あやぶろ/OLD

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20133/8

● 神ドラマ「おしん」聖地への旅で考えた日本と世界(河尻享一)

★スマホで写真撮るように書いてます

 つながってます、私のこの3回。よろしければ連作としてお読みいただきたく。

前2回の記事では、まず最近のテレビ番組の中に芽生え始めている(と思う)新しい可能性を考えたのち、「キュレーション」という考え方にもふれつつ、その周囲を取り巻くメディアとコンテンツの接点を、時評風に探ってみました。

つまりホップ、ステップ、ジャンプというか、回を追うごとに、“引き”にしていってるイメージです。引いたりまた寄ったりしているうちに、「違ったテレビの風景も見えてくるかも?」と、スマホで写真撮るみたいな感覚でパシャパシャ書き綴っているエッセイです。

というわけで、今回はさらに引いて引いて、「日本と世界」の構図で激写してみたく。

まずは足下の話から。1ヶ月くらい前、ふらっと山形観光してきました。東北芸工大の今期の講義も終了したのですが、もう2年通ってるにも関わらず、キャンパスと駅前付近しか知らないのもいかがなものか? と思いまして。

で、銀山温泉てところに足をのばしてみたんですね。それには前段がありまして、「山形にある、とある大学で講師をしております」ということを、講義日によくTweetしていたところ、それを見てくださった面識のないある方が、「銀山温泉の○○屋さんっていうとこがいいですよ」とお宿指定で観光をおすすめくださったわけです。

それを見てピンと来るものがあり、「いっちょ行ってみっか!」と思って予約したという次第なんですが……よかったんですよね、また、これが。こういうときは「ソーシャルウェブ、いいね!」と思いますです。

ちなみに銀山温泉は、ガス灯と歴史的建造物のあいまに大正ロマンの風情漂う山あいの湯治場としていまなお人気が高い観光地です。「千と千尋の神隠し」の湯屋っぽい宿々が並んでおり、「モデルなのでは?」という人もいるくらい(ジブリ側はその説を否定とのこと)。

そういう情報も含め、行ってから探索&検索などして色々調べたところ、銀山温泉はその生き様に世界が涙したNHK連ドラ「おしん」のロケ地として一躍メジャーになった“聖地”でもありました。

ginzan

「“銀”のつくモノが僕は好きだ」

★「視聴率90%超え」「番組観れなくて暴動」ってどんなだよwwwww

「おしん」のオンエア当時(1983年)、自分は小学校入ったばかりのガキでした。なので周囲の大人たちに混ざって放送を観たところで、「食いたくねえ~、大根メシとか。オラ、大っぎぐなったら東京さ行くだ」みたいな巫山戯た感想しか持てなかったんですが、いま振り返ると、とんでもない神番組ですよね、これ。

「あやぶろ」お読みの方は、リアルタイムですでにテレビ業界にいらっしゃった方がいる一方で、私のようにその奇跡っぷりをイマイチ知らない若造もいますので、Wikipediaその他の「おしん」の項を参考に、印象的なエピソードやデータ等ピックアップし、5項目にまとめてみました。

1.関東地域での平均視聴率52.6% 最高視聴率62.9%(ビデオリサーチの統計史上、テレビドラマの最高視聴率記録)。

2.スリランカ、インドネシア、フィリピン、台湾、エジプトなど世界66カ国で放送され、「世界で最もヒットした日本のテレビドラマ」ということでいまなお根強い人気がある。イラン国営テレビでは最高視聴率90%超えとも……。カイロでは、「おしん」放送中に停電が発生、番組を見られないことに憤った視聴者が電力会社やテレビ局に押し掛け、投石や放火等の暴動を起こす。

3.ジャマイカでは子供に「おしん」の名をつけることが流行。香港を中心に展開する食品ストアチェーンに「759阿信屋」もある(※作中では主人公がスーパーマーケット業で成功する)。ベトナムでは「おしん」の語がお手伝いさんの代名詞になっているらしい。

4.中曽根康弘氏や田中角栄氏ら、自らの生き様をおしんのそれに重ねてドヤ顔する総理(経験者)および著名人が続出。ロナルド・レーガン大統領(当時)は、来日時に「日本人には『おしん』の精神がある!」と国会で賞賛。胡錦涛前中国国家主席も「日本と言えば『おしん』の印象が強くある云々」と来日前にコメントしたことがある。

5.熱狂的な視聴者が「おしんに渡してほしい」とNHKに多額の金銭を送ってきたり、出演俳優に米を送ったりもした。一方、ドラマ内の配役なのに、物語中でおしんをイビッた役者はリアルに炎上。クレーマーが役者の自宅まで「そんなことしちゃいかん!」と説教に押しかけることもあったようだ。

