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20127/27

オリンピックと録画

ロンドンオリンピックが始まった。
始まる一週間前の土曜日(7月21日)、TBSラジオの『久米宏 ラジオなんですけど』(13時~15時)で「オリンピック嫌いなんですけど」というなかなか刺激的な企画をやっており、ついつい聴きこんでしまった。白眉は、コラムニストの小田島隆への電話インタビュー。小田島氏のオリンピックが嫌いだという理由がフルっていた。「絵はいいんだけど額縁がよくないんですよね」。2人とも嫌いとはいいつつ、(かなり熱心に)TV観戦してしまうようだ。

ところで、『調査情報』の最新号「オリンピックと日本人」で、元NHKのスポーツプロデューサー杉山茂氏(日本の放送界で、いちばんオリンピックを知悉している人と言えばこの人だろう)が、意外な事実を明らかにしてくれている。ビデオテープによるオリンピック映像の録画配信が始まったのは、1960年のローマ大会からだったのだ。NHKに入局したばかりの杉山氏は、羽田に空輸されたテープを受け取りに行くのが役目だったそうだ。

つまりローマ大会はビデオによる映像が商品化された最初の大会だったということ。
「ズシリと重たいアルミニウムの箱にオリンピックが詰まっていた。開けば、ラジオと新聞が伝えていたレースや試合が焦げ茶色のテープから映し出された」と杉山氏は記しているが、当時のビデオテープは2インチのオープンリールでテープ自体も相当高価なものだったはず。

僕の浅はかな考えでは、少なくとも東京大会以前の映像記録はフィルムによるものだと思っていたから、この事実には結構驚いた。なぜそう思い込んでいたかというと、ローマ大会は1960年。それから18年後の1978年に僕はTBSに入社したのだが、その当時はニュースの取材用にまだフィルムが残っていて研修ではフィルムカメラマンに付いて取材先を回ったりした。フィルムカメラが取材現場からなくなったのは1980年になってからではなかったろうか・・(氏家さん、そうですよね)?

放送の技術はオリンピックをひとつのベンチマークとして発達してきた歴史があるのだが、いくらなんでも1960年にビデオ録画とは早すぎると勝手に解釈していた次第。また頭のどこかに、裸足で夕闇のアッピア街道を走るアベベの映像(あれはニュース映画のフィルム由来だったと思う)が刷り込まれていたせいもあるだろう。

さて(すみません実はこれからが本論です)、オリンピックを迎えるにあたって、ようやく地デジ対応の録画機器を買うことにした。恥ずかしながら型落ちのブルーレイ/HDDレコーダである。TV局まわりに籍を置きながら、なんということか思われるかもしれないが、入社以来、結構人よりも速くAVの新商品はフォローしてきたことを自負している。

1979年に、SONYのベータ(当時の売価は30万円近く、割り引いてもらっても20万円以上はしたはず、リモコンはワーヤードだった)を購入、翌年にはVictorのVHS(これも購入価格は20数万円、リモコンはようやくワイヤレスになっていた)、CDプレーヤやレーザーディスクプレーヤも1980年代初頭に商品化されてすぐ手を出した。
ただもともとTVは原則同時間帯ナマ視聴派を通してきたので、タイムシフト視聴うんぬんというより個人的なアーカイブをより充実させるためのといったほうがいいかもしれない。それがいつの頃からかAVの新しい機能を持った製品を買わなくなってしまった。

思い起こしてみると、MDは完全にパス、DVDは再生オンリーでとうとう録画できるものは買わなかった。まあパソコンを録画機と考えれば持っていることになるのだが、スタンドアローンのDVDレコーダは持たずじまい。この変節は何なんだろうか?自分でも驚く。

発展途上国では、固定電話や地上波テレビの普及を経ないで、モバイルや衛星、さらにはWi-Fiの時代に突入してしまう。これまでに先進諸国が培ってきた流儀や作法もときには無視して、「飛ばし」で進んでゆく。そんな「飛ばし」の感覚が自分になかにも起こっているのだろうか。デジタル機器の持つ二面性の怖さのなかには、CMの「飛ばし」ではなくて、こんな機器発達史の「飛ばし」を、いとも簡単に、誰もがそれぞれの時間軸でこなしてしまうからではないだろうかなどということを、ふと考えたりした。

追記というか言い訳;今回、ブルーレイ/HDDレコーダを買ったのは、ダニー・ボイル演出の開会式を、万一早朝に見逃したときの保険です。それに加えて、最近歳のせいか深夜ドラマを見逃してしまうケースが増えていることもあります。情けない。

 

木原毅(きはらたけし)プロフィール
1978年早稲田大学文学部卒業後テレビ局入社。ふりだしはテレビ営業局CM部。その後約20年ラジオのさまざまな現場生活を経て、2000年頃からインターネット・モバイルの部局へ。

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