日テレがHuluを買収!その影響とリスクは・・・
私のタイムラインは、今日は午前中からこの話題でもちきりです。
Huluの日本市場向け事業を承継し定額制動画配信に参入
~Huluの作品ラインアップも大幅強化~
http://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/757.html
日本のHuluに関するお知らせ
http://blog.hulu.jp/2014/02/28/hulujapan/
話題の中心はやはり「なぜ売った?」と「なぜ買った?」です。
この切り口の記事もさっそく登場しています。
日テレがHuluを買う理由 Huluが日本事業を売る理由
http://www.huffingtonpost.jp/2014/02/27/hulu-nippon-tv_n_4870897.html?utm_hp_ref=tw
この記事の中では、Hulu日本の状況に関して
『(NTTドコモの)dビデオはすでに約450万人の会員を獲得しており、日本の定額制VODとしてかなり影響力が強くなってきました。ソフトバンクのUULAも100万契約程度あります。Huluの会員数は未公表ですが、それらよりかなり少なく、数十万契約以下とみられています。』と数字を分析しています。
確かにこの数字が正しいとすると、なかなか厳しい状況ですね。
売る側の理由は何となくわかるような気もします。
では、買う側はどうなんでしょう。
日テレは在京キー局の中でも、最も積極的なメディア戦略をとっています。それは、JoinTVやwizTVなどに現れており、一昨年、昨年と、IT企業を招いて大々的に開催されたJoinTVカンファレンスでも見て取れます。
日テレは今年1月にもアニメ・プロダクションのタツノコプロ買収を発表しました。
http://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/755.html
これは今回のHulu買収の布石でした。
日テレはフジテレビやTBSに比べ、ドラマの放送枠が少ないのです。これが何十年も積み重なると、アーカイブとして持っているコンテンツ数、つまり商品の数が圧倒的に違ってきます。
動画配信をビジネスにする場合、どれだけ商品をそろえられるかが重要なカギになるのです。Youtubeやニコニコ動画は、商品がないので投稿動画を集めました。
日テレはHuluを買収しても、そこに並べるコンテンツが少ないのを補うために、ネット上で人気のあるアニメ・コンテンツを持つタツノコプロを買収したと見てもいいでしょう。
とても一貫性のある戦略です。さすが日テレ!
本格的な動画配信プラットフォームを民放の中で初めて手に入れたことになり、その運営ノウハウや、ログデータなどの利用方法など、様々な知見を一気に獲得できます。これで動画配信ビジネスにおいては、他局を大きく引き離すことになります。
ただし気になるのは他局の考えです。
今、Huluには、TBSとテレビ東京、それにNHKが番組を供給しています。日テレは、Hulu買収後もこれらの番組配信は続けると言っています。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1402/28/news081.html
しかし、番組を供給している側が、Hulu(つまり日テレ)に対しても番組提供を続けるかは不明です。
供給側の立場に立って考えてみましょう。
確かに、Huluの市場規模は魅力です。特にTBSは自社サイトでの番組配信は行わず、他の動画配信サイトに売るという、卸売りスタイルをとっています。つまり、どこでもいいから、売り場面積が広い方がいいという考え方です。この考え方のままいくなら、たとえ他局のサイトであろうが番組が売れればいいということになり、番組提供は続けるでしょう。
しかし、よく考えてみると、日テレのプラットフォームで番組を配信した場合、それを視聴するユーザーのログデータは全て日テレのものとなってしまいます。
ユーザーのログデータは、どんなユーザーが、どの番組を見たのか、どこで見るのを止めたのか、どんなキーワードで検索したのかなど、マーケティング上、非常に価値のある、いわゆるビッグデータです。このデータを、Twitterなどのデータとクロス解析すると、様々な情報がわかります。つまりTBSのドラマの強みも弱みも全て日テレに握られてしまうことになるのです。
これまではHuluという放送局ではない企業が配信していたので、ユーザーのログデータが利用できないだけでした。しかしこれからは、他局が利用してしまうのです。
それでもTBS、テレビ東京、NHKは、Hulu(つまり日テレ)に番組を供給するのでしょうか。
仮にTBSが番組供給をやめるとすると、どうなるか。こんな記事がありました。
TBS作品3,000本追加へ。日本のコンテンツを強化するHuluの狙い
http://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/20131101_621962.html
この記事によると、
『TBS関連のコンテンツは1日時点では250作品が配信開始となり、今後順次追加することで、合計3,000エピソード以上となる見込みだ。約14,000本であったHuluのコンテンツの中に、3,000本が追加されるというインパクトは大きい。』とされています。
仮にTBSが作品を引き上げるとすると、その穴を日テレが埋められるのでしょうか。前にも書きましたが、週5枠のドラマ枠を持つフジテレビやTBSに比べると、週2枠しかない日テレは、売る商品数が少ないのです。
またポケモンなどアニメというキラーコンテンツを多く出しているテレビ東京も、NHKも提供を止めるとすると、さらに大きな穴になりますが、日テレはそのリスクをどれだけ見込んでいるのでしょうか。
もしかすると、裏で話がついているのかもしれませんし、日テレの強いバラエディー番組の供給もするのかもしれません。どちらにしてもこの日テレによるHuluの買収、この先まだまだいろいろありそうで、要注目です。
<お断り>
私はTBSの人間ではありますが、この案件に関しては、全く知りませんでした。またこの先、TBSがどうするのかについても、全く知りません。この件に限らず私は、本社であるTBSの具体的なプロジェクトや案件については、できるだけ耳に入れないようにしています。知ってしまったら、その件に関しては書けなくなってしまいますから。
氏家夏彦プロフィール
TBSメディア総合研究所代表、「あやとりブログ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュースの副編集長)・バラエティ番組、情報番組のディレクター&プロデューサー・管理部門・経営企画局長・コンテンツ事業局長(放送外事業…インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)
2010年現職(株式会社TBSメディア総合研究所 代表取締役社長)
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