ちょ……どうなっちゃってたんでしょうか? 現在のテレビのコンテンツ力から言うと信じがたいですね。最近では以下リンク記事のようなプチ騒動もあったりして、「なんだ、観られるものは観られてんじゃん。やっぱ変わってきてるんですね、テレビ視聴のあり方も」と思いましたが。

●TBS「とんび」で騒動勃発!“録画失敗”でシャープに苦情も…食い違う見解(ZAKZAK)http://www.zakzak.co.jp/smp/entertainment/ent-news/news/20130228/enn1302281137007-s.htm

しかし「おしん」の場合、桁外れです。上記エピソード群から推察するに、「おしん」は一テレビ番組(連ドラ)を超えて、いまで言うグローバルな“プラットフォーム性”を獲得していたんじゃないかという気さえします。投石、放火は困りますが、たんに「カンドーした!」とお茶の間が盛り上がるラインを超えて、コンテンツにリプライする形で「ヒト・コト・モノ」がリアルに動きまくっていますから、けっこう“インタラクティブ”ですよね。

このとき「ネットがあったらどういうことに?」の部分はわかりませんが、時代の違いなどを補正して同一座標に並べると、「西のレディ・ガガ vs 東のおしん」と言えそうな存在感にまで、意外と到達してしまってたのかもしれません。

そういえば、今度これ映画化もされるらしいです(10月公開)。「どんな内容なのか?」「なぜ、いま『おしん』なのか?」など気になります。

 

①からの続き

★「働ぐごどは、どだなごどでも苦にはならねえっす」(by おしん)と実は私もちょっと思う

——といったことをツラツラ考えながら温泉入ってたのを、いま整理し直して書いてるんですが、それにしても思うのは、「いま世界でウケる(今後ウケそうな)日本の番組ってどんなもんなんでしょう?」ってことです。「おしん2.0」じゃないんですが、今後成長していくことが期待される芽みたいなものってあるんでしょうか?

過去の神ドラマではなく、今後の輸出にたえうるハイパーなコンテンツが開発できるなら、確実にシュリンクする国内市場に鑑みても、それは可能性を感じるジャンルというか、いまのように円安傾向が進むのであれば、この部門への期待も高まり、そういった試みも一層活性化するのかもしれません。以下のような記事もありました。

●海外で人気の日本のテレビ番組たち

http://www.excite.co.jp/News/column_g/20130227/Cobs_ly_201302_post_3184.html?_p=all

「料理の鉄人」などは人気あるんですね。とはいえ、稼ぎ頭はやっぱアニメとかアキバみたいなそっち系になるんでしょうか。この方面はファン層が限定される傾向もあるとはいえ、神っぽいオーラは依然発散してますよね。

しかし、色々調べてみたところ、日本のコンテンツ輸出は年間約7000億円(経済産業省/2012年)とも言われておりまして、そこにおけるアニメや放送番組のシェアはデカくはないらしい。直近のデータが発見できなかったのですが、約95~97%以上がゲームで、残り3~5%をアニメ、放送番組、映画、音楽で分け合っているようです(以下の記事に詳しい)。

●スマホから8Kテレビまで広がったスクリーンメディアとアニメはどう関わっていくのか(Gigazine)

http://gigazine.net/news/20130206-screen-media-anime-business-forum-2013/

ここで「うーん…」となってUターンすることもできますが、逆にノビしろがあると考えることもできなくはありません。むしろ、このブログでずっとテーマになっている「テレビとネット」なアングルから考えると、前回も引用した氏家さん曰くの「大胆に発想を変える」はここでもヒントです。なぜなら、そもそも“文化”のやり取りは金銭に換算できない、ようは「お金では買えないものがある」的な要素が大きいため、長いスパンで考えて種まきをする考え方もあるわけです。「おしん」はそういった意味でのブランディングのコンテンツとしても、影響力大であったと思わせられます。

つまり、海外の視聴者が子供に「おしん」と名付けたetcのムーブメントがあったからと言って、直接金が動くわけではないのですが、長い目で見ると大事ですよね、そういうの。

で、ネットもそういうとこありますね。ようするに「海外の若者がボーカロイドにハマって歌って踊った」みたいなことは、先に挙げた数字に反映されてないわけです。先にそこに目をつけるのもアリなのでは? とも思います。

