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20125/28

トラフィック囲い込み」至上主義からの脱皮

平成17年当時、私はヤフーにいてニュースのコンテンツ調達を担当していました。ヤフーを筆頭に大手ポータル、新聞・放送の各メディアなど、一部を除き「外部リンク禁止」によるトラフィック流出の抑制を実施、「一度アクセスさせたら外へ逃がさない!」的な考え方が当たり前だった時代です。
当時の事情を振り返ってみます。

この頃、ヤフーはトピックス・ニュースへのアクセスが好調で、4半期毎の売上げは前期比20%以上の成長を続けるなど、正に“留まるところを知らない勢い”であったと記憶しています。
このように順風満帆に見えたヤフー・トピックス・ニュースですが、ニュースは極めて他力本願なコンテンツ。事件や事故があればアクセスは増大しますが、その数字を事業計画の見込みに入れることはできず、大きな出来事で未曾有のアクセスが集中した四半期には次期の計画を立てるのに一苦労。それらを補間する為に、平常時の滞在時間向上や他サービスへのトラフィック誘引などの横展開に必至でした。つまり、トラフィックをyahoo.co.jpドメインから逃がさないというルールだったのです。
丁度その頃、電通新聞局が「ヤフー一人勝ち」状態に苦言を唱え始めました。彼等の言い分はこうです。「地方紙が売れなくなったのはヤフーのせい!」「共同通信はヤフーにコンテンツを提供するな!」「ニュースソースを安売りするな!!」・・・。自社で取材・編集権を持たないポータルにとってこれは一大事です。
確かに、若い人たちの新聞離れは加速していたし、当時既に4000万人を超えた国内インターネットユーザーの殆どが、1日1回はヤフーを利用していると言われ時代です。多くのユーザーがヤフーで事足りてしまう状況であったことは否めません。また、当時のニュース・コンテンツ売価がメディア側にとって安かったのも事実でしょう。
ヤフーとしては売上げを伸ばしたい。当然ながら一度得た利益は確保し続けたい。一方で、コンテンツを安定確保する為には調達コストを見直さざるを得ない。・・・
当時、我々は強大なトラフィックを抱え込むことができる門外不出のyapache※1なるサーバ技術を誇示。「ヤフーにコンテンツを提供していれば安心です!」と、コンテンツ提供元にアピールしたものです。兎に角、あらゆるトラフィックをヤフーに集中させ、全てを抱え込むという発想。
当時、四半期発表会での宮坂さん(現、CEO)の大演説でも「滞在時間をX倍に増やそう!」がスローガンでした。これは、当時のサイト運営手法そのものと言って良いほど、多くのポータル、メディア、大企業がバイブルとした考え方です。

しかし、この頃既にブログやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などのCGM※2が台頭し始め、コンテンツ・アグリゲーション的な発想で全てを一局集中させることに限界が見え始めた時期でもあり、欧米でヤフーを凌駕しはじめていたGoogleが日本国内でも勢いを見せ始めた頃です。

Googleの発想は当時のヤフーと全く異なるもので、トラフィックを抱え込まず、インターネットの入り口とも言えるサーチエンジンにだけトラフィック集約させ、そこから先はリンクと共に広告も飛ばすという手法です。この方法だとポータル側にコンテンツを預ける必要がなくなり、メディアがコンテンツを完全に管理できるわけですから、一見有利にも見えます。この方法で得たトラフィックを自社サイト内で最適化することで滞在時間アップを図ろうというものです。

ところがこの方法には大きなリスクも存在しました。
自社保有広告枠とGoogle Adsense※3枠を共存化させる必要が生じ、結果的に大量の広告在庫を抱えなければならなくなるケースが発生したこと。もう一つは、大きな出来事でトラフィックが集中した際、瞬間最大風速にサーバが耐えられず“落ちて”しまう現象が頻発するようになったことでしょう。
広告モデルを掲げる以上、サーバダウンは絶対に避けなければなりません。その為に、危機管理的要素の強い設備投資を強いられるケースも多々あったようです。因みに、Adsenseでは、アクセスが無ければ当然収入も入りません。これに比べて、コンテンツ買い取りタイプのヤフーモデルでは、アクセス数に関係なくコンテンツ提供料が支払われますので、安定した収入がコンテンツ提供者にもたらされています。

