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201312/28

ツール・ド・東北+ラジオが生んだもう一つのドラマ

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●エピソード4・虹
女川さいがいFMは11時から14時50分まで「おながわなう。ツール・ド・東北スペシャル」を生放送し、中継を交えながら参加者の声やリスナーの応援メッセージを伝えた。
番組MCは女川町で4代続く水産加工・蒲鉾製造「高政」の次期社長(予定)と後輩高校生アナウンサー、中継実況は元家庭教師や元コンビニ店員、小学生と多彩。愛されキャラ・大平君の健闘をネタに、町内や石川、愛知、群馬、山形など全国のリスナーが盛り上がりつながる不思議な温かさと高揚感のある番組だった。
寄せられたメッセージの中に、町内のリスナーから届いた「ツールド東北参加者の色とりどりのコスチュームできれいな虹が被災地にかかっています。涙出る、感謝」という言葉があった。被災地を鮮やかなウェアで駆け抜けていく1300人のライダー、それを伝える地元ラジオ、全国からツイッターで応援する人々……。自転車とラジオ、ソーシャルメディアの相性の良さを改めて感じた。

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●エピソード5・再会
ドラマ「ラジオ」の芸術祭賞受賞理由は「被災者の思いを正しく伝えるとはどういうことか。この難題の答えを丁寧かつ前向きに模索している」というもの。感性の鋭い少女が「絆」という言葉の欺瞞や親しい人を津波で失った悲しみを、ラジオというメディアを通して町の人や町を離れて都会で働くリスナーに見守られながら越えていく。
小さな町でお互いの境遇をそれとなく知りながら、ラジオやSNSで言葉を交わし支え合う温かさが女川さいがいFMにはある。私は2011年秋に女川町でボランティア活動をしていた際に出演させていただき、番組中「出演なう」とツイッターでつぶやいたところ、リスナーの方々とのつながりができた。以来、小さな女川が私の中にあるような気持ちがしている。
「ツール・ド・東北」にもたくさんのドラマを持った人たちが参加した。そして自分の力で被災地を走ることで、新たなドラマが生まれ広がっている。
大会から20日後、モノノフ自転車部のメンバーが女川さいがいFMのスタジオを訪ねた。その日のブログに大平君はこう書いている。
「最初は大嫌いで早く出て行きたかった女川町。。でも町民の方々とエフエムを通してたくさん話すようになり、人の温かさに触れて大好きに変わった女川町。。。忘れていた笑顔を取り戻してくれた女川町。。。全部いい経験でした。後輩達にももっとラジオを、人との繋がりを楽しんで欲しい」「ほとんど震災でなくなってしまった町で、なくならなかったもの。いくら波が大きいと、流されなかったもの。それに後輩たちが気付けた時、自然に答えは見つかると思います」
「ツール・ド・東北」とラジオを通して生まれたドラマは、来年も続編が更新されていくことだろう。タイムライン上でそっと見守りながら、その先に本当の復興が見えてくる日を信じていたい。

 

中島みゆき(なかじま・みゆき)
新聞記者。経済部、学芸部、デジタルメディア局などを経験。9.11後にネット上の声を集めた「非戦」(坂本龍一監修・幻冬舎)編集に参加、デジタル時代のメディアのあり方に関心を持つ。05年11月、全国紙で初めてブログ機能を取り入れた双方向の読者サイトを設立。5年間、管理人として読者との対話にいそしむ。10年、全国初のツイッター連動新聞を発案。初期の「中の人」を務めた。同年4月から慶応義塾大学メディアコミュニケーション研究所非常勤講師。名前は本名ですが「地上の星」への道は遠いような…。家族は熊のような息子が一人。前川センパイは学芸部時代の取材先です。

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