そういった“輸出物”の一例として、「TOKYO OTAKU MODE」というFacebookページがあります。これはその名の通りオタク文化のトレンドを英語で発信しているんですが、3月初旬現在ファンが約1080万人ついており、世界的に大人気のさまがうかがわれます。

●Tokyo Otaku Modeが運営するFacebookページが日本人運営ページでは初の1000万Like!を突破(CNET)

http://japan.cnet.com/release/30035713/

●1038万いいね!のTokyo Otaku ModeがYJキャピタル、ITV、DGインキュベーションから資金調達

http://jp.techcrunch.com/archives/jp20130213tokyo-otaku-mode/

たとえ購読者が一千万人いても、現状このコンテンツ(編集モノ)自体からは1円ももうかってないと思われます(今後ショップ開設予定とのこと)。ネットビジネスですから、そこでソッコー大金が動くという話ではないんですね。ヘタに大もうけしようとした瞬間にファンたちが逃げていきかねない、というシビアな環境でもございます。

ごく一部の成功者のみにスポットが当たるので気づきにくいですが、インターネットの世界も、「辛抱に辛抱を重ねて…」といった側面はあるようで、「働ぐごどは、どだなごどでも苦にはならねえっす」(by おしん)なマインドには再びスポットが当たろうとしているのかもしれません。ゴールドラッシュな時代は別として、フロンティアを開拓するときに、「ちょっと耕して実りウハウハ~、メシうまっ!」なんてことは、ふつう無理ですから難しいもんです。

★官民・世代・業界等のギャップひらきすぎワロタ

「TOKYO OTAKU MODE」以外にも、日本の文化ガイド的なFBページやサイトを海外向けに運営されている方は、個人・企業を問わずいくつもあり、あんなにブレイクしたのは珍しいとはいえ、それぞれけっこう人気だったりします。日本に興味ある人はいまも相当数いるってことですね。こういう活動は規模の大小関係なく大切だと思う。

二次元文化に特化したものだけでなく、それこそ銀山温泉なども紹介する観光モノだったりもするのですが、関係者に聞いたところ、どういうものがウケる(「いいね」がたくさんつく)かと言いますと、実は「卵かけご飯」の写真付き記事だったりするそうです。

つまり、「どや!」的ジャパン・コンテンツというよりも、我々がその面白さに気づいていないような、さりげない風俗・習慣が海外の人には新鮮に写る傾向があるとか。「ちょ……寿司が回ってるwwwwww なんてクールなんだ」というアレですね。

とはいえ「おしん」とか「卵かけご飯」とか、そんな話ばかりしていると、「ビンボーくさいヤツめ、けっ!」とか思われてしまいそうな気もしますゆえ話を転じると、同じ文化輸出事業において、大枚の載った皿がすごいスピードでぶんぶん回転してそうな、景気&イキのいいネタ発見しますた!

●クールジャパン推進会議(首相官邸)

http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201303/04cooljpn.html

なんか人選変わった?みたいな気もしたり、詳しいことは知らないのですが、ようはまた始まるんですね。健闘をお祈りしつつもクールというかシュールというか、太っ腹な世界もあるもんだと感心します。各カルチャー分野における“おしん”というかAKBが5つくらい生まれそうだ。まあ、一方でこういう意見もあったりするんですが。

●クール・ジャパン ネットで大不評(R25)

http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20130213-00028285-r25&vos=nr25ln0000001

いやあ、この空間は相変わらず、現代の“おしんたち”が発する怒り、嘆き、呻き、憎しみに満ち満ちてます。こうなったからには私も「大根メシ」と「たまごかけご飯」で頑張ろうと決意を固めた次第です。

というのも、同じコンテンツ業界でも別の方角を見れば、アツいマグマが溜ってきている感もあるからです。つい昨日も「NHN×はてな×デイリーポータルZ@nifty」によるセミナー「なぜコンテンツに面白さが求められるのか」という催しで、司会と海外事例の解説やらせて頂いたのですが、定員150名のところに応募500名という熱気で、それは危機感の現れもありつつ底から何かキテそうな気はしました。

ちなみに銀山温泉は日本有数の豪雪地帯にありまして、今年は特に大変だったんじゃないかと。宿のおばあさんにインタビューしたところ、なんでも黒い雪が降ったそうで、そんなの見るのは生まれて初らしい。確かに積もった雪の層に黒っぽい帯が2本入ってましたが、まさか例のPM2.5の影響ってやつでしょうか? コワいですね~、つながってます、この世界。

 

★プロフィール
河尻亨一(元「広告批評」編集長/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授/HAKUHODO DESIGN)

1974 年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコ など多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現 在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動 を行う。

 

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