これは余談ですが、ヤフースタイルが支持された背景には日本の特異な市場性もあったと思われます。
欧米ではアクティブ志向の人が多く、目的意識をもってインターネットを利用する人が殆どであると言われるのに対して、日本人にはパッシブ志向のユーザーが多いと言われます。プッシュされてくる情報に対して反応しやすい傾向にあり、“なんとなく”ネットにアクセスし、回遊するうちに目的を探し出すという行動パターンのユーザーが大半です。

ヤフーの成功は、この法則を取り入れたからでしょう。つまり「ヤフーに行けば何かみつかるだろう」的なニーズに対して、フル・メニューで答えてくれる「デパート」のような存在。当時ヤフーは「ニュース・スタンドになろう」としていました。
駅の売店に各社の新聞が並んでいるように、ユーザーが自由にニュースを手にできる・・・。そんな発想です。

それに対して、Googleは「検索する」即ち、辿り着きたい場所が明確なユーザーには極めてシンプルなサービス。コンテンツ提供者はSEO、SEMをキチンとやっておきさえすればユーザーからリーチしてくれる。Googleはサーチエンジンという巨大な案内板を提供することで、ユーザーとコンテンツ提供者の仲を取り持つ存在になり、三者の間にはWin-Win-Winの構図が成り立つという考え方でした。

実はこの発想がweb2.0 以降のインターネットに大きな波をもたらすことになります。また近年、日本のネットユーザーの行動パターンにも変化が見られるようになり、若年層を中心にGoogleへの支持率が高い傾向にあります。

2007年頃より、ブログ、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)が台頭し始めます。それまでのウェブサービスは、一部のCGMを除いてメディアやマーチャントから発せられる情報へアクセスするという利用方法が殆どでした。
特に日本では、web2.0でユーザーによる情報発信が盛んになりブログが大ブレイク。一日当たりのブログ記事投稿数も200万ページを超える事態になり、インターネットユーザーの20人に1人が、毎日何らかのメッセージを発信するという信じられない時代に突入します。

時期を同じくして、Youtubeが大躍進を開始、投稿動画がエンターテイメントになるということをいち早く実証しました。日本でもニコニコ動画がサービスを拡大させるなど、メディアによるテキストベースのコンテンツが殆どだったネットエンタメの分野でも、投稿動画に主役がとって変わるなど、猛スピードでトレンドが変貌した時期です。

こうなってくるとトラフィックの抱え込みは一段と難しくなり、コンテンツ一局集中型のビジネスモデル自体が成り立たなくなると予想するコンサルタントが現れ始めます。即ち“Win-Win-Win”となる相互関係がネットビジネス・プレーヤーにも求められる時代が到来したのです。
この傾向は2005年頃から徐々に始まり、当時ヤフーでもコンテンツ調達方法やCGM※3との向き合い方などについて連日議論を重ねていました。

2005年に電通が従来型マーケティング手法のAIDMA改め、AISAS(「Attention(注意)」「Interest(興味)」「Search(検索)」「Action(購買)」「Share(情報共有)」)を提唱。プロセスは至って明解、今風の言葉に置き換えると、注意をひき、興味をもたせ、ググらせ、買わせ、つぶやかせる・・・という行動パターンです。この訴求パターンはリアルに於ける購買行動にも大きな影響を与え、価格コム、@コスメ、食べログなど、この時期以降に成功したサイトは、ネットからリアルへ導くのにこの手法を採っています。

