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20145/23

勝負に勝つ人、負ける人

4月7日、渡辺喜美氏がみんなの党代表を辞意することを表明した。同党所属議員の事務所宛てにfaxを送った直後に会見を行った渡辺氏は、まるでその直前に誰かと格闘したかのように髪が乱れていた。
渡辺氏といえば、耳の上を刈り上げたツンツンヘア。夫人のお気に入りのタレントを真似ているとの話だ。同党の所属議員には「もう若くないんだから」と、評価は芳しくない。
その渡辺氏が憔悴しきった表情で会見に挑んだ。白髪混じりの乱れた髪は、ここ短期間で、一段と年老いたイメージを与えている。政治生命の終焉を暗示しているのか。いや、そうではない。危機にある動物がその本能で自己を小さく見せて守るように、政治生命を保持するための「自虐」のように見えた。

 

自己保存本能のゆえだろうか。危機に陥った人間がイメージを変えようとすることはままある。たとえば1998年、当時「首相にしたいナンバーワン」とのスキャンダルを週刊誌で報じられた女性キャスターのケースだ。
「テレビの仕事は一般と比べて、入るお金の桁が違うのよ」
周囲にそう吹聴していた彼女のファッションは、胸のあいたキャミソールに白いジャケット、それに身体にフィットしたタイトスカートという、当時の典型的な「できる」キャリアウーマンタイプだった。髪はアップでまとめ、ヌーディーメイク。ただしファンデーションはきちんと塗り、多めのグロスで唇を光らせるなど、手抜きはなかった。
それがスキャンダルが報じられ、テレビの仕事がなくなると、彼女の様子は一変した。ある時に見た彼女のいでたちは、襟のつまった地味なロングのワンピース。髪は降ろし、一部を後ろで束ねていた。
要するに1世紀前の英国の中流階級の貞淑な女性のイメージ。言い換えれば、保守層が好みそうなファッションである。外見の好感度を上げることでスキャンダルから自分を守ろうという彼女の意図が見えた思いがした。

 

数年後、全く同じ光景を目撃した。2003年に自民党衆院議員が大手人材派遣会社から1億円以上の献金を受けたものの、収支報告書に記載せずに、政治資金規正法違反で逮捕された事件があった。同時に女性の政策秘書も逮捕されている。
この女性秘書は派手なファッションで永田町でも有名だった。旧議員会館のエレベーターで乗り合わせたことがあるが、華やかなローズ色の口紅を付け、原色のミニスカートといういでたちは、とっくに過ぎ去ったバブル期のファッションを彷彿させた。
ところが逮捕され、裁判所に出頭となると、彼女のいでたちはがらりと変わる。
髪を下ろし、お化粧は薄め。そして着ているのはギンガムチェックのイギリスの田舎風の地味なワンピース。前述した女性キャスターと重なっている。公判が開かれた日のお昼、彼女は裁判所内の待合室にかつて仕えていた議員と一緒に現れた。そして支持者ら数名がいるとわかると、2人はぱっと離れて座った。元議員は支持者らと話し、彼女はそれをおとなしく眺めていた。その姿からはもう、元首相らを使って選挙に出馬し、政治家を目指した野心は見えなかった。

 

渡辺氏、元女性キャスターそして元女性秘書は自己保身しようとした例だが、いずれも成功したとはいえない。執筆段階で渡辺氏は代表辞任会見以降、国会に全く来ていないし、2人の女性は事件以来、永田町から永遠に姿を消した。

 

ところが最近、興味深い例を見た。STAP細胞の論文をめぐる問題で4月9日に会見した小保方晴子氏だ。
今年1月28日、理化学研究所の若きユニットリーダーとしてSTAP細胞を発表した時、彼女のファッションが目を引いた。お気に入りのブランドはヴィヴィアン・ウエストウッド。パンクロックの始祖といえるセックス・ピストルズをプロデュースし、アヴァンギャルドをモットーとする。小保方氏が指にはめていた大きな指輪が話題になったが、これも同ブランドの製品だ。
だが4月9日の会見では、彼女はイメージをがらりと変える。
着用したのは濃紺のプレーンなワンピースに真珠のネックレス。ヘアスタイルはほぼ同じだったものの、頭頂部の「盛り」が若干と低くおとなしめ。お化粧も1月の会見よりは控えめな色合いだ。ただしファンデーションはよりしっかり塗りこめられていた。
エクステも外されていたようだ。最近の若い女性のお化粧のトレンドは「眼力」で、典型的な日本人の眼ではそれが足りない。そこでエクステや付け睫毛が流行するのだが、これらは一度付けるとやめられなくなるという。エクステや付け睫毛がなかったら、「自分の顔ではない」と思う人もいるらしい。
推察するに、4月の会見は小保方氏自身の意向というより、彼女の母親などが中心になって「イメージ戦略チーム」が組まれていたのではないか。この時はNHKを始めとして民放各局も実況中継するなど、注目度は高かった。下手すると全国民を敵にまわしかねない。周到に準備が整えられ、小保方氏はその「筋書き」に従って自分の趣味を引っ込めたのではないか。
「アイメイクを薄めにしたのは、涙を流す予定があったからだろう。みえみえだ」 女性からはこんな声が相次いだが、男性には小保方ファッションはおおむね好意的に受け取られた。今後も彼女のSTAP論文について色々と問題が出てくるだろうが、世論の一部は彼女を擁護するだろう。

 

ではどうして小保方氏は「成功」し、元女性キャスターと元女性秘書は「成功」しなかったのか。
それは動機の違いだろう。小保方氏は勝負に出たが、元女性キャスターと元女性秘書は勝負に出ていない。もちろん心中ではチャンスがあれば復活したいと願っていたに違いないが、まずは嵐が過ぎ去るのを待とうとした。その間に、後ろ髪のない運命の女神が通り過ぎてしまった。
そうした例は永田町に数多ある。みんなの党の代表を辞任した渡辺氏も同じだ。隠れ家として使用していた平河町の高級アパートメントホテルを解約し、渡辺氏は現在自宅に引きこもっていると聞く。永田町不在が長引くほど、政治家の力は低下していく。みずから政党を立ち上げ、天下獲りの夢も見た渡辺氏。先達の例から何も学ばなかったのか。

 

 

安積明子 プロフィール

兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。 平成6年国会議員政策担当秘書資格試験合格。 参院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動開始。「 歴史は夜つくられる 「佳境亭」女将が初めて語った赤坂「料亭政治」の光と影」( 週刊新潮)、「竹島動画バトル、再生回数で日本が圧倒」( 夕刊フジ)、「五輪インフラにも影響、深刻な建設の人手不足」(週刊東洋経済)など、各媒体で多くの記事を執筆している。

 

 

 

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