さんから、「みんなが何を連想したか?」ですとか「どういった文脈にSTAP騒動を紐づけたいのか?」が一目瞭然ですね。このコラージュはフォトチョイスもイケてるなと思っていて、みんな表情が輝いてる。ある意味、開き直ってるというか。
そこから僕が何を読み取ったかというと、「この人たちはウソをついたり、世間をだまそうとしたかもしれないけど、別に人に直接危害を加えたり、巨額のワイロを受け取ったわけじゃないよね?」という気分みたいなものなんですね。からかいと同情半分みたいな。こうやってアクシデントを笑いで調和する機能も必要だと思います。でないと、断罪の言葉ばかり飛び交って、世の中ヘンにギスギスしてしまう。
小保方さんのタレント性という意味では、バッシングされた「AKBデビュー記事(※いまは魚拓)」も意外とついていたのかもしれません。

藤代 朝日新聞のサイトにのってすぐに削除されたコラムですね。

河尻 でも自分、あの記事ダメだと思うのは、不謹慎だからどうこうじゃなく、まず読んでも面白くないんですね。社会事象を茶化したり、話題の人物を滑稽化するのも、ジャーナリズムの手法として僕はアリだと考えるというか、まあたんに好きなんですけど、あれはエンターテインメントとして抜けてないというか、読者に媚びる印象もあるというか、仕事で仕方なく書いてるようにさえ思えたというか…。文章全体に笑えないオヤジギャグみたいな空気がみなぎっててイタかったです。

藤代 もはやネタすら、アマチュアのネットユーザーが面白いということかも。

河尻 そうなんですよ。その意味では「虚構新聞」は抜けてますよね。さすがに「またか」と思いつつ、ネタへの愛みたいなものを感じるので、お約束ごとをふまえて読めば不快な気持ちにならない。書いてることはどーしよーもないくらいのデタラメであるにも関わらず、そこでコミュニケーションが成立するんだと思います。(後編に続く)

 

(プロフィール)
藤代裕之(ジャーナリスト)
広島大学卒。徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部准教授。関西大学総合情報学部特任教授。教育、研究活動を行う傍らジャーナリスト活動を行う。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。

河尻亨一(編集者)
早稲田大学卒、雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くの表現者にインタビューを行う。現在は編集執筆からイベント企画、ファシリテーション、企業のPRコンテンツの企画・アドバイスなども。東北芸工大客員教授。「都市人物研究」「ヒット分析論」を担当。

 

 

 

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