一方で、既にアメリカではMySpace、Facebookがユーザーを増やし始め、国内でもミクシー、グリーといったSNSが拡大し始めました。これらは、縦、横の人間的な繋がり(ソーシャル)に於いて形成され、クローズドなサービスを特長としています。
その為、サーチエンジンで検索してもリーチしません。その代わりに、お互いの顔が見えるのでコンテンツに対する信頼度が高く、ユーザー相互の関係性も密であると証明できます。

SNSとは逆に信頼関係よりもレスポンスを重視し、情報の伝搬スピードが恐ろしいほど速く、大勢に瞬時に情報を伝えられる仕組みとしてTwitterも台頭しました。
最初Twitterは140文字のミニブログというカテゴリに分類され、PCに向かって時間を掛けて構築するブログ記事に対して、「つぶやき」レベルの短い文書を発信。マルチデバイスなところがフォーカスされたため、スマホなどのモバイルからの利用者が急増するなど、一気に広がりました。既にマスメディア以上の影響力を持つとも言われています。

何れも、情報をシェアするという発想を持っており、それぞれが巨大化した現在も、トラフィックを留め置くというようなことはしていません。やはりそこにはWin-Win-Win的な思想が見えてとれます。

因みに、TBSは今でも外部へのトラフィック流出を禁じています。
簡単に言えば外リンク禁止です。
考え方としては間違っていません。そこに集まったトラフィックは“封じ込めた方がよい性質”だから、と言った方が正しいかも知れません。テレビの視聴質※4と同様、ネット・トラフィックにも質があるようです。

実は氏家編集長より「“あやとりブログ”をリニューアルしたい」との相談を頂戴した際、外リンク禁止が運用上の妨げになっているので、別ドメインで構築したい旨を伺いました。“あやとりブログ”の読者=TBSウェブサイトの訪問者で無いことは案に想像がつきます。
実際、TBSドメインからのトラフィック流入は多くありません。
また、“あやとりブログ”の読者となるオーディエンスのトラフィックは「シェアと共感の連鎖」によりフィードバックをもたらすと考えられます。
そこで発せられるキーワードにオーディエンスを反応させるこができれば、後はパンデミックな広がりを待つだけ。
一番簡単な方法はTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアとの連携によってトラフィック交換を活性化させることでした。

これを実現させるためには、TBSドメインから離脱する以外に方法は見つかりませんでした。

トラフィック交換とは、即ち、自らトラフィックをソーシャルメディアに吐き出し、「シェアと共感の連鎖」によって増幅された情報を、再びトラフィックとして帰還させることを意味します。

 

※1“apache”をヤフージャパン専用にモディファイしたとされる、webサーバ技術。
※2 Consumer Generated Mediaの略。ユーザーが投稿することによって形成される媒体。
※3 Googleが提供するレベニューシェアタイプのインターネット広告商品
※4 テレビ番組の質、視聴者の質、視聴の質などの数値化が期待されている。

“ayablog.jp”の誕生

新生“あやとりブログ”の右カラムには、今Twitterでつぶやかれている“あやとりブログ”に関するストリームを表示させることで、オーディエンスと記者ブログを繋ぐことを試みました。これにより、どんなトピックがネットオーディエンスに刺さっているかが可視できるものとなっています。
また、記事に設置されたTwitterボタンをクリックすると記事タイトルが簡単にTwitterストリームに流れますので、広がりの切掛け(シェア)を簡単に作り出せます。
更に、Facebookアカウントを使ったソーシャル・ログイン機能を実装することで、オーディエンスがコメントで実名参加できるようにしました。
これは、無記名でのコメント荒らしも防止できる他、ポジティブな意見も、ネガティブな意見も、Facebook上のウォールを介して前向きに語られます。つまり、ネガティブな意見が「前向きに」に語られることによって炎上を防ぐ効果が期待できます。
これは、Facebookの“いいね”がポジ・ネガ両方に作用することを逆手にとっています。
また、Facebookへの記事シェアでは、リコメンダーの顔が見える為に共感が得やすく、類似属性を持つユーザー同士が“いいね”ボタンを押す傾向があり、更にそこからTwitterなど他のソーシャルメディアにシェアされることも考えられます。

これらの効果は覿面に現れ“新あやとりブログ”移行後、アクセス数は飛躍的に向上、日によっては従来の100倍を超えるページビューを記録するようになりました。

実は“新あやとりブログ”で実行したことは、極めて単純なことでした。トラフィックを溜め込むのではなく、外に出して更なるトラフィックの呼び水を作り出すという「今風」の方法に過ぎません。

話を元に戻します。
ここ数年Facebookが世界的にブレイクしていることは誰しも認める事実。そもそもFacebookはクローズドなソーシャルメディアで、トラフィックを外に出す必要はありません。
しかし、FacebookはAPIを公開しアプリを介して様々な外部連携による機能拡充を進めることで、ユーザービリティの向上を継続しています。

かつてのヤフーがトラフィック至上主義をかざし、あらゆるコンテンツをアグリゲートしてきたのとは真逆に、ユーザーが欲しいものをユーザー自身が自由に持ち込み、勝手にシェアさせるという手法を採っています。
飲み屋に例えるなら、「ボトル持ち込み自由。グラスと氷は提供しますよ! だけど、お腹を壊しても責任はとりませんからね。」的な発想でしょう。お客は気をよくして、どんどん友達を連れてきてくれる。・・・・「ここに来るならキチンと名前を名乗ってね」というルールさえ守れる人ならウエルカム。これがFacebookなんだと思います。

現在、大企業、マスメディアの殆どがFacebookページを有し、ユーザーが気に入れば、「いいね」を押しておきさえすれば最新の情報が自分のウォールに表示され、鬱陶しく思ったら「いいね」を取り消せばよい。極めて単純な構成です。

私の場合、気になるニュースをアグリゲートするFacebookページを作って自分のウォールに表示しています。自分が作ったニュース・アグリゲートページをいつの間にか友達が「いいね」押して使ってくれていたりします。

YoutubeやTwitterも同様にAPIを公開、他サービスとの連携に積極的です。何れもコンテンツ調達コストが発生しないCGMサービスであるところがポイントです。トラフィック抱え込みを続けるサイトの多くは、コンテンツ調達にコストを掛けているところということでしょう。お金を掛けて集めたトラフィックは、やはり逃がしたくないということなのでしょう。

実はヤフーもメディアも、コンテンツ調達にコストを掛けていることにお気づきでしょうか。
ところがヤフーは近年、トラフィック囲い込みから脱却しつつあります。
かつてのヤフー・ニュースでは「外部リンクなど以ての外」でした。
それがここ数年の間にソーシャルボタンを追加したり、記事見出しから外部サイトへのリンクアウト、宮坂学CEO体勢移行後は「爆速」をキャッチフレーズにFacebook連携を強化するなど、ヤフーは大きく変わりつつあります。

新聞や通信社のサイトではコンテンツバリューの低下にも繋がりかねず、トラフィック・アウトに対して慎重姿勢。一部には比較的に早い時期からソーシャル連携を実現している新聞社もみられ、一概にどちらが正しいとは言えないのも事実。そんな最中、フジテレレビがYoutubeとパートナーシップ契約を締結したことが最近話題になりました。
大事なことは、ユーザー(オーディエンス)も含めた“BtoBtoC”に於けるWin-Win-Winなモデルを構築することなのか、と思います。

 

田渕聡 プロフィール
元ヤフー ニュース・メディア プロデューサー。
2005年、TBSと「世界陸上特設サイト」を配信。ヤフーにとって初のメディアコラボレーションを実現。その後、複数のITベンチャーの立ち上げに参画。現在、TBSディグネットのメディア・プロデューサーとして「あやとりブログ」「みんなのメイクTV」を担当。

 

 

 

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